高齢者の生きがいと市・直売所活動に関する研究
○ 川崎医療福祉大学大学院 徳山 ちえみ (会員番号2966)
近代姫路大学 人見 裕江 (会員番号2480)
川崎医療福祉大学大学院 小河 孝則 (会員番号4751)
キーワード: 《市・直売所活動》 《高齢者》 《生きがい》
近年、食物の安全性や食物の輸出入を考えた食生活という観点から、地元でできたものを地元で消費する、地産地消
運動が盛んになってきている。新鮮で生産者が分って安心・安全な食品を提供する活動である。その活動の場として、
農産物を生産した人が、消費者に直接販売する直売所がある。
直売所活動には、大きく分けて2つのタイプがある。一つは、生産者が数名集まり、決められた日時に市を開き生
産者自らが作物の販売を行う朝市・青空市などの市がある。もう一つは、生産者がグループを作ったり、農協の組合員
や会社の会員となって、生産品を持ち込み、その日のうちに販売する直売所である。この活動には、定年退職後の活動と
して高齢者がかかわっている場合が多く見受けられる。その意義として、高齢者農家の自立やいきがいづくり、女性能
力の発揮、農業所得の増加などが指摘されている(中島2002、野見山2001、掘田2002、櫻井2001)。
そこで、本研究は、A県下の農産物直売所活動を行っている団体の活動における、高齢者の参加する活動の意義を
明らかにすることを目的とする。
1)研究の視点
研究の視点は、A県下の農産物直売所活動に高齢者が参加する意義を明らかにすることである。
2)研究の方法
A県下の農林水産直売所のガイドマップに掲載されている団体のうち農産物直売所の管理者を対象にアンケート
調査を行った。
調査内容は、朝市・直売所の趣旨である。朝市・直売所の趣旨について、逐語録を作成し、意義を表す内容に注目
し、内容分析を行った。1つの意義を含む文節を1項目とした。
用語の定義:朝市活動とは、自分達の作ったものを、流通経路を経ずに、直接消費者に販売することである。決ま
った日の早朝に一か所に集まり、持ち寄った野菜等の作物などを販売する市のことをいう。
直売所とは、一定の施設により個人・共同または農協等による販売などをいう。
朝市・直売所活動を行っている管理者にアンケートの依頼をし、同意書のお願いとアンケートに答えていただいた。 研究への参加は自由意志で、一旦、研究を受けても途中で断ることができるように、同意撤回書を同封して、アンケート をお願いした。アンケートの内容は、個人が特定されることはない。
4.研 究 結 果平成21年3月にA県の直売所一覧に掲載された158か所のうち、農産物の直売をしている135か所の管理者にアンケート
を行った。39か所(回答率28.8%)から回答があった。39か所のうち2か所は非該当で除外し、37か所を分析対象とした
。生産者・販売者の人数は、全体の人数と60歳以上の人数の両方を記入している32か所を分析した。
回答のあった37か所のうち23か所が施設販売(農家、グループ、JA、公社、株式・有限会社等)、14か所が朝市・
青空市などの市であった。31か所が規約を作っていた。6か所は規約がなく、そのうち4か所は朝市・青空市であった。
朝市・直売所の趣旨は、23か所の施設販売と14箇所の市をカテゴリー化して分類した。
朝市活動の趣旨として54項目、直売所の趣旨として81項目を分類した結果、5のカテゴリーに分けられた。①地産地消
の意義(地産地消、安心・安全な食品、新鮮でおいしい、安価な農産物)、②地域農業の振興(農業の振興、農家の経済的
安定)、③地域のつながりを強くする(地域住民との交流、地域外の人や他の事業との交流、他の事業の基礎作り、協同、
地域への貢献、地域の活性化、郷土料理や味の伝承)、④地域の健康づくり・介護予防(健康づくり、介護予防)、⑤高齢
者の自己実現(生きが)であった。
小カテゴリーで一番多かったのは、市では、地域住民との交流(11)、安心・安全な食品(9)、安価な農産物(8)
、新鮮でおいしい(6)と続いた。直売所では、地産地消(14)、地域外の人や他の事業との交流(14)、農業の振興
(10)、地域の活性化(9)、安心・安全な食品(8)と続いた。市と直売所を比較すると、市にあって直売所にない
項目は、健康作り、介護予防、郷土料理や味の伝承、他の事業の基礎作りであった。反対に、直売所にあって市にないも
のは、農家の経済的安定、協同、地域への貢献であり、農業の振興の項目は、市では1つであったが、直売所は10あった。
本調査結果より、市・直売所活動は、定年退職後の高齢者の労働の場となっていることが推察される。JAや会社等の
施設販売の特徴は、生産者である農家の支援、農業の振興・地域への貢献に重きを置いた趣旨になっている。しかし、市
では、生産者が主体となって生産・販売・運営も行っていることから、自己の健康作り・介護予防、地域での他の事業を行
うための基礎作りなどの、自分たちの生活に密着した視点での趣旨になっていると考えられる。
文献:金子勝司:M町における高齢者の生きがい活動の実態と今後の方向性について 生活の満足度調査による考察.104,
共栄学園短期大学紀要第22号,東京(2006).