福祉分野における横断的なアウトカム指標研究
-主観的QOL尺度の作成と信頼性・妥当性の検討-
○ 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 吉田 光爾 (会員番号7777)
日本社会事業大学 大島 巌 (会員番号228)
仙台白百合女子大学 志水田 鶴子 (会員番号4090)
日本社会事業大学 道明 章乃 (会員番号7349)
日本社会事業大学 贄川 信幸 (会員番号7947)
東京学芸大学 福井 里江 (会員番号6460)
日本社会事業大学 小佐々 典靖 (会員番号5937)
NCNP 精神保健研究所 高原 優美子 (会員番号6862)
早稲田大学 大島 千帆 (会員番号5036)
お茶の水女子大学 平岡 公一 (会員番号560)
キーワード3つ: 《プログラム評価》 《尺度開発》 《主観的QOL》
福祉的サービスを実践した際に、利用者の生活は、実際には多様な側面において向上することが見込まれる。 しかし福祉サービスよって影響をうける利用者の生活もたらされるアウトカムを把握するための福祉サービス共通で利用可能な簡便な評価尺度については必ずしも十分な検討がなされていない。文部科研「効果的福祉実践モデル構築プログラム評価アプ ローチ研究」(略称EBSC研究,主任研究者:大島巌)における福祉アウトカム指標研究班ではこの点に関して利用者の福祉実践関連QOLのアウトカム指標を、主観的QOL尺度と客観的QOL尺度にわけて開発中である。本報告では主観的QOL尺度の信頼性・妥当性の検証について報告する。
2.研究の視点および方法1)尺度の開発
尺度開発にあたっては、知的・精神障害・高齢者など各福祉・障害支援領域の専門家による開発班による検討ならびに、仮案について各EBSC分担班から意見を頂き内容を吟味した。この開発班において、各種の福祉サービスが目的とするアウトカムを整理・分類し、その領域毎に利用者の主観的な満足度・評価が与えられるようにした。なお、作成にあたってはHerth Hope Index、SAMHSA利用者調査、CSQ-8などを一部参考にした。
2)尺度の妥当性の検討方法
尺度の妥当性を検証するため、EBSC研究班に参加している就労支援事業所15ヶ所(144人)、退院促進事業19ヶ所(50人)、また厚生科研『障害者ケアマネジメントのモニタリングおよび プログラム評価の方法論に関する研究』における相談支援事業所18ヶ所(61人※短縮版 )等、各福祉系サービスの知的障害・精神障害をもつ利用者に協力を得、無記名で回答を得た。また、再検査信頼性のデータに関しては、6福祉事業所(25人)から2週間の間隔をあけて、同一アンケートを実施した。
日本社会事業大学倫理委員会による承認(2009年)を得て実施した。
4.研 究 結 果1)開発された尺度の構成
利用者が自記式で回答する簡便な質問紙(A3裏表で1枚)を作成した。本尺度は、福祉サービスの提供により改善が期待される13の下位領域から成り、各領域の合計点を算出し主観的QOL尺度総点とする。
下位領域
:A)日常生活,B)ソーシャルサポート,C)住環境,D)日中の過ごし方,
E)経済的問題,F)家族関係,G)精神的・身体的健康,
H)安全の保持・差別に関する項目,I)生活の統制・コントロール感,
J)自己効力感・自尊感情,K)問題に対する対処意識,L)生きがい・希望,M)サービス満足度
2)尺度の一貫性について
Cronbachのα係数は0.94であり、本尺度に高い内的一貫性があることが確認された。
3)尺度の再テスト信頼性について
2週間のスパンを空けた再検査法による信頼性係数は0.92であった。
4)尺度の内容的妥当性
各種領域の専門家による検討・吟味を重ね、福祉サービスによって影響のある領域を整理しかつ評価しうる文言を検討したため、尺度の領域・質問構成については一定の内容的妥当性は存在すると考えられた。
5)尺度の併存妥当性
「全般的な生活満足度」(5件法)と本尺度得点のピアソンの積率相関係数はR=.659 (p<.000)であり、利用者による全般的な生活満足度と、生活全体の質を把握する本尺度合計得点が、高い相関を示していることから、一定の併存妥当性が示されたといえる。
6)尺度の因子妥当性
主成分分析・バリマックス転回により因子分析を行った結果、11の因子が抽出された。この因子構造は概ね尺度作成時の主観的QOLの領域が一致していた。
7)尺度の構成概念妥当性
現在、基礎属性・客観的アウトカムに関するデータ等を追加で入手中であり、学会当日までに年齢やGAF、地域滞在日数など相関をとり検討する予定である。
8)考察
一定の内的一貫性・再検査信頼性が確認されたことから、概ね本尺度の信頼性については確保されていると考える。妥当性については、一定の併存・内容的妥当性は存在すると考えられる。因子妥当性については、概ね尺度作成時で分類した領域に分かれた因子構造をもっていることから、当尺度が利用者の生活の多様かつ独自の領域を包括的に評価・把握しうることが示された。