リシリエンシー要素(resiliency factor)における保護要因(protective factor) -填補対象としてのセルフ・エフィカシーの考察-
○ 社会福祉法人山根会 扇谷秀樹 (会員番号84)
キーワード: 《リシリエンシー要素》 《保護要因》 《填補》
日本ソーシャルワーク学会大会(第27回 平成22年7月4日(日):於 明治学院大学)では、ソーシャルワーク領域においてリシリエンシー要素(resiliency)における危険要因と保護要因についての関連性についての考察を提示する予定である(原稿執筆時、未発表のため)。今回大会発表では、ソーシャルワーク支援方法としてリシリエンシーの概念を展開するときに必要な思考方法である保護要因に焦点をあて、リシリエンシー要素(Resiliency
Factor)と保護要因の関連についてクライエントへの填補概念となる、セルフ・エフィカシー(自己効力)をとりあげ、議論を深めたい。
本発表では、ソーシャルワーク実践において、リシリエンシーに着目した支援を行う場合、リシリエンシー要素に欠ける状態を想定する必要がある。リシリエンシーにおける危険要因と保護要因の関係は、人が逆境にあるときに問題状況へと陥らせないようにオートノミーが働くと思われるが、それが機能しないときに危険要因が問題状況を招く要因となってしまう。そこでソーシャルワーク実践において、危険要因をアセスメントし、保護要因を注入することで問題状況の顕在化を防止する機能が働くものと思われる。そこでリシリエンシー要素(resiliency Factor)に着目し、その有無のアセスメントにより、今後の支援の指針が与えられる可能性が示唆されたと結論付けた。これを踏まえ、構成要素のひとつであるセルフ・エフィカシー(Self
Efficacy:自己効力)に焦点をあて、リシリエンシー要素の填補に関し、どのような関係、役割、意義があるのか、明らかにしたい。
填補については、『不足をうめおぎなうこと。欠損をうめたすこと』という定義がある(広辞苑より)。この点に着目する。補填を必要とする要素のうち、セルフ・エフィカシー(Self Efficacy:自己効力)は、主にA.バンデューラらによる社会的学習理論(Social Learning)のキーワードであり、すでに心理学領域で相当の研究蓄積がある。そこでこの分野での研究の進展との関係に留意する。
なお、前回発表同様、本邦におけるリシリエンシーに関する研究の蓄積がこれからの課題であるという状況を踏まえ、主として英語圏(主に北米)の研究論文ないし文献を用いた文献研究方法を採用する。これによりリシリエンシー概念におけると保護要因との関係を基に、「填補」という支援の思考を用いて、セルフ・エフィカシー(Self
Efficacy:自己効力)を補填填補する意義について、ソーシャルワークの立場から吟味と検討を試みる予定である。
3.倫理的配慮
基本的立場は、社会福祉関連学会の研究倫理指針に基づき、配慮を行う。
本研究は文献検索による研究が主体となることから、特定のクライエントに関する個人情報はない。引用ないし参考文献については、その出典及び引用箇所を明示することにより、研究報告者の見解との対比が容易にアクセス可能な環境に努める。本研究で用いる参考文献は、自由研究報告当日に配布するハンドアウトに、その詳細を示すので、参照されたい
4.研 究 結 果
1.セルフ・エフィカシー(自己効力)の有無
ある克服すべき問題が起きた場合、その問題を克服するには、自分であればどういった方策を用いて乗り越えてゆけばよいかという見積もりを立てることができる人がいる。その際に自らの力量を正しく認識できる能力が欠如している場合、能力を超えた無理な作業・取り組みをすることにつながりかねず、結果として課題克服に到らない恐れがある。そこでこういった自己効力の有無は、リシリエンシーを発揮するための重要な要素となる。
2.A.バンデューラによるセルフ・エフィカシー(自己効力)と人のコンピテンス(能力)の関係性の定義 バンデューラは、自己効力とコンピテンスとの関連性を指摘している。バンデューラはコンピテンスを、『あいまいな、予測しがたい、ストレスとして作用するような要因を含む状況をうまく切り抜けるために、「認知」的な、「社会」的な、そして「行動」的な、能力有し用いることのできる生産的な技能である』と規定している。この能力を使って人間が判断を下す内容こそがセルフ・エフィカシー(自己効力)であるとしている。
3.ノーマンによれば、セルフ・エフィカシー(自己効力) については、絶望感(learned hopelessness)と対立する概念であり、自尊心(self
esteem)、自信(confidence)、確信(belief)を暗示している概念であるという。
4.ローカス・オブ・コントロール(locus of control)の概念も、セルフ・エフィカシー(自己効力)に近似する概念の一つであると思われる。
上述の4点は、リシリエンシー要素における保護要因のうち、填補対象として不可欠であり、この点を意識した予防的ソーシャルワーク実践が展開の重要性を指摘したい。