制度外サービスを実施する介護系NPOの6年間の変化
-2003年度及び2009年度全国実態調査の比較検討を通じて-
○ 高松市役所 佐伯 幸雄 (会員番号4919)
福岡県立大学 本郷 秀和 (会員番号4355)
福岡県立大学 鬼﨑 信好 (会員番号1381)
キーワード: 《介護系NPO》 《制度外サービス》 《社会福祉士》
本研究の目的は、筆者ら(本郷・鬼﨑・佐伯)が2003(平成15)年度及び2009(平成21
)年度に実施した「介護サービスを実施するNPO法人全国実態調査」の調査結果の比較検討
を行うことで、介護保険事業を実施するNPO法人(以下、介護系NPO)について、①社会福祉士
配置の有無からみた制度外サービスを実施する介護系NPOの6年間の変化を明らかにすること、
②制度外サービスを実施する介護系NPOの今後の課題を明らかにすることの2点である。
具体的には、①については、制度外サービスを実施する介護系NPOにおける社会福祉士
配置の必要性と配置されやすい組織要件を考察し、②については、①の結果を踏まえながら
介護系NPOの課題を明らかにしたいと考えている。なお、本研究の背景として、制度外サービス
を実施する介護系NPOに所属する社会福祉士は、利用者のニーズに応じて、組織内外でサービス
開発を促進する役割を担うことを期待していることがある。なお、これについては、現在、
全国各地の介護系NPOのケーススタディ(組織規模等に応じた制度外サービスの開発プロセス
とその類型化)に取り組んでいる最中である。
(1)研究視点と方法
研究方法は、2003年度及び2009年度の介護系NPOに対する全国調査結果(アンケート調査)
の共通設問部分の比較検討である。具体的には、①制度外を実施し、常勤社会福祉士を
配置する法人、②制度外を実施し、常勤社会福祉士を配置しない法人、③その他の法人、
という視点を軸に、2003年度及び2009年度の両調査結果を比較検討していく。
なお、2003年度及び2009年度の全国調査の結果は、それぞれ学会において既に報告して
いるが、両者の比較検討という視点は今回初の試みである。
(2)調査対象の抽出方法・調査期間と方法、回収率等
①2003年度調査:2003年7月末時点のWAMNETのホームページで公表された「介護保険
事業者情報」をもとに、整理した事業者情報から抽出したNPO法人(1,202法人)を対象と
した。期間は2003年11月12日~11月30日とし、11月1日時点の実態を調査した。調査方法は、
郵送による配布・回収を行い、有効回収票は547票で有効回収率45.5%であった。
②2009年度調査:2009年3月17日時点のWAMNETのホームページからダウンロードした
介護サービス事業者情報をもとに整理し、抽出したNPO法人(2,874法人)を対象とした。
期間は、2009年7月1日~8月30日とし、3月31日時点での実態を調査した。調査方法は、
郵送による配布・回収を行い、有効回収票は864票で有効回収率30.1%であった。
2003年度及び2009年度の調査用紙送付時に、研究目的以外に調査結果を利用しないこと。 また、数的処理を行うなどして法人が特定されないようにすることを明記している。
4.研 究 結 果 (1)介護系NPO法人の主な変化
介護系NPOに関して、主に次のような変化が明らかになった。
①ボランティア募集をしない介護系NPOが増加したとともに、登録ボランティアも減少した。
また、制度外サービスの担い手は有償・無償ボランティアが減少し、常勤・非常勤・パート
職員へと移り、その労働対価は介護保険従事者と同じとする法人が増え、介護保険事業と
兼務する勤務形態が増えてきている。
②制度外サービスを実施しない法人は、実施法人よりも財政的に安定していると考えて
いる。また、制度では充足できないニーズに対するサービス開発意欲も減少している。
総じて、介護系NPO法人は制度内サービス(介護保険事業等)に重点を移しつつある。
制度外サービスの活動の担い手も有給職員へとシフトし、住民運動としての側面が薄れつつ
あることも危惧された。
(2)社会福祉士と相談援助活動について
社会福祉士(以下、SWと略す。)を配置する介護系NPOは、22.2%から35.4%に増加し、
制度外サービスを提供しSWを配置する介護系NPOについても、15.9%から25.7%に増加した。
他方、福祉関連の相談援助に関しては、相談対象者のなかで要介護高齢者の占める比率が
増加し、相談援助担当者の資格は介護支援専門員が最も多くなっていた。また、実際にSWを
配置する介護系NPOでは、SWに最も期待する役割を「相談援助」とする割合が減少し、全体的
にSWを配置する必要性を感じないとする回答が増加した(これについては、SW以外でも相談
に対応できることが1つの要因として推測された)。
相対的に、SWの存在意義が低下していることが比較結果からは読み取れた一方で、介護系
NPOはSWの専門性が最大限に発揮できるような環境(配置方法・箇所の検討)を形成する
必要があると同時に、SW自身にも地域を基盤とするソーシャルワーク展開の実践力が問われて
いる状況にあることが推測された。
※2003年度の全国調査では、平成15-16年度 三井住友海上福祉財団の研究助成(研究代表:
鬼﨑信好)を頂いた。2009年度の全国調査は、平成21-23(予定)の文部科学省科学研究費補助金
【基盤研究C】(研究代表:本郷秀和)及び平成21年度福岡県立大学研究奨励交付金
【個別研究】(研究代表:本郷秀和)を頂き実施した。