テーマ「グローバル化の中の社会福祉 -貧困・格差・排除を超えてー」
杉本 貴代栄(金城学院大学)
<シンポジウムの主旨>
今日の社会が直面している問題の一つとして、グロ-バル化による「負の事象」、特に貧困・格差・排除の拡大等をあげることができるだろう。三大生産要素(土地、労働、資本)のうち、カネ(資本)とヒト(労働)が国境を越えて自由に移動する現象を<グロ-バル化>として捉えるならば、かつてもそのような移動がないわけではなかった。しかし、1990年代以降になると市場経済のグロ-バル化は本格化し、私たちの社会と生活はさまざまな影響を受けるようになり、今日に至っている。一方で、20世紀に誕生した社会福祉の諸制度は、今日のようなグロ-バル化の影響を考慮してはいなかったために、グロ-バリゼ-ションと脱工業化という新しい経済社会状況に社会福祉の諸制度がどう対応するべきかという、緊喫な課題が登場したのである。
さらに2008年秋以降、アメリカの金融危機に端を発した世界同時不況が発生し、日本でも生産が急激に落ち込み、2009年3月時点で、製造業で判明しているだけでも10数万人を超える派遣切りが行われ、そのほかにも大量の非正規労働者が解雇・雇い止めにされるという事態に立ち至った。進行しつつあった「格差社会」は一気に拡大し、切実な生活問題となったのである。
上記のような理由により、今日の社会福祉の領域では、問題解決を迫られている課題が山積している。従来からある生活問題の課題である、不安定な生活や介護、子育て、障害ある人の悩みといった問題に加えて、グロ-バル化の直接的な影響を受けた課題が加わった。雇用情勢の悪化による雇用不安やホームレス問題、自殺者の継続的な増加、外国人の雇用問題や生活問題等をあげることができる。また、生活保護を必要とする人々の急増や支給の遅れや援助の不足も明らかになりつつある。ドメスティック・バイオレンスをはじめとするジェンダ-課題や虐待等も可視化されるようになった。
本シンポジウムでは、グロ-バル化という状況の中で、貧困・格差・排除等の解決方策が迫られている社会福祉の新たな課題を取り上げて、その対処と今後の展開を検討することとする。グロ-バル化という新しい状況に対応する社会福祉の可能性を、理論・実践の両面から明らかにすることを試みることとする。