「「対抗的公共圏」の諸相から社会福祉を捉え直す」の趣旨について
コーディネーター:山岡 義典(法政大学現代福祉学部)
直接的に人間の生存に関わる社会サービスを提供するものとしての社会福祉において「公共圏」を論ずるにあたり、論点を明確で具体的なものとするため、関連する概念を以下のように限定的に捉え、議論を深めていきたい。これらの概念は仮説的なものとして「 」で記し、今回の議論を通じて意味を深め、今後さらに再定義していきたい。
・ 社会的に必要とされるサービスが市場によらないで供給される圏域を「公共圏」ととらえ、「制度的公共圏」(サービス提供に対して公金支出が制度的に保証されている圏域)と「非制度的公共圏」(サービス提供に公金支出が制度的に保証されていない圏域=市民的公共圏と呼ぶこともできる)に分けて考える。ここでのサービスは最も広い意味で用いており、物や財を伴うものや価値観や思想提示を含む。・ 「制度的公共圏」ではサービスは法律等の規則に基づき公金(租税や社会保険料)を用いて供給され、その大枠は政治(立法)により、具体的なサービス内容やその供給方法は行政によって決められる。「非制度的公共圏」ではサービスは民間の独自な発想により自主的または篤志的な資金によって供給され、具体的なサービス内容やその供給方法はNPO等の多様な価値観によって決められる。ただし、それらの供給を促進または禁止するために各種の制度が存在する。その意味では「非制度的公共圏」といえども、その多く殆どは「制度を活用」し、あるいは「制度の支配」のもとに供給される。
・ 「対抗的公共圏」は「非制度的公共圏」の一部で、特に「制度的公共圏」に着目してその変革を目指して提言し活動する圏域と考える。「制度的公共圏」を豊かなものにするには、「対抗的公共圏」を含む「非制度的公共圏」を豊かなものにしなくてはならない。社会福祉の分野においても、今後そのような研究の推進と蓄積が望まれる。そのための課題は何か。また、そのような公共圏を豊かにするために、研究者はどのような関わりをもち、どのような役割を果たし得るのか。このような議論を深めていきたい。
なお一般的に、「制度的公共圏」については(法的に)概念が明確で安定しており、調査統計資料も豊富で受益者層の大枠も把握されているため、その研究方法上の課題は少ない。しかし「非制度的公共圏」については概念が不明確で不安定で、調査統計資料もない場合が多く受益者の全体像も把握しにくいため、研究方法上未解決の課題も多い。