自由研究発表思想  松原 浩一郎

天理教教祖中山みきの福祉思想

○ 吉備国際大学  松原 浩一郎 (会員番号2890)
キーワード: 《天理教》 《福祉思想》 《中山みき》

1.研 究 目 的

 天理教社会福祉施設連盟に加盟している施設数は、平成21年12月現在133ヶ所におよんでいる(幼稚園が9施設含まれている)この中でもっとも古い施設は1910(明治43)年創立の児童養護施設天理養徳院で、今年で創設100年を迎えた。また、施設の種類も乳児院・重症心身障害児施設など全国的にも比較的少ないものから高齢者施設や障害者自立支援法に基づく事業まで多岐にわたっている。これらはすべて天理教の教会あるいは信者が発起して設立したもので、創設や運営の理念に濃淡はあるにしろ天理教の教えが反映されている。  
 これらの施設が創設された要因はさまざまである。その一つとして教義(教理)の中にある福祉思想に着目すべきであろう。そこで今回の発表は、天理教教祖中山みき(1798-1887)の教えや実践のなかに含まれる福祉思想を、現代福祉を支える原理に関係する6つのキーワードから明らかにすることを目的とする。
 天理教者にとって、教祖中山みきが神がかりにあって(1838年)から出直す(死去)までの50年間が意味するところは大きい。信者はこれを「ひながた(の道)」と称して、教祖の足跡を慕いそれを模倣することが信仰実践そのものであると認識し、自らの生活倫理・生活規範を形づくる。したがって、社会福祉施設の創設そしてその後の運営にも教祖の価値規範体系が大きく影響をおよぼすことは言うまでもない。
 当然ではあるが、天理教の社会福祉施設も民間社会福祉施設の中に位置づけられる。このため、天理教教義がそのまま社会福祉理論を形成するものでもなく、布教活動と社会福祉活動とを混同することは間違いである。つまり社会科学の理論や視点を無視して存在するわけではない。しかし一方で、天理教の教会やその信者が実践主体となって施設が創設されてきた事実は、その主体的契機として天理教精神の発露があることも当然と言えよう。つまり教祖が説く教義を根本とする行動の価値規範体系によって形成されてきたのである。100年の歴史を持つ天理教の社会福祉実践を支える天理教社会福祉の理論体系が、現代社会福祉の中でどのような歴史的・社会的使命を与えられているかということを、再度確認することが本研究の最終目的であり、その一環として今年度は教祖の福祉観に焦点をあてるものである。そして、次年度以降は、天理教社会福祉施設連盟に加盟しているいくつかの施設を取り上げて、実際に教祖の福祉思想がどのように影響し、具現化してきたかということを明らかにしたい。  

2.研究の視点および方法

 先にも述べたように、天理教者にとって教祖の50年の足跡は特別な意味を持つ。そのため、教祖の足跡が記述されている「天理教教祖伝」および「天理教教祖伝逸話篇」(いずれも天理教教会本部編)および教祖直筆の「おふでさき」と教祖がつくりあげた「みかぐらうた」を手がかりに教祖の福祉思想を明らかにする。その際、社会福祉を支える原理として松本1)が主張する「人間尊重の理念」「ノーマライゼーションの思想」「個人としての自立」「参加と連帯」の4つと、「平等観」と「平和主義」の6つをキーワードとして考察をくわえるものである。
 なお、以下天理教教祖伝は「伝」同逸話篇は「逸」おふでさきは「お」みかぐらうたは「み」と略し、その後の数字は頁や通し番号を意味する。  

3.倫理的配慮

 本研究は文献研究であり、著作権等に抵触しないように引用および参考については、学会の倫理規定に従って処理し、発表するものである。 

4.研 究 結 果

 「伝」によると、中山みきに親神天理王命がはじめて憑依するきっかけは、長男中山秀司の足痛平癒を願う祈祷の最中である(伝2-4頁)ところが秀司はこの足痛により障害を負うことになり終始完治することなく生涯を閉じるのである(伝150-152頁)長男の障害については、「お」1号31-35および12号118-122においても書き記されている。安産の神としてはじまった教祖の霊能があらゆる病気・障害の平癒へと広がったにもかかわらず長男の足痛を完治することがなかったのは、障害者との共生を意味する事例(ひながた)と言え、この点に関しては「逸」147本当のたすかりという逸話にも述べられている。足の痛みをたすけられた山本いさが、手のふるえをたすけてもらおうとして教祖のもとへ来たとき教祖はたすけるのは簡単だが、少しぐらい残っているほうが本当のたすかりであると諭している。  
 このほか、以下のように人間尊重・ノーマライゼーション・個人の自立・参加と連帯・平等観・平和主義について述べられている。これらの詳細については紙面の都合発表において別紙をもって補足する。  
◎人間尊重→逸45心の皺を、お1号52、お14号25 ◎障害者観→お1号31、お12号118
◎個人の自立→お5号8、
◎参加と連帯→逸135皆丸い心で、お12号93-94、お13号43 
◎平等観→逸4一粒万倍にして返す、逸28道は下から、逸92夫婦揃うて、逸39もっと結構、逸150柿、逸189夫婦の心、逸190この道は、お13号43-48、お7号21
◎平和主義→逸183悪風というものは、み2-6、お1号19-20、お3号144 注 1)松本峰雄(2005)『社会福祉と人権問題』明石書店、25  

注 1)松本峰雄(2005)『社会福祉と人権問題』明石書店、25

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