自由研究発表家族福祉  越智 祐子

求められる多胎育児支援とは
 -養育者へのインタビューからの探索的検討-

○ 同志社女子大学  越智 祐子 (会員番号5394)
キーワード: 《多胎育児支援》 《社会との相互作用》 《ピアサポート》

1.研 究 目 的

 本研究の目的は、近年増加しているとされる、「多胎児を持つ家族(以下、多胎児家族と記す)」について、①「多胎児を養育するということ」の特徴を示し、②育児支援が必要であることを社会福祉学的な立場から示すことである。
 近年、不妊治療の影響や高齢出産の増加等により、多胎妊娠および出産が増加していると言われている。少子社会である日本において、育児支援策の充実は喫緊の政策課題としてとらえられている。少子傾向が続いている昨今、多胎妊娠は、医学的な意味からは「ハイリスク妊娠」と呼ばれ、妊婦にとって心身の負担が極めて大きい。また、多胎児の養育に関しても、ケア対象が複数であることから、養育者の身体的・心理的・経済的負担が大きいことが指摘されてきた。
 これらは主として、母子保健の領域において対応が検討されてきた問題である。比較すると、多胎児の養育者をはじめとする多胎児家族の社会生活に着目した研究はそう多くない。そこで本研究は、多胎児の養育者が感じている主観的な育児の難しさや負担について、多胎児家族をとりまく社会環境とのあいだの相互作用に着目して検討する。この作業によって、多胎児や多胎児家族に対する社会の側のまなざしがどのようなものかということが、多胎児の養育者の持つ多胎育児負担感に関連していることが示される。  

2.研究の視点および方法

 養育者の主観から多胎育児の特徴を探るために、多胎児を持つ養育者(母親)であって、未就園の多胎児を持つ人を主な対象として半構造化インタビューを実施した。インタビューは、A県下のピアサポート活動である多胎育児サークルBの参加者を対象として2008年7月から8月にかけて実施された。主な質問項目は、多胎児の母となる経過やその間に起こったエピソードについて、多胎育児の主観的な楽しさや困難さについて等である。
 インタビュー内容は、協力者の同意を得て録音し、後日逐語録を作成した。その後、逐語録の内容をインタビュー協力者に確認してもらい、最終的なインタビュー記録を作成した。なお、分析にあたっては、他の地域のピアサポート活動参加者やサークルリーダーへの補助的なインタビュー調査の結果を参考にした。

3.倫理的配慮

 インタビュー調査実施にあたっては、調査概要について口頭ならびに書面による説明をおこない、協力者の同意を得た。取得したデータについては、個人が特定されないよう注意をはらって、コード化処理等をおこなった。

4.研 究 結 果

 インタビュー調査の結果、養育者たちは多胎妊娠および多胎育児は、自分があらかじめ持っていた妊娠や育児についてのイメージとは異なる部分が多い、と語った。また、外出が非常に困難であることも語られた。歩道が整備されていないと、横型のふたごベビーカーは通ることができない場合も多い。
 しかしいったん外出をすると、「ふたご(やみつごなど)を連れている」という理由で、見知らぬ人から多く声をかけてもらえるという体験をする人も多い。この体験は基本的にはうれしいと感じられる類の体験に分類されるが、一方で両義的な面をもあわせもっている。それは、声をかけてくる人の持つ一方的な多胎児イメージによって、養育者が傷ついたケースがあるという語りに示されている。たとえば、養育者自身の考えとあまりにかけ離れていて理解されていないとつらい思いをしたり、一方的にマイナスのイメージをぶつけられたなど、典型的には、「ふたごはそっくりであるはず」「ふたごは以心伝心しているはず」や、差別的な産育習俗への言及等が挙げられる。
 以上の結果から、多胎児養育者はある意味において「育児マイノリティ」であると考えてよい。このことは、多胎育児支援がピアサポート活動を中心として展開されてきていることからも推測できる。当事者同士であればわかりあえる、ということに価値が置かれているのである。このことは別の言い方をすれば「わかってもらえない」ことによる困難があるということである。つまり、多胎育児の困難は単純に、ケア対象が複数いることによる困難だけではない。この、「多胎育児の困難の原因は、多胎児そのものではない」という問題は、障害を、心身機能の特徴としてとらえない障害学の知見を用いて考察することが有効だと考えられる。

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