自由研究発表家族福祉  井上 寿美

周産期医療を組み込んだ子育て支援をめぐる研究の動向と課題
 -子育てハイリスク群支援ネットワーク構築に向けて-

○ 関西福祉大学  井上 寿美 (会員番号7221)
キーワード: 《周産期医療》 《子育てハイリスク》 《子育て支援》

1.研 究 目 的

多重債務を抱えて生活そのものが脅かされた状態にある親、子どもを家に置き去りにしたまま遊び歩いてシンナーを吸引している 親、精神科で処方された薬をまとめて飲んでしまう親。いずれもが、保育士への聞き取り調査をつうじて明らかになった、保育所に 子どもを通所させている親の姿である。このような厳しい生活実態を抱えている親にたいして、保育士は保健所や児童相談所などの 社会資源と連携しながら子育て支援に取り組んでいる。しかし、上記のような厳しい生活実態を抱えている親に保育士がかかわると きには、すでに虐待などの不適切な養育がおこなわれている場合が多い。「子どもの最善の利益」を保障することを第一義的に考 えるなら、虐待などの深刻な事態に陥る以前の段階から子育て支援をおこなうことが喫緊の課題である。
 1994年のエンゼルプランを子育て支援元年と位置づけるなら、およそ15年の間に「相談の実施」「情報提供」「親子参加型の事業等 」の子育て支援は、かなり充実してきた。しかし、これらの子育て支援の資源を利用する意思や力が希薄である、上記のような親たち にたいして有効な支援とはなっていない(井上2009)。したがって、子育て支援の資源を利用する意思や力が希薄な上記のような親たち にたいしては、周産期医療の場を組み込んだ子育て支援が有効であると考える。なぜなら、「虐待のリスク要因の1つである」と言わ れている「飛び込み分娩」1)(後藤・小林・濱田・ほか2006:202)をおこなう親でさえ、今日では周産期医療の場を避けてとおるこ とはできないからである。
 周産期医療の場は、子ども虐待に至る可能性の高い親たち(以下「子育てハイリスク群」とする)の支援の可能性を有している。 本研究発表は、周産期医療を組み込んだ子育てハイリスク群支援ネットワークを構築するための基礎的研究として、周産期医療を組 み込んだ子育て支援をめぐる研究の動向と課題を明らかにするものである。

2.研究の視点および方法

CiNii(国立情報学研究所論文情報ナビゲーター)をデータベースに用いて先行研究の検索をおこなった。「論文名」に「周産期」 と「子育て支援」を入れて検索をおこなった(2010年5月25日)12編の文献2)のうち、関連する7編をとりあげた。また、「論文名」 に「飛び込み分娩」を入れて検索をおこなった(2010年5月2日)17編の文献と「飛び込み出産」を入れて検索をおこなった(2010年5 月2日)1編の文献のうち、飛び込み分娩をめぐる対応策について議論している14編をとりあげた。

3.倫理的配慮

先行研究のレビューにさいしては、自説と他説の峻別、引用等において社会福祉学会「研究倫理指針」を遵守した。

4.研 究 結 果

周産期からの子育て支援について議論されている7編の文献のうち、「相談の実施」「情報提供」「親子参加型の事業等」の子育 て支援の資源を利用する意思や力のある親を対象として議論されているものが延べ6編、子育て支援の資源を利用する意思や力の希薄 な親を対象として議論されているものが延べ4編であった。同一文献の中で両方について議論されている場合は、それぞれについて1編 というように延べ数でカウントした。
 飛び込み分娩をおこなう妊婦の生活状況(山本・青木・谷口・ほか1998)(後藤・小林・ 濱田・ほか2006)(佐世・伊藤・藤野・ほか2009)を踏まえると、飛び込み分娩をおこなう親というのは子育て支援の資源を利用する 意思や力が希薄であると言える。しかし、飛び込み分娩の対応策について議論している14編のうち、飛び込み分娩後の子育て支援に ついて言及している文献は4編であった。以上のことから、子育て支援の資源を利用する意思や力が希薄な親にたいして周産期からの 子育て支援について議論しているものは極めて少ないということがわかった。
 また、周産期からの子育て支援というのは、子育てハイリスク群への支援の可能性を有すると同時に、育児不安を高める危険性も 有していることがわかった。とりわけ、子育て支援の資源を利用する意思や力のある親のみを対象として議論されている文献(山縣 2004)においてその傾向が強くうかがえた。

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1) 本研究発表では「飛び込み分娩」と「飛び込み出産」は同様の内容を指す用語と理解しており、以下では「飛び込み分娩」 という用語を用いる。先行研究のレビューにおいて、いずれの用語においても定義が確立していないことが明らかとなった。
2) 「論文名」に「周産期医療」と「子育て支援」を含む文献は5件であり、そのすべてが「周産期」と「子育て支援」で検索 したものと重複していた。
【文 献】※検討をおこなった文献については当日の資料で紹介する。
後藤智子・小林 益江・濱田 維子・ほか(2006)「福岡県内における飛び込み分娩の実態 」『母性衛生』 47(1), 197-204.
井上寿美(2009)「子育て困難な状況を呈している保護者への子育て支援――低階層に属する保護者を中心に――」『関西福祉大学社会福祉学部研究紀要』12,61-9.
佐世正勝・伊藤悦子・藤野俊夫・ほか(2009)「山口県における飛び込み分娩の現状 」『周産期医学』 39(2), 259-62.
山縣威日(2004)「産後1カ月までの子育て支援を考える」『周産期医学』34(1),80-3.
山本智子・青木江田・谷本義実(1998)「当院における飛び込み分娩症例の検討 」『日産婦関東連会報』35, 433-36.

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