社会福祉士の生涯研修に関する研究
-大学院でのリカレント教育による自己研鑽のプロセスに着目して-
○ 新潟医療福祉大学 横山 豊治 (会員番号3511)
キーワード: 《社会福祉士》 《生涯研修》 《リカレント教育》
対人援助専門職であるソーシャルワーカーには生涯にわたる自己研鑽への努力が望まれるが、2007年の社会福祉士及び介護福祉士法改正で「資質向上の責務」(法第47条の2)が追加され、国家資格を持つソーシャルワーカーには法律上の努力義務にもなった。
社会福祉士の全国組織である日本社会福祉士会では、1999年度から「基礎研修課程」「共通研修課程」「専門分野別研修課程」の3課程からなる生涯研修制度を創設し、会員の生涯研修を支援・促進する体制をとってきたが、3年毎に全会員が自分の研修記録(60単位以上)を申告して継続していくこととしている「共通研修課程」の修了者数は、対象会員数が2万人を超えた2008年度分で、わずか606人(修了申請率8.2%)という低水準に留まっており、同会ではこの制度の10年余りの実施経過をふまえて現在、抜本的な見直しが行われているところである。この生涯研修制度では、「集合研修」「実習研修」「グループ研修」「自己研修」といった研修形態ごとの区分が設定され、「自己研修」の中には「大学院での研究活動」も含まれる(日本社会福祉士会生涯研修制度基本要綱第16条)が、それは有職者の自己研鑽の方法としては特定の時期に集中的に時間・労力・経費を費やす必要があるという点で、特に強い動機づけが各人に働いて条件整備を含めた努力が促されるものと考えられる。しかし、前述のとおり同会の共通研修課程への参加状況が全体的として非常に低迷している一方で、仕事や生活との両立・調整に努力し、働きながら大学院修士課程で学ぶ極めて意欲的な社会福祉士の姿も各地で見受けられるようになってきている。そのような自己研鑽に特に積極的なソーシャルワーカーとしての生き方の中から、生涯研修のあり様を考える上で何らかの示唆を得られるのではないかと考え、ソーシャルワーカーが実践経験を経て大学院進学を決意した動機と、大学院で学んだ経験がその後、自身にどのような変化をもたらしたと意味づけているのかを探ることとした。
以上の背景と問題意識に基づき、社会福祉実践を経て大学院修士課程に進学し、修了後も社会福祉実践を継続・再開している社会福祉士を対象としたインタビュー調査を行い、「動機の形成」と「修了後の変化」のプロセスに関する概念生成を試みた。
本研究は、社会福祉士を対象としたインタビュー調査に基づく質的・帰納法的研究である。①なぜ大学院への進学を志したのか(進学の理由・動機)②どのように仕事・生活との調整を図りながら大学院で学んだか③大学院でのリカレント教育の経験は、仕事や生き方にどのような変化をもたらしているのか(影響・効果・意義)―の3点に関する質問を中心とした半構造的なインタビュー調査を実施した。録音データより逐語録を作成し、「語り」の文脈性を尊重するために切片化を伴わない木下康仁による修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて質的分析を行った。中間的な分析結果について、M-GTA研究会の熟練した会員(世話人)からスーパービジョンを受けた上で、新潟医療福祉大学質的研究方法研究会で報告し、多角的な検討を経て12人分のデータで分析作業を収束させた。
【研究テーマ】社会福祉士が大学院でのリカレント教育を通じて行う自己研鑽のプロセスに関する研究
【分析テーマ】①社会福祉士の大学院進学に向けた動機形成のプロセス
②社会福祉士が大学院での学び直しを通して自己を豊饒化させるプロセス
【分析焦点者】社会福祉士実践を経て大学院修士課程に進学し、修了後も社会福祉実践を継続・再開している社会福祉士
本研究は、2008年度新潟医療福祉大学倫理委員会の倫理審査を受け、承認を得た。
4.研 究 結 果①調査対象者(12名)の内訳 <調査期間:2008年8月23日~2009年9月13日>
性別 | 男性5名・女性7名 |
居住地域 | 関東甲信越地方8名・中部地方2名・中国地方2名 |
調査時年齢 | 30歳~67歳 |
大学院入学時年齢 | 27歳~55歳 |
大学院在学時期 | 1996年~2009年 |
出身学部 | 全員:社会福祉系(通信課程2名を含む) |
修士課程の専攻 | 社会福祉系の専攻11名・マネジメント系の専攻1名 |
②本調査の結論をまとめたストーリーライン
「ソーシャルワーカーは、大学院への『潜在的な関心』を『外的な促進要因』によって顕在化させて契機に進学動機を形成するが、『実践からの研究志向』『職業的発展への志向』『自己実現への志向』という複合的な動機が高まることによって、自己教育を深める行動を起こすようになる。ソーシャルワーカーは、大学院での学び直しの経験を通して、『専門職としての説明力』や『研究能力』が強化され、『新たな視点』や『実践への新たな姿勢』を獲得し、『実践能力』を発展させていく。それはソーシャルワーカーとしての『アイデンティティ』とさらなる『向学心』の強化につながり、『専門職としての多面的な成長』と『周囲への関心の拡がり』によって職業人生の『豊饒化』を進めている。それは『自己実現』を大切にする生き方といえる。」(ワークシートと結果図はポスターで掲示する)
5.参考文献
木下康仁『ライブ講義M-GTA』(弘文堂,2007年)他 M-GTAシリーズ各巻