ポスターセッション高齢者  児玉 寛子

在宅介護における高齢者虐待の関連要因の検討
-高齢者虐待予防を目的とした対照事例調査から-

○ 秋田看護福祉大学  児玉 寛子 (会員番号4880)
秋田看護福祉大学  工藤 英明 (会員番号6146)
秋田看護福祉大学  宮本 雅央 (会員番号6674)
秋田看護福祉大学  出雲 祐二 (会員番号2179)
キーワード: 《高齢者》 《虐待》 《予防》

1.研 究 目 的

 本研究は、在宅高齢者介護事例における虐待の有無の関連要因を検討することを目的とし、在宅で介護を継続して いる事例のうち、援助者が虐待と捉えている事例について①援助者、養護者(虐待者)及び高齢者(被虐待者)の三者を 対象とした調査、②虐待事例に類似する非虐待事例への三者(援助者、養護者、高齢者)調査を実施した。これらの調査 から、虐待事例と対照事例における差異を明らかにし、虐待の有無に関連する要因の抽出を試みた。

2.研究の視点および方法

本研究の視点は、在宅高齢者虐待における養護者への支援方法を検討し、虐待予防の可能性及びその方策を模索する ことにある。
  虐待事例の調査対象は、東北A県及びB県の居宅介護支援事業所及び地域包括支援センターのうち、本研究の趣旨に 同意を得た110事業所を対象とした。在宅高齢者虐待の事例を担当している援助者に対して、虐待事例毎に無記名調査票 を用いた郵送調査を実施した。対照事例は、同2県において調査協力の同意を得た8事業所を調査対象とし、虐待事例調査 の結果から要介護度、認知症程度及び家族構成が類似する事例について郵送調査を実施した。なお、両調査共に養護者及 び高齢者に対しての調査票は、原則として本人に回答してもらうこととし、高齢者が回答困難な場合は養護者の聞き取り による回答を得た。
  調査項目は、援助者に対して1)事例概要(高齢者の介護度及び認知症の程度、認知症状等含む)、2)援助者の養護 者に対する見立て、3)事例に対する関わり、援護者に対して1)介護実践や健康に関する項目、2)高齢者の行動や高齢者 との関係に関する項目、3)援助者との援助関係に関する項目、高齢者に対しては、1)自身の健康や生活に関する項目( 主観的健康感及び幸福感等)、2)援助者との関係に関する項目を設定した。
  目的変数を虐待の有無、説明変数をその他の項目として分割表を作成し、fisherの直接確率を用いて関連の有意性を 検討した。分析に際しては、表計算ソフト(Microsoft office Excel 2007)を用いてデータセットを作成し、統計解析 ソフト(SPSS11.0J for Windows)を用い、有意水準は5%とした。

3.倫理的配慮

調査対象には1)調査への協力は自由であり、中途辞退及び協力を拒否した何れの場合にも対象者に不利益が被る ことはないこと、2)調査で得られた情報は、個人が特定されないよう統計的処理を施し、個人情報の流出には特段の配 慮をすること、3)養護者及び高齢者の調査票は郵送で回収するため、援助者には記載内容が一切伝わらないことを書面 にて明記し調査を実施した。また、調査項目及び実施方法の倫理的配慮に関しては、日本社会福祉学会の研究倫理指針に 基づき、研究者所属機関の倫理委員会の承認を得た。

4.研 究 結 果

調査対象事例のうち、虐待事例は106件、対照事例は80件についての回答を得た。そのうち、援助者及び養護者の年 齢、性別未記入を除いた159事例(虐待事例:82(51.6%)対照事例:77(48.4%))を分析対象とした。
  援助者回答項目のうち虐待の有無による有意な差が認められた項目は、認知症の症状及び高齢者の行動では、「介 護者の指示にもたもたする」等の3項目であり、認知症に伴う行動や症状が認められる群の虐待事例の割合が高い傾向で あった。介護者に関する項目では、「介護の知識の有無」等、介護の状況や家族との関係に関する11項目において有意 な差が認められ、介護技術及び介護の工夫がない群及び家族や親族との関係性が良くないと考えられる群の虐待事例の 割合が高い傾向を示した。事例についての援助者の意識では、「家族関係維持の可能性」等の3項目において有意な差が 認められ、事例に対して否定的な意識が認められる群の虐待事例の割合が高かった。援助者の支援内容では、「施設入 所の打診の有無」等の5項目において有意な差が認められ、何らかの施設入所に向けた支援をしている群の虐待事例の割 合が高かった。援助者の取り組みでは、「事例検討会の有無」等の5項目において有意な差が認められ、事例に対して何 らかの取り組みをしている群の方が虐待事例の割合が高かった。また、「福祉系基礎資格(社会福祉士、精神保健福祉 士、介護福祉士)の有無」において有意な差が認められ、福祉系基礎資格を有している群の虐待事例の割合が高かった。
  養護者回答項目のうち、高齢者の行動では「介護者の言うことをきかない」の項目において、該当する群の虐待事 例の割合が有意に高かった。実践している介護では「食事介助の有無」「排泄介助の有無」の該当群の虐待事例の割合 が有意に高かった。高齢者との昔の関係性では、「よく話をした」等の6項目、家族及び親族との関係では「親族から否 定的な意見を言われる」の項目において有意な差が認められ、関係性が良くないと考えられる群の虐待事例の割合が高 い傾向であった。また、「施設の情報を調べたことがあるか」等の施設入所に関する5項目において有意な差が認められ 、入所に関する取り組みを実施している群の虐待事例の割合が高かった。介護に対する意向では「介護の疲労感の有無 」「投げ出したくなる気持ちの有無」等の7項目、介護費用に関する項目では「必要経費に困っているか」等の2項目に おいて有意な差が認められ、在宅介護継続に否定的な意向を示す群及び経済的負担を感じている群の虐待事例の割合が 高い傾向を示した。
  高齢者回答項目では、「介護サービスが高いと思うか」の項目において有意な差が認められ、介護サービスが高い と感じている群の虐待事例の割合が高かった。
  これらの結果から、在宅における高齢者虐待の有無によって、養護者の介護に関する意識や取り組みのみならず、 介護者を取り巻く家族関係や援助者の事例に対する意識や取り組みが異なることが明らかになった。特に、高齢者の 認知症状の有無や養護者が担う介護の内容、介護に関する知識や技術の有無、高齢者及び親族を含む家族関係におい て特徴的な差が認められた。したがって、これらの事柄が在宅介護における高齢者虐待の関連要因である可能性が示 され、在宅における高齢者虐待予防を目的とした施策を講ずる際には、これらの事柄についての配慮の必要性が示唆 された。

  なお、本研究は平成21年度科学研究費(基盤研究(C))の助成を受けた研究成果の一部である。

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