ポスターセッション社会福祉教育・実習  木戸 宜子

日本・中国・韓国のソーシャルワーカー養成カリキュラムに関する比較検討
 -アジアにおけるソーシャルワーク教育の標準化に向けて-

○ 日本社会事業大学  木戸 宜子 (会員番号3228)
ルーテル学院大学  原島 博 (会員番号2883)
法政大学 大島 隆代(会員番号7322))
広国際大学  包 敏 (会員番号4233)
崇実大学社会福祉大学院 崔 太子 (会員番号5915)
日本社会事業大学 大橋 謙策 (会員番号241)
キーワード: 《東アジア》 《ソーシャルワーク教育》 《標準化》

1.研 究 目 的

本研究は、東アジアにおいて各国相互の福祉人材交流の必要性が高まってきている現状をふまえ、アジア型ソーシャルワーク教育のモデルを開発することを目的とする。背景には東アジアに共通する現象として、人口の高齢化や流動化、そして大規模な自然災害の発生などがある。これらに対する地域生活支援として、ソーシャルワークを基盤とするコミュニティケア、及び災害復興支援のシステム構築などが注目されてきている。
  実践を担う福祉専門職の資格化としては、日本が1987年に社会福祉士・介護福祉士を国家資格として制度化したことにはじまり、2003年には韓国、2008年には中国が国家資格制度を導入している。これに伴い各国で養成カリキュラムが進化してきたが、今後さらに積極的な福祉人材交流に向けて、各国が国際的基準に基づくソーシャルワーカー養成を推進する必要がある。そこでアジアのソーシャルワーク教育の標準化・国家資格の互換性に向けた研究作業の一段階として、日本・中国・韓国の社会福祉士養成科目について国際基準に照合し、分析・考察を行った。           

2.研究の視点および方法

教育内容の標準化ということでは、国際的な共通枠組みとして国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)・国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)が定めた「ソーシャルワークの教育・養成に関する世界基準」(2004)に示されている、コアカリキュラムの27項目を分析に用いる。
  各国の社会福祉養成のための科目をとりあげ、どの科目のシラバス内容がコアカリキュラムの項目に適合するかという分析を行った。その上でアジアのソーシャルワーク教育の標準化向けて必要なカリキュラムのあり方について考察した。           

3.倫理的配慮

本発表に関しては、学会の倫理規定を遵守して適正に処理している。 

4.研 究 結 果

3カ国のカリキュラムと、世界基準のコアカリキュラムとを照合、分析してみると、3カ国のカリキュラムにおいて今後検討すべき点として、以下の示唆が含まれているという理解に至った。
  ①ソーシャルワーカーのメンタルヘルス・自己管理・自己覚知:コアカリキュラムには、ソーシャルワーカーの力量として、持てる力を十分発揮するためのメンタルヘルス、自己管理、自己覚知をも力量として示す項目が含まれている。例えば「ソーシャルワーカーのためのメンタルヘルス」などの科目・内容の追加も考えられる。
  ②多様性の理解:コアカリキュラムには、実践対象の多様性についての理解・尊重に焦点をあてる項目がある。グローバリゼーションの流れの中でのソーシャルワーク実践を考えるとき、またアジアのソーシャルワーク教育の標準化に向けては、文化・社会等の多様性の理解に関する科目の設置も考えられる。
  ③権力の複雑さ・曖昧さ:コアカリキュラムでは、「権力の複雑さ・曖昧さを扱うことができる」という表現がなされているが、抽象的で一定的な理解が難しい。しかしながらソーシャルワークの関わりの切り口を意味していると考えられ、実践場面における具体的な課題状況を示していく必要がある。
  ④アドミニストレーションを含む実践方法:コアカリキュラムには、実践のプロセス、プログラムに焦点をあてる必要性が示されており、それは特に対人援助に焦点があてられるといえるが、3カ国の福祉情勢・教育の状況からいえば、対人援助の視点のみならずアドミニストレーション(施設運営、事業運営、福祉経営など)についても含めて捉える必要がある。
  ⑤ジェネラリスト指向:コアカリキュラムには、人・社会が抱えている問題や人のストレングスの理解の必要性が示されている。これについて3カ国のカリキュラムとしては、対象分野論(児童福祉、高齢者福祉、障害者福祉など)の中で取り上げられているが、ジェネラリストの視点に基づくならば「アドボカシー論」「エンパワメント論」「人権論」「ストレングス論」などの科目を設置し、その中で各分野の詳細を取り上げるという方法も考えられる。
  以上の分析をもとに、アジアのソーシャルワーク教育の標準化を推進する上での論点を示す。
まず前提として、アジアにおける福祉課題を共有する意識が求められる。人口・労働力の移動が顕著であり、各国内での文化的適合の問題が明確になってきている点、またアジアの地理・気候に起因する、地震や津波などの自然災害に対する各国間の協同支援の必要性などについて共有する必要がある。
  その中でソーシャルワーク教育における課題意識を明確にする必要がある。グローバリゼーションの中でソーシャルワークは、国や地域、民族、グループなどの多様性を十分認識・尊重してきたかという問題がある。グローバリゼーションに適合する(させる)のではなく、自らが持つ内発的な力に目を向けて協働・開発に取り組む姿勢が必要である。
  また教育の基盤になるものとして、実践研究が求められる。災害復興や文化的適合の問題など、新たに認識されてきている課題に対して、実践の場においては具体的な支援・対応も進んできている。それらが具体的にどのような支援が行われているのか、どのような効果がみられたのか、今後どのような活動が可能なのかという実践研究が進められた上で、未来に向けた教育のあり方、具体的な科目の設置が検討される必要がある。
  これらの点を考慮し、今後は国際化に対応したソーシャルワーク教育プログラムの開発研究につなげていきたい。


本研究は、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(A))「アジア型ソーシャルワーク教育の標準化と国家資格の互換性に関する研究」(研究代表大橋謙策)により行った。           

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp