ポスターセッション家族福祉  森 和子

養子であることを理解するプロセスと家族への支援
 -就学始期までの2年間にわたる真実告知の記録から-

○ 文京学院大学  森 和子 (会員番号4390)
キーワード: 《養親子》 《真実告知》 《家族支援》

1.研 究 目 的

生まれた時や小さい時の事については、日常の中の親子の会話やアルバムの写真やビデオに撮られた自分を通して 記憶のない頃の自分を知っていく。生みの親と育ての親を持つ養子の場合は、母親のお腹の中にいた時から生まれた時 の事など養親の元にくるまでのことを聞く機会や写真などの資料も少なく自分史について伝えられる情報は少ない。血 の繋がりがない養親子がしっかりとした親子関係を構築するためには、幼少期に「養子である(生みの親ではない)」 という事実と「養親が親であり大切な子どもである」という真実の思いを告げる真実告知をすることが必要であるとい われている。その後も子どもの成長に応じて生みの親などのより詳しい情報を伝えていくことが求められる(Brodzinsky, 1993)。養子は、養親から生みの親についての情報を与えられる事で成育史における連続性の感覚を養う(Kroger,2000) 。この連続性の感覚は青年のアイデンティティの形成過程の原動力となる(Erikson,1968)という。近年、成長に応じ て生みの親のことや養子になったことなどに関連するさらなる情報の提供や生みの親と直接的な交流も行われるように なってきた(Grotevante,1998)。民間の養子斡旋機関で行った調査(家庭養護促進協会,1984;古澤他,2003)では6 から9割の親子の間で真実告知が行われていることが明らかにされている。これらの民間の児童福祉機関を除き、日本 では告げないでおきたいという風潮が根強く残っている。養子縁組の手続きが完了すると児童相談所との関係が終結す るため公的機関を通して行われる養親子間で真実告知が行われているかいないか、また行われている場合どのような状 況で行われているのかなどの実態は明らかではない。その為養子縁組終了後、継続的に実態を追跡した調査は見当たら ない。本研究では、公的機関を通して養子縁組した養母により記録された2年間の真実告知日記から、どのようなプロ セスを経て養子であることを理解し受け入れていくのか、また告知に関して家族が必要とする支援について明らかにす ることを目的とする。

2.研究の視点および方法
対象児:P児 9ヶ月で家庭に迎え、4歳1ヶ月で特別養子縁組成立

P児が4歳3ヶ月時に初めての真実告知を開始してから2年間にわたる養子と養母とのやりとりを養母がつけていた真実告知 日記をもとに分析した。また、養子を迎えることを決心した時点から真実告知をどのように考え準備をしたか、告知後の子 どもとのやりとりの際の養母の思いや子どもの成長に伴って家族にとって必要な支援について聞き取り調査を実施した。真 実告知を行う上でめやすとなる「告知に際して配慮すべき10項目」(Keefer and Jayne E.Schooler,2000)を分析枠組み として用いた。内容1)告知の時期2)伝える言葉3)真実性4)怒りの受容5)約12歳までの情報の分かち合い6)専門家の協 力7)境遇の痛み8)情報の判断9)家族のルール10)子どもの認知度

3.倫理的配慮

研究目的、方法などを調査協力者に説明した上で、文書による同意を得た。調査に関しては、日本社会福祉学会研究倫 理指針を遵守して行った。プライバシーを守るために個人が特定されないようデータには若干の修正を加えてある。調査協 力者には事前に原稿を見てもらって内容の確認と修正の承諾を得ている。

4.研 究 結 果
1)告知の時期(4:3)「Pちゃんはお父さんとお母さん自分が大好き」自己肯定感が高い時期
2)伝える言葉(真実告知)(4:3)「お母さんとお父さんの赤ちゃんを探しているのに見つからなくて探していた んだよ。そしたらね。神様のお使いのおじさん(児童相談所のC.W.)から電話がきて赤ちゃんが見つかりました!赤ちゃん のお家(乳児院)で待っていたんです。すぐに迎えに行ってくださいって言われたんだよ。」
3)真実性(6:2)比喩的な言い方の限界「神様のおばちゃんや「神様のお使い」⇒2年生の時にある「成長の振り 返り」の授業までにより真実に近い言葉を伝えたい。
4)怒りの受容「赤ちゃんのおうち(乳児院)で一人ぼっちで大変だったんだよ」気持の受容。
5)約12歳までの情報の分かち合い 告知後は、子どもの求めに応じ養子であることの疑問などに誠実に対応し、 今後は生みの親等についての情報の分かち合いなども継続して行う予定。
6)専門家の協力 子どもを迎えて1年間の児童相談所の研修に参加し、助言を受ける。先輩里親との交流や情報 交換、幼稚園や学校の先生たちにも配慮してもらえるよう話をする。
7)境遇の痛み (4:3)乳児院にいた頃のアルバム⇒「赤ちゃんの家ともさよならです」というコメント⇒「さび しくなっちゃった」と泣く⇒気持ちを受け止める。⇒(5:3)出産の絵本⇒「生まれる前、苦しかった?」⇒「お母さん のお腹ではなく、神様のおばちゃんのお腹から生まれたのよ」⇒夜泣き⇒「お母さんに会いたくなっちゃった」抱っこ して寝かしつける。
8)情報の判断 将来的に生みの親はPの存在を受け入れることができないのにPが会いたいと言った時どうした らよいか。⇒子どもの担当職員からの情報や専門家からの助言が必要。
9)家族のルール(5:12)お風呂に入る時に幼稚園で出産の話題「Pちゃんは誰から生まれたの?」⇒「神様のおば ちゃんから生まれてきたんだよ。それは特別なんだ。ラッキーなの」「この話はお母さんとお父さんの宝物の話だから 人に言っちゃだめだよ。」
10)子どもの認知度(5:3)「お父さんとお母さんが赤ちゃんの時Pはどこにいたの?」⇒ (5:5)「結婚した時、 Pはどこにいたの?」⇒(5:11)「(ペットの)お母さんどこにいるの?」「コアラは卵から生まれるの?」⇒(6:0) 「誕生日って生まれた日のことだったのか~」
上記の結果から次のことが示唆された。
1.乳児院にいた頃の記憶の出現と消失のプロセス
 真実告知後、乳児院から家庭に来た時のことを思い出す。その後度々乳児院にいた頃の寂しさや悲しさを表出⇒養母 による受容⇒ネガティブな記憶の消失がみられた。
2.子どもの真実告知についての認知プロセス
 真実告知の内容は子どもにとって興味のある部分だけが記憶に残る⇒繰り返し同じ話を要求⇒月齢が進むにつれ新た な疑問が生じ、更に情報が与えられ理解が深まることが示唆された。
3.養親子であることの意味の模索プロセス
 養親子であることの意味をペット⇒動物⇒周囲の親子関係のあり方へと視点を広げながら理解を進めていた。「神様 のおばちゃん」等の比喩的な言葉からより真実に近い言葉が必要となる。
4.家族への支援
 子どもを迎える前から真実告知の重要性を理解し実行できるような支援が必要である。初の真実告知後は、先生や 日常子どもと関わりの多い人に子どもに変化があった時には配慮してもらえるような関係作りや、近隣の里親、養親と の交流により養子が一人ではないことが自然に伝えられるような環境作りができるよう支えることも大切である。今後 は子どもが生みの親のことを知りたい、さらには会いたいと言ってきた時のことも視野に入れた支援が求められる。

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