岩手式・ホスピスボランティア養成モデル構築に向けて
-相互学習型ワークショップによる実践から-
○ 岩手県立大学 山本 克彦 (会員番号3269)
キーワード: 《ホスピス緩和ケア》 《ボランティア》 《ワークショップ》
1998年以降、わが国の緩和ケア病棟認可施設数は急速に増加。2002年度の診療報酬改定により緩和ケア診療加算が導入され、2007年時点で、全国に177施設、3399病床の緩和ケア病棟が誕生している 。岩手県においても2006年、県内初の緩和ケア病棟が開設し、ホスピスボランティアの普及・啓蒙に期待が寄せられてきた。
筆者らは、2007年度から2009年度の3年間、「ホスピスボランティア養成マニュアルの作成と対人援助職養成への応用」を目的とした公募型地域課題研究 に取り組み、岩手県立大学社会福祉学部ホスピスボランティア実践研究会(以下、研究会)を立ち上げ、ホスピスボランティア養成講座(以下、養成講座)の開催を中心にさまざまな活動を展開してきた。2007年に研究会が実施した全国調査 においては、ホスピスボランティアの存在意義は大きく、たとえば社会の接点における存在としての地域社会と病棟の架け橋、ホスピスが地域で発展するためのキーパーソン、チームの一員である等の回答が寄せられた。さらにホスピスボランティアに対し、種々の期待を持っている施設は多く、養成講座の実施やその内容の充実が課題とされていることもあきらかになった。また、ホスピスボランテイアコーデイネーターには資格的条件、人格的条件、経験的条件、知識・技術的条件などを設定している施設も見られ、ホスピスボランティアコーディネーターを中心とするボランティアの組織化への期待も示唆された。このような実態があるにも関わらず、日本国内において、施設がボランティアを導入し組織化するプロセス、あるいはボランティア養成に関する標準的なプログラムや実践における具体的な方法についての実証研究は見当たらない。そこで筆者らは、こうした実態調査と並行して、岩手県内のホスピス緩和ケアの現場を対象に、県民を対象とした養成講座を実施し、ホスピスボランティア養成の岩手式モデル構築に取り組むこととした。
2006年、岩手県に初めての緩和ケア病棟が開設したことから、ホスピスボランティア養成に特化した研修プログラムや手法の開発、導入や運営に関するノウハウを一般化することが喫緊の課題となった。まず筆者らが着目したのは、養成講座参加者のボランティア動機である。ホスピスという現場は非常にデリケートであるのに対し、参加者の中には"家族との死別体験"や、"自らの傾聴スキルの活用"といった強い動機を持った傾向がある。それらを自覚し、患者側のニーズに立った"援助者"の在り方の再構築こそ、重要であると考えた。具体的には、相互学習型ワークショップをベースに、①プログラム(養成講座)の計画、②実施、③評価、④プログラムの再検討(あるいはアレンジ)のプロセスをくりかえしながら完成度を高めていった。評価の際は養成講座実践場面での参加者の観察と事後評価等のデータを研究会で検討した。内容は異なるが、初年度に実施した養成講座は8回、のべ483名の参加者を対象とした。
3.倫理的配慮講座実施にあたり、養成講座自体が研究の一環であること、また時間内のグループや個々の様子、グループワークで作成した成果物をデータとして扱うこと等を事前に説明した。また事前事後のアンケートも、同様に説明した上で実施し、参加者の了解を得た。
4.研 究 結 果養成講座のプログラムデザインは前述のプロセスに基づいている。初回はすでに養成講座を実施しているホスピスのプログラム等を参考とした。研究会では計画当初より、均一なホスピスボランティアを養成するための知識伝達型ではなく、相互学習型の実施とした。これは「相互学習型により参加者(学習者)個々が自らのボランティア動機を見直し、それぞれが抱くホスピスボランティアのイメージや、それらを描く背景にある個々の価値観や経験などを自覚し見直しながら、今後活動をしていくチームとして新たにホスピスボランティア像を描きあげる」ということをワークショップによって実践している。
筆者らは現時点で「岩手式・ホスピスボランティア養成」は、16時間(8セッション)が望ましいと結論づけた。これは緩和ケアに関わる医療専門職(医師、看護師)やホスピスボランティアの普及を望むNPO、現場ですでに活動をしているボランティアやボランティアコーディネーター等へのインタビューの実施、また講座前後の参加者のボランティア動機の比較検討や、ふりかえり用紙に書かれた内容の分析等、質的データにも基づいた結論である。また、その際に留意することとして、①アイスブレイクの時間の確保(導入時の個別の心理状態を配慮する)、②動機の明確化と共有(自己覚知の機会を設ける)、③基礎的知識の講義の実施(ボランティアに必要な知識を厳選して伝える)、④患者家族の体験談を盛り込む(協力を得ることができれば効果が大きい)、⑤対人援助技術の演習を入れる(知識同様、基本的な技術を学ぶ機会を設ける)、⑥ボランティア像のイメージ化を図る(自己覚知とともに、グループでボランティア像の再構築をする)、⑦ふりかえりの時間を持つ(グループ学習の後、個人の学びを確認する)、⑧進行はファシリテーターが行う(参加者の学習活動を促進する)の8点をまとめた。現在も実践を通したプログラム開発は継続中であり、学会当日にはその点も含め報告予定である。
i 全国緩和ケア病棟承認施設一覧:緩和ケア17(6) Nov 2007 541-543.
ii 岩手県立大学では、地域の自治体、NPO、企業などから提案された研究課題に対し、大学の研究者が共同研究を実施する制度が設けられている。
iii 鈴木聖子・山本克彦・吉田清子:ホスピスボランティア養成に関する基礎的研究~ホスピスボランティア全国調査からの一考察~, 岩手県立大学社会福祉学部紀要10(2008.3)31-45.