学会企画シンポジウムシンポジスト 大友 信勝

社会福祉からみるセーフティネットの課題

大友 信勝(龍谷大学)

 

はじめに
グローバル化の中で社会福祉に何がおきているか。「年越し派遣村」に象徴される格差・貧困と社会的排除である。基礎構造改革は福祉多元化を市場と民間化の方向で政策推進し、公的責任を民間に移管し、指定管理者制度等を進めてきた。市場の暴走と失敗の影響は最も社会的立場の弱い市民を直撃し、排除している。貧困が社会問題化している時に、セーフティネット(最後の砦)の危機が進行し、国民最低限の維持と保障が課題になっている。セーフティネットの危機をどのように切り拓くのかを中心に問題提起してみたい。

1.「年越し派遣村」に象徴されるセーフティネットの構造-セーフティネットの概念と構造
セーフティネットの三つの輪


                 

(1)労働・住宅等の生活関連制度-非正規で派遣切りが住居を失うことに連動
 (2)所得保障・医療保障等の社会保険、特に雇用保険は未加入か、加入期間の壁により対象外
 (3)生活保護が最後の砦になるか。住民票、稼働年齢層による水際作戦という運用の壁で、強力な「護衛」がいないと砦の入口で帰される

2.生活保護政策の動向と加算
 (1)老齢加算廃止の動向
 (2)母子加算廃止の動向
 (3)「新たなセーフティネットの提案」(全国知事会・市長会、2006年10月)
   1)有期保護の導入-U.S.A「貧困家庭への一時的扶助」(Temporary Assistance for Needy Families : TANF)
   2)高齢者世帯の分離①「年金保険料で報われる」(生活保護基準を切り下げる)、②リバースモッゲージ(土地・住宅評価額500万円以上は排除)
   3)「提案」の特徴①モラルハザード(生活の自己責任)、②福祉から就労へ(ただし、制裁を伴うワークフェア)、③ナショナルミニマムの切り崩し

(4)加算廃止の影響と課題
   1)老齢加算-①単身世帯に厳しい影響、②衣・食・住にみる生存ラインの危機、③社会関係の危機
   2)母子加算-①教育関係費・高校授業料(私立)の不足、②子供の部活動を保護費からやりくり、③加算を下回る就労支援策の支給額

3.最低生活保障基準の検証がないまま、最低基準が危機
 (1)生活保護基準引き下げの方法
   1)低所得世帯の消費水準と比較し検討-「所得が最も低い世帯」との比較。事実上「貧困の罠」に相当すべき世帯と比較。この方法で老齢加算・母子加算の縮小・廃止
   2)生活保護の捕捉率の調査がない。さらに、生活保護受給世帯の生活実態の調査・分析がないまま、保護基準引き下げが検討
 (2)生活保護基準はナショナルミニマム
   1)最低賃金との関連-最低賃金法改正は「生活保護基準を上回る」ことを規定
   2)課税最低限との関連-わが国の課税最低限はきわめて低い。住民税の課税最低限は福祉施策の基準に準用されることが多い。保護基準が下がればここに貧困のスパイラルが生じる。具体的には就学援助、介護保険料、保育料、障害者自立支援法、生活福祉資金等がそれである
   3)年金制度との関連-基礎年金の保険料を40年支払い、保護基準より低いというのは制度設計の政策的問題である

4.所得の再分配機能が逆回転
 (1)貧困・低所得層の増大-労働政策における非正規雇用、派遣、最低賃金の低さ。社会保険の事業主負担回避、保険料未納・滞納と資格証。非正規雇用と社宅・寮。居住の不安定
 (2)不平等拡大の税制と社会保険の負担増-高額所得者に有利な税制改革により、再分配機能が逆回転。社会保険未納者へのペナルテイと生命の危機、介護保険の扶養義務、応益負担の不平等。社会保険の空洞化
 (3)生活保護行政の「水際」-ワーキングプアが排除されやすい保護行政の運用
 (4)社会福祉政策の貧困が何をもたらしているか-刑務所、長期入院・入所、自殺等。
  生存権の危機は最初に「衣・食・住」の生存ラインから、次に「交際・社会関係」の生活ラインに及び生活圏を自ら狭め社会的孤立を深めていく。「だめな自分」というレッテルを自らはって、自立・自律心を後退させ、最後は心身を病んでいく。自立支援が極めて難しくなる。長期にわたる貧困は貧困の世代的連鎖へとつながる

5.セーフテイネットの危機をどうするか
 (1)「生命と尊厳」の最後の砦が危機-①モラルハザードへの対抗軸をうちだし自立・自律の多様性とワークフェアの制裁規定の改善。②捕捉率の調査が実施され、生活保護世帯の実態、「貧困の罠」の現実が明らかにされることが前提。保護率の特徴と低さ、貧困と孤立、高齢単身、ワーキングプアの排除。現場に何が起きているか。貧困の実態を学ぶことが出発点。ヨーロッパ型の一般施策につなげるしくみで排除から包摂へ。
 (2)韓国・基礎生活保障法(2000年)から学ぶものは何か-①保護基準の決め方、②ワーキングプアと自活事業、③貧困ビジネスを許さない社会的起業
 (3)反貧困ネットワーク-全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会、生活保護問題対策全国会議、全国生活保護裁判連絡会、日本弁護士連合会人権委員会、等が新たな反貧困運動を展開
 (4)社会福祉の位置から-①排除から包摂への政策転換と運営を図る具体的な実態分析と政策化が課題。税制と社会福祉の総合化(ベーシックインカム)、社会保険制度を維持するとすればその補完していく参加所得とベーシックインカム等、スティグマを軽くし、負の所得税による生活保障機能、②障がいや困難を抱える人々のかけがえのない生命を守り、暮らしを創る仕事、③市民社会の理解と協働をつくり地域の中で普通に暮らせる福祉就労、居住保障で当事者に自信と誇り、市民社会に安心と希望。地域に新たな雇用。排除から包摂の文化を創造④居住保障-住宅手当の創設、⑤当事者・市民参加の地域福祉(活動)計画をつくり地域の自治と民主主義を育て新たな福祉ガバナンスのあり方をローカル(分権・自治型)で、そしてナショナルへの展望。

 

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