社会福祉系学部及び学科における新入生の学習及び生活体験と表象との関連
-「社会福祉」から連想するキーワードの分類から-
○ 秋田看護福祉大学 宮本 雅央 (会員番号6674)
東北公益文科大学 小関 久恵 (会員番号5845)
東北福祉大学 村山 くみ (会員番号5666)
龍谷大学短期大学部 伊藤 優子 (会員番号6527)
中部学院大学 宮嶋 淳(会員番号4662)
和泉短期大学 鈴木 敏彦 (会員番号2244)
青森県立保健大学 杉山 克己(会員番号2160)
北海道医療大学 志水 幸 (会員番号1727)
天理大学 武田 加代子 (会員番号1502)
大妻女子大学 川廷 宗之(会員番号301)
キーワード: 《社会福祉》 《イメージ》 《教育》
本研究では、初年次教育プログラムを開発することを目的とした生活体験及び学習活動、学生生活に関するアンケート調査の結果を基に、学生が「社会福祉」という言葉から連想するキーワードについて整理し、入学前の学習及び生活体験との関連性について検討することを目的とした。
2.研究の視点および方法 本研究の視点は、社会福祉系学部学科所属学生の社会福祉に関する学習をより効果的に進めるためのプログラム構築に向けた基盤的視座の獲得にある。専門職としての到達目標を設定し、その目標へ向かってプログラムを組み立てることと同じく、社会福祉に関する教育の受け手である学生の特性及び学習に対する志向性を把握することが肝要であるといえる。そこで本研究では、「どのような学生がどのようなイメージを持って社会福祉系学部学科へ進学したのか」について整理することを目的とした。
本研究の調査対象は、研究の主旨に同意し調査協力に承諾を得た13校(四大:10校、短大:3校)における社会福祉系学部学科の新入生である。平成21年4月中に各校において自記式質問紙票を用いた集合調査を実施した。
調査項目は、1)性別、所属学部学科を含む基本属性、2)入学以前のボランティア体験、アルバイト、福祉系教育経験の有無等を含む入学以前の経験に関する項目、3)大学生活にいて身につけたいと思う能力等に関する項目、4)「社会福祉」から連想する単語及びフレーズについて等の計84項目である。なお、4)「社会福祉」から連想する単語及びフレーズは、3つまでとし自由記述での回答を求めた。
分析に際し、自由記述の回答から得たキーワードと四大及び短大の分類、入学前の生活体験及び福祉系学習体験の有無とのクロス表を作成し、キーワードの出現傾向について検討した。キーワードの抽出に際しては、得られた回答について形態素解析を行い、名詞及び形容詞を分析対象キーワードとして採用した。
調査対象者には1)調査への協力は自由であり、中途辞退及び協力を拒否した何れの場合にも対象者に不利益が被ることはないこと、2)調査で得られた情報は、個人が特定されないよう統計的処理を施し、個人情報の流出には特段の配慮をすること、3)調査票の回収を以って同意を得たとすることについて事前に説明し、調査を実施した。
4.研 究 結 果(詳細は当日資料参照) 分析対象者1300名の回答から、508のキーワードを抽出した。そのうち、出現頻度が2以上のキーワード230を分析の対象とした。最も多かったキーワードは「高齢者(323名該当:24.8%)」であり、次いで「介護(283名該当:21.8%)」「思いやり(159名該当:12.2%)」であった。
四大及び短大の分類で出現率を比較した結果、四大の学生では「ソーシャルワーク」「社会福祉士」「地域」「幸福」「相談」「思いやり」等のキーワードの出現率が有意に高い傾向が認められた。また、短大の学生では「ホームヘルパー」「バリアフリー」「介護福祉士」「施設」等のキーワードの出現率が有意に高い傾向が認められた。
入学前の学習及び生活体験との関連では、ボランティア経験「有り群」では「サービス」等のキーワードの出現率が有意に高く、他方、ボランティア経験「なし群」では「介護」「ケアマネージャー」等のキーワードの出現率が有意に高い傾向が認められた。アルバイト経験「あり群」では「老人ホーム」「平等」等の出現率が高く、アルバイト経験「なし群」では「障害者」「高齢者」等の出現率が有意に高い傾向が認められた。入学前の福祉に関する教育体験「あり群」では「平等」が有意に高く、「なし群」では「ソーシャルワーク」「高齢者」等の出現率が有意に高かった。
これらの結果から、調査対象校における新入生が持つ最も一般的な「社会福祉」に対するイメージは、高齢者分野や介護についてであることが明らかになった。また、四大の新入生はソーシャルワークに関する広範な概念、短大の新入生は介護を中心とした資格等についてのイメージが強い傾向が認められた。入学以前の学習及び生活体験との関連性では、いくつかのキーワードの出現率に有意な差が認められたものの、その概念は広範にわたり、福祉に関する教育体験の有無によってもその傾向は同様であった。
学びの入り口において学生が持つ多様なイメージは、学習内容を理解するための視点や新たな気づきをもたらすための視点として、その後の学習を積み重ねる上での重要な役割を期待できるものである。延いては、社会福祉専門職として事象を理解する上での多角的な視点を獲得することへ繋がるものともいえる。したがって、社会福祉系学部学科入学後の初年次教育のあり方を検討する際には、これらの学生が持つ広範なイメージについても配慮する必要があるといえる。また、これらの結果は、入学以前の福祉に関する学習体験を始めとした一連の社会福祉専門教育のあり方にも示唆を与えるものといえる。