わが国の里親支援に関する一考察
-A県における里親家庭への訪問支援を通して-
○ 京都府立大学大学院 山口 敬子 (会員番号7076)
キーワード3つ: 《里親支援》 《里親委託ソーシャルワーク》 《社会的養護》
近年、里親委託の推進・拡充が推奨されはじめた。しかしながら、依然として委託率は1割程度にとどまっている。里親委託低迷の一因として、里親支援体制の未整備が挙げられる。里親は委託児童に対して大きな社会的責任を担うため、十分な支援を受けなければ役割は果たせない。里親委託の成否は支援制度の充実に依存しているといっても過言ではない。しかし、虐待対応に追われている児童相談所では、里親支援の充実及び委託拡充は困難であろう。こうした現状を受け、2008年にこれまで児童相談所が担ってきた里親支援業務を民間機関へ委譲する「里親支援機関事業」が法制化され、里親への支援体制の充実が図られようとしている。そこで本研究では、A県における里親家庭への訪問支援活動に焦点を当て、里親家庭への訪問を基礎とした里親支援体制の必要性について考察を試みる。里親家庭への訪問は里親・里子支援の重要な位置を占める。このことは、里親支援機関の業務内容の一つに、委託里親への定期的な訪問援助・相談・指導等があることからも明らかである。全国に先駆けて里親家庭への訪問活動を実施してきたA県における実践について事例を含めて考察し、その課題を明らかにすることは、里親支援機関における支援方法を構築する上での一助となるであろう。
2.研究の視点および方法わが国の里親支援事業は、平成14年度の改正(厚生労働省通知)において取り決めがなされ、4事業(里親研修事業・里親養育相談事業・里親養育相互援助事業・里親養育援助事業)が実施されてきた。また、2008年に創設された「里親支援機関事業」では里親制度の広報啓発、里親の研修、子どもに最も適合する里親を選定するための調整、委託里親への訪問援助・相談・指導等の支援等の業務を施設やNPO法人等へ委託することができるとされている。このほか、一時的休息を目的としたレスパイト・ケアも実施されているが、里親家庭への定期的な訪問の実施は多くはない。本研究では、里親家庭への訪問支援の実情を明らかにするために、わが国で先駆的に訪問支援が実施されている自治体であるA県において参与観察を行い、ソーシャルワーカーによる訪問を基礎とした里親支援体制の必要性について考察する。
3.倫理的配慮調査の実施に関しては、調査対象者にあらかじめ調査の目的を説明し、研究目的以外では使用しないこと、協力は任意であること、データは責任を持って研究者が管理すること、匿名性の保障の4点についてインフォームし、承諾を得た。また、プライバシーを守るために個人が特定されないようデータには若干の修正を加えてある。
4.研 究 結 果 A県における訪問支援事業は、虐待やネグレクトの経験を持つ子どものケアを行う里親家庭を訪問し、虐待やネグレクトによる心的外傷のため心理療法等を必要とする子どもの安心感・安全感の再形成及び人間関係の調整等を図ることにより、子どもの自立を支援することを目的としている。この事業における主な支援対象は委託児童であるが、参与観察の結果、実際の訪問支援では委託児童への訪問と同程度の頻度で里親への面談を実施していることが明らかになった。
ソーシャルワーカーは月2~4回程度里親家庭を訪問し、委託児童・里親と面談を行う。面談の形態は特に定まっておらず、里親・委託児童の双方と同時に面談を行う場合もあれば、各個別に面談する場合もある。委託児童との面談の際は主に、里親家庭や学校における生活の様子、里親や里親家庭の他のメンバーとの関係について確認することを目的とした。委託児童が抱える、里親家庭で生活する上での要望や、委託前の生活に関する語りを傾聴したり、悩み事に関して助言や提案を行うこともあった。他方、里親との面談においては、委託児童のケアに関する相談を受けたり、どのようなケアを提供するか今後の対応について協議を重ねた。また、夜間に相談を受けたり、実子に関する相談を受けたり、委託児童が通学する学校の教員も交えた話し合いを行うこともあった。里親家庭への訪問は里親支援の重要な一部であり、児童相談所運営指針においてその実施が求められているが、月に数回程度の定期訪問は一部の自治体において実施されるに留まっている。児童相談所においてもカウンセリングや相談事業が行われているが、遠方に住む里親の場合、頻繁に児童相談所を訪問することは難しい。一方、訪問支援の場合は里親家庭の状況に合わせて訪問するので、負担になることが少ない。加えて、生活場面において活動を行うので里親家庭の様子や周囲の環境を把握できる。このように、訪問支援は里親・委託児童の心理的負担を軽減しうる資源として大いに有効だといえよう。
里親支援におけるソーシャルワークでは、里親への支援は、委託児童に対する支援と別個に存在するものではなく、統合された支援が必要となるだろう。
里親支援におけるソーシャルワーカーの役割としては、実親から離れ、里親家庭を拠点とした生活を開始する子どもが里親家庭での生活に適応し、本来その子ども自身が持っている潜在能力を十分に発揮できるよう里親とともに支援しつつ、子どもを受け入れることによって変動する里親と里親家庭のメンバーの支援を同時に行い、それぞれの支援の関係を調整し統合することが挙げられる。里親支援を担う機関は今後、これらの支援を提供する児童ソーシャルワーク機関へと発展していくことが重要な課題であると考えられる。