ポスターセッション方法・技術  小高 真美

ソーシャルワーカーの自殺に対する態度とその影響因子に関する探索的研究

○ 独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 小高 真美 (会員番号4702)
キーワード: 《自殺》 《態度》 《自殺ハイリスク者支援》

1.研 究 目 的

 自殺には、生活上のさまざまな要因が複雑に関係しており、自殺予防には、医学的、心理学的な知見から治療にあたる専門家だけでなく、自殺ハイリスク者の生活を幅広い視野で捉えて支援できる人材が求められている。そのため、複雑な生活背景を網羅的にアセスメントし、自殺ハイリスク者と共に問題解決の糸口を見つけていく専門職として、ソーシャルワーカーの貢献が重要である。
 一方、海外の先行研究では、医療従事者の自殺に対する態度(認知・感情・行動の3成分で構成される概念)が、自殺ハイリスク者に対するケア行動に影響すると言われている(Bagley & Ramsay 1989; Samuelsson, et al. 1997)。このような研究結果から、ソーシャルワーカーが自殺傾向にある人をより効果的に支援していくには、まず、ソーシャルワーカーが持っている自殺に対する態度を明らかにする必要がある。しかし、ソーシャルワーカーの自殺に対する態度に関する研究は、諸外国においてもほとんど実施されていない。
 そこで本研究では、ソーシャルワーカーの自殺に対する態度とその影響因子について、探索的に検討した。         

2.研究の視点および方法

 社会福祉士の国家資格を有する2999名を対象として、調査票を用いた郵送法による調査を実施した。調査票への回答・返信があった842名(調査票回収率28%)のうち、全ての調査項目について欠損のない739名のデータを解析の対象とした。使用した調査票は、 自殺に対する態度を測定する尺度であるAttitude toward Suicide scale(ATTS)日本語版(小高ほか2008)、基本属性、これまでの自殺既遂者・未遂者・念慮のある人に関わる臨床および個人的経験、自殺対策に関する研修等への参加経験などの質問項目で構成した。ATTSは、自殺に対する態度を測定する長年の尺度開発の影響を受けつつ、実施可能性の高い尺度としてスウェーデンで開発された。ATTS日本語版は小高ら(2008)が、オリジナル製作者からの翻訳許可取得、日本語へ翻訳、自殺対策研究の専門家による検討、 暫定的日本語版による試行調査、バックトランスレーション、オリジナル製作者との協議等を経て作成した。
 データ解析では、ATTS日本語版37項目(5件法リッカートスケール)に対して、因子分析を実施した。またATTS日本語版の下位尺度得点は、各因子を構成する項目の平均値を計算して算出した。次に、これまでの自殺既遂者・未遂者・念慮のある人に関わる臨床および個人的経験、自殺対策に関する研修等への参加経験、ソーシャルワーカーとしての経験年数が、自殺に対する態度に影響を及ぼしているか検討するため、ATTS日本語版の各下位尺度得点を従属変数として、多変量分散分析(MANOVA)を実施した。           

3.倫理的配慮

 本研究は、国立精神・神経センターの倫理審査委員会で審査され、同センター総長の承認を受けて実施した。研究への参加は任意であり、調査票は無記名とし、特定の個人を識別することができる情報は収集しなった。 

4.研 究 結 果

 対象者は、女性516名(69.8%)、平均年齢43.7歳(SD±11.2)、 ソーシャルワーカーとしての経験年数は平均8.6年(SD±7.4)であった。
 因子分析の結果、5因子21項目が得られた(回転前の全分散の説明率は49.09%)。各因子は、「自殺の容認」(α=0.75)、「自殺の一般性」(α=0.63)、「自殺表明への解釈」(α=0.64)、「自殺の非正当性」(α=0.57)、「予防・援助可能性」(α=0.43)と命名した。
 多変量分散分析の結果、臨床上、自殺既遂者・未遂者・念慮のある人に関わった経験は、「自殺の一般性」、「自殺の非正当性」、「予防・援助可能性」について有意な主効果が認められ、個人的な付き合いにおいて自殺既遂者・未遂者・念慮のある人に関わった経験は、「自殺の容認」、「自殺の一般性」、「自殺表明への解釈」、「自殺の非正当性」について有意な主効果が認められた。また、自殺対策に関する研修等への参加経験は、「自殺の一般性」、「自殺表明への解釈」、「予防・援助可能性」について有意な主効果が認められた。
 以上の結果から、臨床上、自殺既遂者・未遂者・念慮のある人に関わった経験がある人は、自殺は一般的なものと考え、自殺は正当化できない行為と捉え、自殺を予防できる・ハイリスク者を援助する心構えがあると考える傾向にあった。また個人的な付き合いにおいて自殺既遂者・未遂者・念慮のある人に関わった経験がある人は、より自殺を容認し、自殺を一般的なものと捉え、自殺すると脅す人が自殺しないとは考えず、自殺は正当化できない行為と捉える傾向にあった。更に、自殺対策に関する研修に参加したことがある人は、自殺を一般的なものと考え、自殺すると脅す人が自殺しないとは考えず、自殺は予防できる・ハイリスク者を援助する心構えがあると考える傾向にあった。
  本研究により、自殺ハイリスク者へのケア行動に影響があるとされる自殺に対する態度には、ソーシャルワーカーの専門職としての経験だけでなく、自殺をめぐる個人的な経験も影響することが示唆された。           

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