精神障がい者家族会の活動に関する報告
-都道府県精神障がい者家族会連合会へのアンケート調査の分析を通して-
○ 法政大学 伊藤 千尋 (会員番号7048)
清和大学短期大学部 若林 ちひろ (会員番号7491)
キーワード: 《精神障がい者》 《家族会》 《要望書》
精神障がい者の地域生活において、家族は精神科治療やリハビリテーションへの協力、経済的な支援といった様々な支援を担い続けている。家族は自分たちだけで支援を担うことに限界があることを認識しつつ、乏しい社会資源を補完する役割を担っているのである。
これらの状況は、家族に過大な負担を強いるだけでなく、精神障がい者本人の側からみても、家族が支援を担えない状況になったとき、これまでの生活を維持していくことに困難が生じるということでもある。安心して、精神科治療や地域生活を継続していくためにも、家族に依存しない施策やシステムを早急に整備していくことが求められている。
本研究では、精神障がい者・家族の抱えている課題やニーズを把握するため、都道府県精神障がい者家族会連合会の活動状況や自治体に提出されている要望書の内容、それに対する自治体の対応を調査し、家族(会)が求めている支援を明らかにすることを目的としている。
調査対象:47都道府県精神障がい者家族会連合会(回収率100.0%)
調査期間:平成21年10月20日~11月15日
調査方法:自記式による質問紙調査
調査内容:(1)家族会の活動状況
(2)家族会が都道府県に提出している要望書とその回答状況
特定非営利活動法人全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと)の協力を得て、各都道府県精神障がい者家族会連合会に趣旨を説明し、了解を得て調査を実施した。アンケートへの回答への協力をもって同意を得られたと見なした。本アンケートの内容は精神障がい者家族の個別的なプライバシーを侵すものではないが、質問項目のうち、許可が得られた項目のみ分析の対象とした。
4.研 究 結 果
(1)家族会の活動状況
全国の単会と呼ばれる家族会の数は1307であった。この数字は、1995年に財団法人全国精神障害者家族会連合会が行った調査と比べて約1割程度減少している可能性がある。特に病院家族会の数が減少していることが推察される。会員総数は合計で37,456人であった。
(2)家族会が都道府県に提出している要望書とその回答状況
47都道府県精神障がい者家族会連合会のうち、39か所が都道府県に要望書を提出していた。そのうち、提出先より回答があったのは34都道府県で、うち文書で回答があったのは22都道府県であった。
要望書の内容については、KJ法にて分類し、①医療、②障害者自立支援法、③精神障害者保健福祉手帳、④住宅、⑤雇用・就労、⑥広報・啓発、⑦偏見・差別、⑧格差、⑨家族・家族会支援、⑩その他とした。本調査で収集した要望書は平成20年度提出分のため、障害者自立支援法に関する文言が多く見られた。具体的な要望内容と都道府県の回答などの詳細については、発表時に提示する。
総じて、精神障がい者本人への個別支援体制の確立を求める要望が多く見られ、本調査の結果、精神障がい者の地域生活において、家族が支援の中心を担っているという構造が明らかになった。家族が支援を担うことで、日常生活だけでなく、転職や退職、就職活動ができない等といった家族のライフコース上の選択にも影響を与えていることが推察される。しかし、家族・家族会支援に関する要望は少なかった。これは、家族会が専ら精神障がい者の代弁機能を担っており、家族自身に対する支援の獲得を主たる活動目標としてこなかったことを示唆している。今後は、家族そのものを支援されるべき対象として捉え直し、家族の潜在化しているニーズを中心に据えた支援を検討し、実践していくことが求められている。
本調査は、都道府県精神障がい者家族会連合会を対象としており、精神障がい者家族のすべてを反映したものではない。また、家族の生活や生き方は多様で、変化していくものであり、常に家族の実態に即した支援を検討していく必要がある。本研究は平成22年度も継続して行う予定である。今後は家族会へのインタビュー調査を実施し、要望書の背景にある家族の思いやニーズをさらに検証することで、家族自身が支援されるシステムについても検討していきたい。
本研究は厚生労働科学研究(こころの科学研究事業)「精神保健医療福祉体系の改革に関する研究」の一部(分担研究者:白石弘巳)として行った。
本調査にご協力いただきました関係諸氏に深く御礼申し上げます。