自由研究発表思想  山下 幸子

自立生活を送る身体障害者からみた「資格」の意味
 

○ 淑徳大学  山下 幸子 (会員番号4434)
キーワード: 《資格》 《介助》 《介助関係》

1.研 究 目 的

 本研究は、昨年度第57回日本社会福祉学会報告を継続して行うものである。
  2010年3月から開始された「今後の介護人材養成の在り方に関する検討会」では、介護福祉士資格や、介護人材養成の基本的な方向性に関する議論等が行われている。2004年7月の社会保障審議会介護保険部会において、介護職の資格要件は介護福祉士を基本とすべきであるという方針が示されたわけだが、現在はその流れを引き継ぎつつ、さらにホームヘルパー2級資格、介護職員基礎研修、介護福祉士、専門介護福祉士と、「キャリアアップ」に向けた介護資格の階層化を進めようとしているところである。  
 障害児者福祉の分野において資格が厳密に問われるようになったのは2003年度からである。ここにおいて、訪問介護従事者に何らかの資格が求められることになった。2010年現在、資格や研修としては、介護福祉士、介護職員基礎研修、ホームヘルパー資格(1、2級)が主なものとしてあり、その他サービスに応じて重度訪問介護従事者養成研修や行動援護従事者養成研修が、上記資格の選択肢に加えられることになる。
 制度として介護従事者に何らかの資格が求められ、さらにどのような資格や研修を受講しているかによって報酬が変わる仕組みがとられている。こうした仕組みには、いくつか課題があるだろう。その一つが、昨年度から続く本研究の問題意識である、介護の質を資格や各種研修受講の有無で評価しようとする傾向への再検討である。専門性が高いとされる人の行う介護の水準が、介護を受ける本人にとっても本当に高いと認識されているのか。こうした検証が十分に行われているとは言い難いのではないだろうか。
 以上のことから本報告では、日々介助を受ける障害者にとって「資格」はどのように意味づけられているのか、ということを研究設問とし、研究を進めることとする。

2.研究の視点および方法

 本研究は、障害当事者の視点から、資格の是非や必要とされる介助者像について検討を行うものである。この究明にあたり、2009年1月から現在に至るまで、報告者はα事業所において介助を継続的に行うかたちで参与観察を行っている。合わせて、2009年8月から現在まで、日常的に介助を要する身体障害者へのインタビュー調査を行っている。
 インタビューでは事前に調査の趣旨や目的を示し、その後は調査協力者の自由な語りに沿いながら適宜質問を重ねる半構造化インタビュー法を採用している。 インタビュー調査項目は、概ね次の2点である。1点目は介助派遣事業者の立場からみる資格制度のありかたについてである。ここでは、2003年度以前と以降との違い、ヘルパー募集の際に資格必須化はどう影響するかを主に質問している。そして2点目は自立生活理念から考える介助者のありかたである。現在の資格重視の方向性、介助の質の高さと資格との関係、介助者に高めてほしい技術等を質問している。

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会研究指針に則った倫理的配慮を行う。文献研究にあたっては引用等のルールを厳守する。またインタビュー調査においては、調査協力者による本研究のチェックとともに、プライバシーに十分配慮する。

4.研 究 結 果

 調査を通して、まず、資格の有無で介助者の質の高低ははかれないという声が多く聞かれた。介助内容や関係性の作り方には個別性があり、一般的な知識をその人固有の身体・生活環境等に落とし込むことには、そもそも無理があるとしている。介助内容や介助の関係性の持ち方は極めて個別性の高いものであるため、有資格であっても“その人にとっての”介助の質の高さが担保できるとは限らないとの指摘がなされている。また制度面でいえば、資格要件が介助派遣現場の人材不足につながっているということである。例えば「移動支援」研修は比較的短時間で修めることができるが、それだけだと他のサービスに従事することができない。1人の障害者の生活を細分化し、各々のサービスに資格要件を課すことで、「人はいるのに介助ができない」という状況が生まれている。他、どのような介助者を求めるかという質問を行ったところ、そこで第一に話されるのが、「話をちゃんと聞いてくれること」や「性格・テンポが合う」といったことであった。これは言語でその方法を伝達するのが極めて難しく、介助する者とされる者とのその場のやりとりに即したものである。こうした要求が第一に発せられることを考えると、知識量や一般的な技術の有無で評価され合否が決まる資格制度とは別の位相で介助の質を論じなければならないのだろう。  
 介助を受ける当事者にとって、資格はどのように意味づけられるのか。こうした問いから出発した研究であるが、研究を進めるにあたって資格制度に関し議論すべき点が見出せた。介助という行為は、そもそも資格制度になじむのか。また、現行の資格重視の流れへの問題を指摘したとしても、では日々の生活に必要な介助の質はどのように担保するべきなのか。本報告では、障害当事者への調査から見えてきた実態の明確化に焦点をおくが、こうした実態をもとに上記の点を考察する必要がある。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る

お問い合わせ先

第58回秋季大会事務局(日本福祉大学)
〒470-3295 愛知県知多郡美浜町奥田
日本福祉大学 美浜キャンパス

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第58回秋季大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp