日本におけるホスピタル・プレイ・スペシャリスト養成プログラムの開発
○ 静岡県立大学短期大学部 松平 千佳(会員番号2557)
静岡県立大学短期大学部大学 江原 勝幸 (会員番号3489)
静岡県立大学短期大学部 立花 明彦 (会員番号4938)
キーワード: 《ホスピタル・プレイ・スペシャリスト》 《産学連携》 《キャリアラダー》
静岡県立短期大学部では、平成19年度より文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」委託事業として離退職保育・看護師を対象とする「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下HPS)養成教育プロジェクト」を実施してきた。日本初の本格的なHPS養成講座の実施により62名のHPSが誕生し、そのうち34名がこれまでわが国の医療現場でほとんど注意が払われてこなかった、子どもや家族に寄り添うホスピタル・プレイを病院や福祉施設において積極的に展開し、子どもにとって医療との関わりが肯定的な体験になるように働きかけるという革新的な試みにチャレンジしている。
小児医療での「Family Centered Care(家族中心の医療福祉)」の理念を実現するため、本研究における次段階の取り組みは、総合的・多層的なHPS養成教育プログラムを完成させることである。他大学との連携も視野に入れ、1)本学の専門職養成教育でHPSの視点を身につけた看護師や保育士等の養成、2)HPS養成事業の継続による本格的なHPS育成、3)医療ケアとプレイサービスをマネジメントする上級HPS(プレイ・コーディネーター)を輩出する一連の戦略的人材養成教育プログラムの構築が求められている。
本研究は、以下の教育3モデルの開発を平成23年度までにおこない、その後は本学教
育の柱として、学士力確保や教育力向上を目指すHPS入門講座を開講することと、第1から第3ステップからなる体系的HPS養成教育プログラム構想の実現を大きな達成目標としている。合わせて、保育士など子どもにかかわる専門職のキャリアラダーを確立する目的をもつ。
① 養成教育モデルの開発
本学の医療・福祉系専門職養成教育の中にHPS入門講座を取り入れ、主体的に講座を履修する学生にHPSとしての視点から対象者中心のケアに関する知識・理解、対人援助技術、専門的倫理・価値、クリティカルで創造的な思考力を身につけさせるための養成教育モデルを開発する。その内容は、明確なラーニング・アウトカム指標に基づき、履修カリキュラム、教育目標・内容、標準テキスト、補助教材、学習ポートフォリオについて協議・検討し、設定及び作成を行う。そのため、英国ホスピタル・プレイ・スタッフ協会との連携により、英国HPS養成大学から視察及び打ち合わせに講師を招聘し、その後は運営実行委員が英国研修を行う。このモデル開発により、医療・福祉系短期大学の学士力確保の一つのあり方を示すことも期待する。
② 効果的教授法モデルの開発
HPS入門講座における教育方法が効果的で適切に実施されることを目的に、入門講座で講師を依頼する学び直しHPS修了生への教授法研修、ティーチングポートフリオ技法、小グループによる双方向型アクティブラーニング学習法、地域課題(退院後の在宅重症心身児・家族の孤立化など)解決に向けたサービス・ラーニング手法、遠隔地授業実施に向けたシステム等を開発・導入し、試験的に短期大学での教育に取り入れていくことで評価・改善を目指す。そのため、優れた教授法を先駆的・実践的に大学教育に取り入れている国内大学等での研修や講師派遣を行う。このモデル開発により、HPS養成教育に関わらず、大学教育の講義・演習・実習科目の先駆的・実践的な教授法を明確化することが成果として期待されている。
③ 産学連携による小児医療モデルの開発
HPS修了生及びその所属する病院・施設とのこれまでの相互連携を生かし、1)病児及び家族を対象とする病院に特化、2)障害児及び家族を対象とする福祉施設に特化、3)自宅療養する子ども及び家族を対象とする在宅支援に特化したHPSの専門性とその養成教育の確立等を目指す。これらを総合的に進め、英国HPS養成教育機関との協力とともに、第1から第3ステップまでのHPS養成教育プログラム構築について検討し、段階ごとの教育目標や内容を明確化した養成モデルを開発する共同研究を行う。病院・福祉施設・在宅療養での子ども・家族中心の医療ケア実現の実践・研究を進め、研究報告を行うともに、協働でHPSの社会的認知度を高めるパンフレットを作成する。
本研究は、病児や障がい児を対象としたHPSの実際の活動を対象としている。そのため、こどもおよび保護者の承諾と匿名性を確保する配慮を十分に行うとともに、プライバシーの保護に努めている。
4.研 究 結 果養成教育モデルを開発する研究においては、短大生を対象にしたHPS養成教育のアウトカムを測定する試みが始まっている。また、HPSという専門職に必要な資質能力(コンピテンシー)と養成プログラムを把握し、イギリスにある初期からコーディネーターの段階までのラーニングアウトカムを示したHPS養成プログラムの認証基準を分析すること、また分析を通して、イギリスHPS養成の各段階の目標、内容、方法などを一部整理した。(その他の国のHPS養成プログラムの状況もある程度調べる。)このことによって、HPSマインドを明らかにする第1歩を踏み出している。
産学連携モデルにおいては、HPSの実践レポートが蓄積されており、その内容を分析することによってHPSの専門性が明らかになっている。
効果的教授法モデルを開発する研究においては、遠隔講義システムを導入したことにより、他大学との連携が始まり、また海外との連携も可能になっている。