自由研究発表家族福祉  中島 尚美

子育て支援講座における受講者の講座終了後の振り返りからみた
 講座の意味 -受講者同窓会におけるアンケート結果からの一考察-

○ 関西学院大学  中島 尚美 (会員番号07646)
関西学院大学  橋本 真紀 (会員番号03451)
関西学院大学  芝野 松次郎 (会員番号03294)
キーワード: 《子育て支援》 《グループ・ペアレント・トレーニング》 《プロセティックアプローチ》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、乳幼児と親を対象とした半構造的・提供型の子育て支援講座における、受講者の講座終了後の振り返りから、参加者自身が講座参加にどのような意味があったと感じているのかを探索的に検証するものである。
 「親と子のふれあい講座」は、1987年から地域における家庭支援の一環として独自に研究開発され、A市大型児童館(社会福祉協議会)と関西学院大学(母子交流研究会)の共催という形で、A市子ども家庭センターの協力を得て、実施されている子育て支援講座である。本プログラムは、人のポジティブな能力を育むプロセティック(補綴)環境を創出することを中心に据え、芝野の修正版デザイン・アンド・ディベロップメント(以下M-D&Dという)を開発的研究方法として採用し、研究開発されてきた。その実践理念は、参加者にとって居心地のよい場を提供することによって、参加者が主体的に親として育ち、子どもの育つ力を高められるように支えるという姿勢である。本プログラムは、一方的な指導ではなく参加者とともに歩むという援助姿勢を重視したグループ・ペアレント・トレーニングなのである。現在本プログラムは、開発の最終段階であるM-D&Dプロセスの「普及段階」にあるが、親子のニーズや提供者側の生の声から改善点を導き出し、柔軟に改良を重ねている。
 本研究は、講座創設20周年を記念して開催された同窓会(過去5年間の0歳児講座と1歳半児講座受講者を対象)の参加者によるアンケートをアウトカム評価の一部として分析するものである。対象者は講座や同窓会に出席する積極性を有し、親育ちに前向きでモチベーションの高い集団であるとみなされる。これは対象者のバイアスとして分析の限界となり得る。しかし、講座終了後においてプログラムの5つの柱のどれが、「育む環境」としての親が子育ちを支援することに影響しているか分析し、講座を評価することに意義があると考える。

2.研究の視点および方法

 本講座は、「育児」とは「子育ち」を援助することであり、親のそうした役割を「親をすること(ペアレンティング)」として捉え、それを楽しめるようになることが親として成長することであると考える。そして、それをグループワーク的に援助することを目指している。プログラムの柱は、子育てを楽しむ5つの条件として①動機づけ②個別的な育児知識③個別的な育児技術④横のつながり⑤息抜きとなっている。
 研究対象は、2007年9月1日に開催された20周年記念同窓会出席者のうち、平成15年度から19年度の「0歳児講座」受講者の37名。分析データは、研究対象から回収したアンケート37部(回収率100%、有効率100%)のうち、問い「講座との出会いは、あなたの『親育ち』にとってどのような意味があったか」の回答(自由記述)である。分析方法は、内容分析を採用した。まず、自由記述データを一つの意味内容を含む単文に分割、73記録単位を抽出した。このうち、意味内容を読み取りにくい記述など4記録単位を除く69記録単位を分析対象とした。次に、69記録単位をプログラムの柱を成す5項目(上記①~⑤)を枠組みとし、本プログラムのスタッフ経験を有し、かつ研究員2名が個々に分類を行った。研究者2名の一致率は85.5%、カッパー係数0.79と算出され、満足できる一致率と判断された。さらに各枠組み内で記録単位の意味内容の類似性に着目して集約し下位カテゴリを作成した。

3.倫理的配慮

 本研究に使用したアンケート情報については、今後の講座の充実と研究目的以外で使用しないことを、受講者に対して説明を行った。自由記述に含まれる個人情報は排除して、個人情報の保護に務めた。

4.研 究 結 果

 本調査の結果では、本講座の5つの条件の中でより多くの記述が確認されたのは、「横のつながり」であり、他の条件より効果が高い傾向が認められ、子育ての知識、技術に分類される記述は、前者が6記録単位、後者が3記録単位に留まった。
 【④横のつながり】(32記録単位)「同じ月齢の子どもをもつ仲間に出会えて、遊びや悩みを共有できた」「一人目でいろいろと不安があった時に自分ひとりじゃないと安心できた」「仲間に支えられた」といった共感できる仲間の存在について記述したものや、「横のつながりができて、とても心強くなり、子どもにやさしくなれた」「他の親子さんといることで、改めて親子のつながりを感じる」のように、親自身が同じ立場の親とつながることによってみえてくる親子の関係性の変化についての記述しているものもみられた。
 【①動機づけ】(20記録単位)子育ては「マイペースで楽しくすればいいと感じられた」「この子にとっても私が母親で幸せなんだと思えるようになった」といった親の前向きな気持ちの変化を捉えたものや、「赤ちゃんと一緒に成長し『お母さん』にしてもらったように思う」「親になってよかったと思えたし、子どもと一緒に少しずつ親になっていければいいとわかった」のように、親自身が自ら育つ存在であることを捉えた記述もみられた。
 【⑤息抜き】(8記録単位)「家から出かけて、同じ立場のお母さん方と話せることが新鮮だった」「講座最後のお茶タイムの時間に何でも相談しあえるのがストレス解消になった」や、講座後の外食も含めて「リフレッシュができて、週に1回の講座がとても楽しみだった」など、講座に参加することで息抜きをする機会につながったという記述がみられた。

注 中澤潤,大野木裕明,南博文:『心理学マニュアル観察法』,北大路書房,21-22(1997)

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