グループワーク教授法の再考
-学生主体の映画製作グループの試作-
○ 神奈川県立保健福祉大学 川村 隆彦 (会員番号2834)
キーワード: 《グループワーク》 《教授法》 《学生主体》
わが国のソーシャルワークのあらゆるシーンにおいて「グループワーク」を再考し、新たな光を当てることがこの研究の目的である。この背景に、近年、グループワークという専門領域が幾分軽視され、また誤って理解、伝達されていることへの懸念が存在する。グループワークの専門領域は、大別すると、研究、実践、そして教育等の領域があるが、本研究は、教育領域に焦点をあてている。特に、「ソーシャルワークを学ぶ学生に対して、グループワークをどう教授するのか」という命題を深く考え、試作に至った。
学生へのグループワーク教授法は、担当される方の数だけ手法とアイデアが存在する。そのいずれかを批判し、また弁護することは、本研究の意図ではない。(これはグループワークを理解する者の態度ではない)むしろ一つの試作を投げかけ、呼び水とし、グループワーク教授法に対する意識と関心を喚起し、結果、様々な教授スタイルを互いに学び合う機会を得ることが目的である。
ソーシャルワークは、人々へのエンパワメントと社会正義の実現を目指している。そのためには、未来のソーシャルワーカーになり得る学生たちに、グループワークの原則を効果的に教授することが重要である。特に、人間同士が競争し、傷つけ合い、分断、排除されてしまう現代にあって、もう一度、人間の尊厳を認め合い、相互にかかわりを持ち、強さと弱さを担い、目標を共有し、協働していく経験を意図的にもたらすこと、そこからグループダイナミクスを体感するという学びを避けて通ることはできない。グループワークを再考することは、パターナリズムを排除し、当事者主体を取り戻し、人々に力をもたらすこと、つまりソーシャルワークとは本来、何であったのか、その本質を再考することでもある。
また今、学生にグループワークを効果的に教授するという小さな試作は、未来のソーシャルワークの土壌に、新たな種を植えることにもつながる。もし近い将来、学生たちが実践者として、効果的なグループワークを展開していくならば、ソーシャルワークは、今よりもさらに本質に近づいていくことだろう。
本発表は、学生主体による7ヶ月間のグループワーク実践報告である。「映画製作」という課題達成型のグループワークの準備期、開始期、作業期、終結期を紹介し、それぞれの時期における、学生たちのグループダイナミクスの体験と学びをグループワークの原則から考察、効果を評価する。グループワーク全体像への理解、リーダーシップ機能、目標、役割、グループアイデンティティなどを、学生がどう学習できたかを個別インタビューと全体ディスカッションから探る。
3.倫理的配慮グループワークの計画と参加、活動の全てが、学生主体で行われた。実践報告に関する情報開示、資料提示については、参加した学生全員への説明を行い、書面による協力の同意を得ている。
4.研 究 結 果6名の学生によるグループワーク実践は、映画製作に取り組み、完成することを目標に据えた。まず学生同士の出会い、関係づくりを行い、その後、リーダーシップ機能を確立し、正式なグループワークがスタートした。
最初、メンバーは、グループで達成するべき目標の確認、そのための役割を明確にした。その後、リーダーを中心に、約7ヶ月間の製作期間を想定し、スケジュールをプランニングした。それからプランに基づき、メンバーは、主体的に集まり、話し合い、活動を進めていった。
主な活動内容は、脚本制作、絵コンテ製作、撮影、編集、音響、その他準備作業。この間、メンバー同士、様々な場面で、相互理解、協働、一致を体験し、映画が完成していくプロセスと共に、人間的な成長が垣間みられた。対峙、葛藤する瞬間もあったが、グループの力を使って乗り越えていった。
研究者は、グループの話し合いや運営には口を挟まず、出演者の一人として、一緒に撮影を体験し、グループを観察していった。学生たちは、グループワークの現実の体験を通して、学ぶべき諸原則を効果的に学習していった。特に、グループの開始から終結までの全体像を体感できたことは、大きな成果であった。
ポスター発表では、学生主体のグループワークがどのように進行していったのか、またそれぞれの展開過程で、学生たちがどのような体験を得たのか、またその体験から、どのようなグループワークの諸原則を学習できたのかを、参加した6名へのインタビューとグループディスカッションの様子も含めて提示する。その後、体験を通して伝えるグループワーク教授法の意図、手法、原則等を示す。
発表の後、学生へのグループワーク教授法について、様々な手法、アイデア、可能性についての意見交換を行いたい。またグループワークに限らず、学生を主体とした体験的なソーシャルワーク教授法についても学び合える機会としたい。