自由研究発表家族福祉  米山 珠里

女性の就労と育児に関する意識調査の一考察
 -日本・イギリスの大学生の性別役割意識とライフスタイル選択の
   傾向性について-

○ 弘前学院大学  米山 珠里 (会員番号7816)
キーワード: 《ジェンダー》 《ライフスタイル》 《性別役割分業》

1.研 究 目 的

 少子化の進行が深刻化している現在、その理由の一つとして、女性の生き方が多様化し、 社会進出が広がってきたためといわれている。1970年以降、年々、女性の社会進出が進み、 現在、女性の高学歴化・労働力率の上昇傾向は顕著である。しかしながら、その結果、晩婚化・ 晩産化の影響を背景とした、国の出生率の低下が懸念される。少子化に歯止めをかけるため にも、様々な施策が講じられているが、抜本的な解決へとは至っていないのが現状である。 また、女性のライフスタイルは大きく変化し、男女平等の考え方も広がり、共働きの夫婦の 数も増えている。しかしながら日本では、約70%の女性が結婚や出産を機に、家庭に入って おり、依然としてM字型の就労形態を示している。また、仕事と育児を両立している女性に とって、その二重負担は深刻な問題となっている。これまでの日本では、男は仕事・女は家庭 という性別役割分業の価値観が主流であり、男性が外で働く一方、女性は家事や育児、介護 といったケア的な役割を担っていた。現在においても、国際的に見ると、日本では家庭に おいても労働市場においてもジェンダーに基づく分業が非常に強固である。ジェンダーに 基づく、性別役割分業は、社会・文化・個人的要因が複雑に絡み合った結果といえるだろう。
 現在の女性は自分のライフスタイルを自由に決定することができ、仕事を中心とした ライフスタイル・家庭生活を中心とするライフスタイル・仕事と家庭生活のバランスを重視 するライフスタイルの3つから選択できるようになったと言われている。本研究においては、 女子大学生の子育てと女性の就労についての意識調査を行い、現在の女子学生が抱く将来の ライフスタイルの選択傾向性を分析したいと考える。また、他の先進諸国と比較し、性別役割 分業が根強く残っていると言われる日本であるが、女子大学生の意識においてもそこに国際的 な差が見られるのか考察したいと考える。本研究では、日本同様多くの女性が高学歴化し、 社会進出を果たしつつも、80年代後半から90年代の前半においてM字型の就労形態から脱却 したといわれるイギリスに焦点を当て、日本とイギリスの女子大学生を対象としたインタビュー 調査により、比較研究を試み、両国の実態について考察を深めたいと思う。

2.研究の視点および方法

 調査は、2009年1月に、イギリスのA大学で女子大学生4名に対し、また日本のB大学の 女子大学生4名の計8名の大学3年生に対して、インタビュー調査を実施した。両大学において、 できるだけ近い学習環境にある学生へのインタビューを試みたいと思い、両大学で教育及び 保育分野を専攻している学生に対象を絞り、協力してくれる学生を募り、インタビューを 実施した。本研究では、女性の社会進出について、また、個人のライフスタイルの選択を どのように考えているかに視点を当てて調査を行うため、より一人ひとりの声や意見に耳を 傾けたいと思い、質的調査を実施した。全ての質問回答を記録・分析するため、テープ レコーダーを用い、回答は全てを書き起こして分析を行った。

3.倫理的配慮

 倫理的配慮としては、インタビューを始める前に、この調査の趣旨を十分に説明した うえで、匿名のうえで、調査の結果を論文としてまとめることについて承諾を受けている。 また、インタビューの回答を全て書き起こして分析資料とするため、テープレコーダーに 録音することを説明し、了承を得た。本調査では将来のライフスタイルの選択について等、 個人的な趣旨の話を尋ねるため、個人のプライバシーが守られるように、より慎重に対応 するように努めた。

4.研 究 結 果

 日本とイギリスの学生共に、女性も積極的に社会進出を果たしていくべきだと回答して おり、イギリスの学生の回答では、社会参加は女性の権利であり、それは男性同様に守られる べきだと、平等の権利として捉えている側面が浮き彫りになった。一方、日本の学生において は、現在は過去と比較して、女性が社会進出できるようになり、より男女平等の社会になって きていることを言及している傾向にあった。また、将来のライフスタイルの選択としては、 イギリスの学生においては、2人が経済的に可能であれば専業主婦になることを望んでおり、 1人は子どもが産まれてから数年は家庭にいたいと話している。仕事と育児を両立したいと 答えた学生は1人に止まる結果となった。一方、日本の学生は、4人の学生共に、一度は家庭 で家事、育児に専念し、その後仕事に復帰したいと回答している。また、父親と母親の理想 とする役割分担として、イギリスの学生においては、家事と育児の責任を平等にするべきだと 答えた学生が多く、将来家庭を持った際には、夫と家事や育児を分担して行いたいと全員が 回答していた。一方、日本の学生においては、男女平等の考え方が社会的にも広まり、多くの 女性が社会進出をしている背景を踏まえて、家事や育児が分担できることが理想と考えている 傾向にある。しかし同時に、未だ伝統的な男女の役割分担も日本社会においては根強く残って おり、分担をすることは難しいと言及するなど、男女の役割分担においては理想と現実に差が あることを指摘する傾向にあった。

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