自由研究発表NPO・ボランティア  宮武 正明

生活困難な家庭の児童の学習支援はなぜ大切か
 -高校就学保障に至る経過と現在の実践課題-

○ こども教育宝仙大学  宮武 正明 (会員番号6485)
キーワード: 《高校就学費生業扶助》 《児童養護施設特別育成費》 《中学生勉強会》

1.研 究 目 的

今日では、生活保護世帯には高校就学費、小・中・高校生に学習支援費が支給され、 児童養護施設には特別育成費として高校就学費、大学進学等自立生活支度金が支給されて いて、福祉事務所や児童相談所、児童養護施設の現場ではそれが当然のこととなっている。
 これらのことは、生活困難家庭の子どもの勉学意欲を壊さないことだけでなく、高校就学 を憲法第25条最低生活保障の保障として位置づけ、さらに貧困の再生産を防止するという 視点に立っている。
  端的にいえば、今日のわが国で、もし家計が貧しいなど様々な事情で高校進学させられ ない子どもがいたならば、生活保護を受給するか、児童養護施設に入所させれば、すべての 子どもが高校就学できるのである。
  少なくとも、生活保護と児童養護施設等の制度・施策では、二十年余にわたる現場での取り組みを通して、すべての子どもの高校就学保障のしくみが実現されてきたのである。
  本報告では、長期にわたる実現への過程を私も現場から関わった経過と現在地域と児童養護施設等において生活困難な家庭の児童への学習支援をどのように行えばよいかをまとめることとしたい。

2.研究の視点および方法

生活保護世帯、母子父子世帯、生活困難世帯の児童の場合、子どもの高校就学が世帯全体の自立に果たす効果は決定的に大きい。生活保護世帯の場合、子どもが高校卒業後の就職によって世帯の生活保護が廃止になる場合が多い。一方で高校不進学の場合は、それら の子どもの多くが途中でその世帯から離れざるを得ないため、世帯の生活苦はその後も続いていく。したがって、単に子どもが貧困の再生産を繰り返さないことだけでなく、世帯全体の 社会的自立の観点からもこれらの世帯の子どもへの高校就学援助の徹底が求められてきたの である。これらのことは、児童養護施設等の入所児童についても同様である。
 そうしたことから各地の福祉事務所ケースワーカーは、長年、生活保護世帯の高校就学費 について小・中学生の教育扶助と同様に「教育扶助を適用する」ことを国に求めてきた。
 それらの現場の声を受けて、国は2004年社会保障審議会に設置された専門委員会の検討 と意見具申により、2005年4月から生活保護世帯の高校就学費を「生業扶助」として支給する こととし、さらに2009年7月からは小・中・高校生に学習支援費の支給も始めたのである。 それらの経過について、表に示す。

1 1969年3月まで、生活保護制度は生存権・最低生活の保障であるので、義務教育を終えた子どもは働いて収入を得なければならない。ただし夜間に定時制高校に通う場合はその児童を世帯分離して世帯員から除くことが認められていた。
2 1969年4月~2005年3月は、特別奨学生等奨学金・就学資金貸付の対象になった児童に限って全日制高校進学・就学は認められるとした。実際にはこの段階で全日制高校進学が認められたことになった。その場合食費等は生活保護によるが、いっさいの就学経費は奨学金によって賄うことが求められた。
3 2005年4月以降、今日の高校就学は健康で文化的な最低生活保障として保障されるものとし、高校就学に要する具体的経費は「生業扶助・高校就学費」として支給されることとなった。ただし、私立高校の場合は公立高校に準じるまでとし、不足分は奨学金・就学資金貸付の活用が必要である。
4. 2009年7月以降は、今日の生活保護世帯の児童の学力不振による貧困の連鎖の防止のため、小・中学生には教育扶助に「学習支援費」を追加、高校生には生業扶助・高校就学費に「学習支援費」を追加することなり、現在支給されている。
  かつて児童養護施設、児童自立支援施設等に在所する子どもは中学卒業後すぐに施設から 出て自活し、その時点で措置は解除された。施設から中学卒業で社会に出た子どもたちの 多くは、不安定な就労のため転職を繰り返しさまざまな問題に直面していった。この時期、 多くの児童養護施設において、施設出身者の「貧困の連鎖」「要養護児童の再生産」の事例 が見られた。そうした状況から各地の児童養護施設において高校に進学させる取り組みが 進められた中で、児童養護施設の児童の高校就学は、次の表の様な経過をたどった。
1 1973年4月まで、児童養護施設に入所した児童は、中学卒業により義務教育を終えると、施設から社会に出て働かなければならない。その時点で施設の措置は解除された。ただし、施設の努力によって費用を捻出し、高校就学に力を注いでいた児童養護施設も少なくなかった。
2 1973年5月1日付「高校進学の実施について」厚生省児童家庭局長通知により、成績優秀者に限って公立高校進学を認めることとし、就学費用について措置費に特別育成費が追加された。この時期、都道府県および施設によって取り組みの違いが生じた。
3 1988年4月10日付「高校進学の実施について」厚生省児童家庭局長通達は、児童養護施設・児童自立支援施設に積極的に高校進学への取り組みを求めた。この通達により公立高校・私立高校とも必要な入学金、授業料、その他の経費は措置費の「特別育成費」として支給されることとなった。
4 2006年4月以降は、高校卒業後さらに大学進学等をめざす児童は、「特別育成費・大学進学等自立支援支度金」が支給できることとなった。その場合の大学生活は施設から出て、学費等は奨学金およびアルバイト等による。

3.倫理的配慮

 地域の取り組み、児童の事例も紹介するが、個人を特定できる報告はありません。

4.研 究 結 果

現在、生活保護の現場では生活保護受給母子世帯の「母子自立支援プログラム」の 作成が求められている。母子自立支援プログラムのモデル都市で生活保護受給母子世帯の 調査が行われたが、その中でわかったことが注目される。受給母子の学歴についてである。
① 北海道釧路市2006年調査、17.5%が中学卒業、16.8%が高校中退、合わせて34.3%.
② 千葉県八千代市2007年調査、26.9%が中学卒業、16.4%が高校中退、合わせて43.3%
  生活保護受給母子世帯は高校就学ができなかった、ないしは不十分に終わった場合が 3~4割であった。これらの母親は高校進学率がすでに95%以上の時代に中学卒業あるいは 高校中退となっているものであり、このことからも、各地域の行政と教育が高校就学を徹底 するための教育支援を行っていたら、これらの貧困は縮小させることができたことがわかる。
  最近になって、福祉の分野で、様々な問題を抱えた子どもたちの学習支援の必要性が 叫ばれ始めている。児童養護施設における「18歳年度末までの養護」の取り組みだけでなく、 金銭の支給だけでは問題は解決しないことから、子どもたちを対象にした学習支援の取り組み が、すでに20年以上続いている江戸川勉強会に習って、広がりをみせている。ここでは、 これらの取り組みと学習支援の方法について、実体験を含めて報告する。

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