自由研究発表NPO・ボランティア  荒川 裕美子

福祉系大学新入生の援助授与および要請行動に対する意欲の程度と
 それに影響を与える諸要因の関連

○ 川崎医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 医療福祉学専攻 博士後期課程  
荒川 裕美子 (会員番号6706)
川崎医療福祉大学 医療福祉学部 医療福祉学科  吉田 浩子 (会員番号6201)
キーワード: 《大学生》 《他者支援意識》 《ボランティア活動》

1.研 究 目 的

 筆者らはこれまでに、大学生の対人支援ボランティア活動への参加意欲の向上に つながる手掛かりを得ることを目的とする研究の一貫として、対人支援ボランティア活動 等、「他者を支援すること」に関する福祉系大学生の意識調査を実施し、彼らのボランティア 観は多様かつ曖昧で、「困っている人に自分の余剰品を譲渡すること」をボランティアと して認識する傾向があることなどを明らかにしてきた。本来、対人支援ボランティア活動 に代表される他者を支援する社会活動は、地縁や血縁を超えた社会の構成員間の相互支援 であると考えられるが、その活動に至る各個人の「他者を支援したい」と願う心のあり方は、 身近な人に対する「思いやり」や「優しさ」といった言葉で表現される他者支援への希求の 延長線上にあると考えることはできないだろうか。今回は、対人支援ボランティア活動に 代表される他者支援意識の発現の基盤となる心のあり方とそれに影響を与える諸要因の解明 を目的とする研究の一端として、大学生新入生の入学後の他者支援意識の変化に注目した。 大学入学直後の新入生は、人間関係を含む大きな生活環境の変化に適応することを求められる。 見知らぬ環境の中で新たな人間関係を構築するという課題に取り組む過程で、「困っている 友人を助ける」(援助授与行動)、「自分が困ったときに友人に助けを求める」(援助要請 行動)等に対する意識は時間の経過とともに変化するのだろうか。変化が見られるとしたら その変化はいかなる変化で、変化をもたらす要因は何なのか。本研究の目的は。他者支援 行動発現の基盤となる他者支援意識を限定的かつ定量的に調査し、得られた結果から大学生 の他者支援意欲の向上に関する手かがりを推察、考察することにある。

2.研究の視点および方法

 2009年の4月および7月に、福祉系A大学に在籍する大学1・2年次生を対象に、全く 同じ内容の質問紙を用いた自記式の集合調査を2回実施した。質問紙では、調査対象者に、 大学内の友人に対する8項目の援助行動について、各行為の実行者となることに対する意欲、 および、各行為の要請者となることの意欲の程度について尋ねた。さらに、彼らの大学生活 状況の自己評価の指標として、①家族関係(6項目)、②大学内における友人関係(特定の グループ(現在大学内で行動を共にしている自然発生的集団で、学年と学科の同じ人の 集まり)の所属の有無、グループに対する満足度)、③大学生活に対する不安の程度(大学 生活不安尺度(藤井、1998))、④ボランティア活動への参加状況を用いた。回収した 質問紙690枚のうち、双方の調査に参加した計392人(1年生120人、2年生272人)の回答を 解析の対象とした(有効回答率57%)。

3.倫理的配慮

 日本社会福祉学会の倫理規定に準拠したインフォームド・コンセントの内容は書面 で示し、かつ口頭にて教示した。質問紙回収後、記載された個人の番号は当該研究者では ない情報管理者によって無作為に匿名化され、当該研究者は匿名化された後のデータを 統計処理に用いた。調査協力者に対しては、個人が特定されないこと、本研究以外の目的 に使用されることは一切ないこと、本調査への協力は自由意思であること、答えたくない 質問に対して回答する必要はないことを教示し、同意を得た場合のみ協力してもらった。 なお、本研究は川崎医療福祉大学倫理委員会による承認を受けた(承認番号127)。

4.研 究 結 果

 調査対象者全体の、大学内の友人に対する援助授与行動に対する意欲(各行為の実行者 となることに対する意欲)および援助要請行動に対する意欲(各行為の要請者となることに 対する意欲)の程度の経時的な変化は、学年によって異なることがわかった。例えば、「友人 に勉強を教える」という行為に対する意欲の程度は、1年生では、4月から7月の3ヶ月間で意欲 が低下した学生の人数の割合が最も多かった(54%)が、2年生では、意欲の程度が変わらなかった 学生の人数の割合が最も多かった(49%)。
 さらに、調査対象者の援助授与行動および援助要請行動に対する意欲の程度の変化と、 生活状況の各指標との関連について調べた。4月と7月の結果を比較した結果、1年次生に おいて、行動発現の意欲の程度と、人間関係に対する評価及び大学生活に対する不安の程度 に関連がある行動があることがわかった。例えば、「友人に悩み事を相談する」という行為 に対する意欲の程度に上昇が見られた学生の51%に、グループへの満足度の上昇が見られた。 また、「友人に代筆を頼む」という行為に対する意欲の程度に低下が見られた学生の69%に、 大学生活に対する不安の低減が見られた。2年生においては、これらに有意な関連は見られ なかった。
 以上の結果から、特に1年次生において、身近な友人に対する援助授与行動および援助要請 行動に対する意欲の程度が、大学入学後の3ヶ月間で大きく変化しており、それらは彼らを 取り巻く様々な環境に対する自らの評価と関連していることがわかった。この3ヶ月間に 1年次生は2年次生より大きな環境の変化を経験しており、新しい生活環境への適応の程度が 彼らの友人に対する支援意識に影響を与えていることが示唆された。
 対人支援ボランティア活動とは、本来見知らぬ他者に対して実施される活動である。 本調査の結果が、同じ社会の構成員である見知らぬ第三者に対する支援意識の発現機構の モデルとして機能しうるかどうかを検証することが今後の課題である。

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