自由研究発表家族福祉  豊村 和真

デイサービス利用者を介護する家族介護者の介護負担感に関与する
 要因の検討

○ 北星学園大学  豊村 和真 (会員番号49)
キーワード: 《ディサービス》 《家族介護者》 《負担感》

1.研 究 目 的

 日本ではこれまで介護負担感に関連する研究は数多く行われてきた。欧米では介護負担感に関連する要因として,うつ状態や精神的落ち込みなどの心理的・精神的要因に関する報告がされてきているが,日本では,介護負担感に影響を及ぼす要因として,デイサービス利用者を介護する家族介護者の心理的・精神的要因を量的な心理尺度を用いて検討した報告はあまり見られない。急速な高齢化により,在宅介護が増え,要介護者と家族介護者の関係が重要視されていく中で,デイサービス利用者を介護する家族介護者の心理的・精神的要因を検討することは非常に意義のあるものと言える。
そこで,デイサービス利用者を介護する家族介護者の介護負担感に影響を及ぼす要因として,デイサービス利用者とその家族介護者における属性がどのように影響しているのかをみる。さらに心理的・精神的要因として家族介護者のQOL と抑うつ度を用い,属性に加えることによって,介護負担感に与える影響の程度を検討することを本研究の目的とした。
作業仮説を,「家族介護者の心理的・精神的要因をデイサービス利用者とその家族介護者の属性に加えることによって介護負担感への影響力が増す」とした。

2.研究の視点および方法

 2009年8月に,TデイサービスとSデイサービスの利用者とその家族介護者を対象に質問紙による調査を実施した。このうち質問紙に記入漏れのなかった88名(内訳はデイサービス利用者男性36名・女性52名,家族介護者男性18名・女性70名)を分析の対象にした。
[デイサービス利用者用質問紙]
1)フェイスシート:年齢,性別,要介護度,デイサービスのおおよその利用期間を回答させた。
以上のように作成された質問紙について,大学の講義時間終了後に回答させた。
2)ADLの測定:BI(Barthel Index)10項目(田中・武政・嶋田,2007)を「はい」か「いいえ」の2件法で回答させた。
[家族介護者用質問紙]
1)フェイスシート:年齢,性別,要介護者との間柄,おおよその1日の介護時間,睡眠時間を回答させた。
2)介護負担感の測定:J-ZBI短縮版(J-ZBI_8)を①思わない,②時々思う,③いつも思う,の3件法で回答させた。
3)QOLの測定:PGCモラール・スケールの日本語版17項目を2件法(14項目)と3件法(3項目)で回答させた。
4)抑うつ度の測定:GDS-15の日本語版15項目を①はい,②いいえの2件法で回答させた。

3.倫理的配慮

 配布アンケートは匿名にし、データの処理に当たっては,個人名が特定できないように配慮した。

4.研 究 結 果

 重回帰分析を行った結果,家族介護者のQOLは介護負担感に有意な影響力を持っていたが,抑うつ度に関しては,介護負担感に有意な影響力は持っていないことが明らかになった。抑うつ度が影響しなかった理由としては,本研究における対象者がデイサービス利用者であり,要介護度も軽度な利用者が非常に多かったことから,家族介護者が利用者に対する介護があまり負担とならず,普段から抑うつ状態の家族介護者が少なかったのではないかと考えられる。
 しかし,デイサービス利用者と家族介護者の属性にQOLと抑うつ度の心理的・精神的要因を加えることで重回帰分析における自由度調整済み決定係数は増加した。このことから,仮説はある程度支持されたと言えるだろう。
 今後は心理的・精神的要因としてQOLや抑うつ度だけでなくストレス尺度などをも加え、多角的に介護負担感に影響を及ぼす要因を探る必要があるだろう。
 なお,本研究は非学会員の堀切智洋、林谷康史、宮村善英氏との共同研究である。

【文 献】
荒井由美子・工藤啓 2004 Zarit介護負担感尺度日本語版(J-ZBI)および短縮版(J-ZBI_8) 公衆衛生 68(2),125-127.
前田大作・野口裕二・玉野和志・中谷陽明・坂田周一・Jersey Liang 1989 高齢者の主観的幸福感の構造と要因 社会老年学 30,3-16.
田中清美・武政誠一・嶋田智明 2007 在宅要介護高齢者を介護する家族介護者のQOLに影響を及ぼす要因 神戸大学医学部保健学科紀要,23,13-22
矢富直美 1994 日本老人における老人用うつスケール(GDS)短縮版  の因子構造と項目特性の検討 老年社会科学 16,29-36.

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