ポスターセッション高齢者  深谷 太郎

ソーシャル・キャピタルが高齢者の孤立・孤立感に与える影響
-大都市近郊の自治体を対象として-

○ 東京都健康長寿医療センター研究所  深谷 太郎 (会員番号4668)
東京都健康長寿医療センター研究所  小林 江里香 (会員番号3755)
日本福祉大学  斉藤 雅茂 (会員番号5854)
キーワード: 《ソーシャル・キャピタル》 《高齢者》 《孤独》

1.研 究 目 的

高齢化の進展に伴い、高齢者一人世帯、および高齢者のみ世帯は、その数・割合とも増加している。それに伴って、地域か ら孤立し、誰にも看取られずに亡くなる「孤立死」も増加してきている。孤立死については、全国的な統計は無いが、近年、 社会問題化してきている。厚生労働省も孤立死を防ぐべく、一昨年度より「孤立死ゼロ・プロジェクト」をたちあげた。
  実際、一人暮らし高齢者世帯は他との交流が少ない人の割合が高く、孤立死を起こしやすい。内閣府が平成18年に実施した 「世帯類型に応じた高齢者の生活実態等に関する意識調査」によると、一人暮らし世帯は「お互いに訪問しあう人がいる」 割合は33.1%と、一般世帯に比べ2.9%高いものの、「つきあいはない」割合も11.2%と一般世帯より4.4%高かった。
  このように社会から孤立し、それが孤立死へと結びつくのを防ぐには、地域住民、行政、福祉が一体となった取り組みが 必要であり、地域住民は見守りや挨拶、声かけといった取り組みが求められる。
  このように、孤立死防止には「地域の力」が必要であるが、この「地域の力」を測る一つの尺度として着目されているの が「ソーシャル・キャピタル(以下SC)」である。この概念は、社会における信頼・規範・ネットワークというような概念で あり、協調的行動を容易にすることから、地域のつながりを再構築するための概念として近年注目されてきている。
  そこで、このSCが、孤立や孤立感の防止にどの程度関連しているかを探ることを目的とする。

2.研究の視点および方法
1)分析対象:本研究において用いたデータは、和光市民を対象とした郵送調査により収集されたデータである。対象者は、 埼玉県和光市が実施した2007年度介護予防スクリーニング調査の対象となった65歳以上高齢者2,600名(全高齢者の27.5%)中 、2008年7月時点で同地域に住民票のある2,528名に対して行った。調査方法は郵送調査であるが、一部、民生委員による配 布・回収を併用した。調査期間は2008年7月~9月で、回収数および回収率は1,772票(70.1%)であった。
2)分析項目:SC指標は藤澤らの作成した6項目を用いた。一因子構造であったため、合計点を算出し、それをSC得点と した(得点が低い方がSCが高い)。孤立は、高齢者一人暮らし世帯、もしくは構成者夫婦世帯において、外出頻度が週に1 回かそれより少ない状態と、操作的に定義した。孤立感は、まわりの人から孤立していると感じる頻度を「ほとんどない」 「あまりない」「ときどきある」「よくある」の4件法で尋ねた。居住エリアは市内を「○○町△丁目」というレベルで26 に分け、このうち回答数が1桁のエリアを除く19エリアを分析対象とした。この他の従属変数として性、年齢、GDS15項目 短縮版、健康度自己評価、外出頻度暮らし向き等を用いた。

3.倫理的配慮

 調査を行う前に、発表者の所属する研究機関において倫理委員会の承認がされ、質問において倫理上問題のある項目 がないことが確認されている。また、回収された調査票および電子化されたデータには、対象者氏名、対象者の生日は記載 されておらず、本研究に起因する調査対象者の個人情報の流出の可能性はない。

4.研 究 結 果

【結果】エリアごとの孤立割合とSC得点の平均とは相関係数が.502と有意であり、SCが孤立の防止と関連がある可能性 が示唆された。
  次に、個人ごとの孤独感とSC得点の関連を共分散分析を用い探ったところ、GDS得点がおよび個人のSC得点との間には 有意な関係が見られ、GDS得点が高い、あるいは個人のSC得点が低い場合には孤立感を感じていた。しかし、エリアでのSC 得点との間には有意な関係は見られなかった。
【考察】地域での孤立割合はエリアSC得点との間に関連が見られ、マクロレベルではSCという概念が孤立予防に寄与する 可能性がある。しかし、個人レベル(ミクロレベル)では、地域要因のようなマクロな要因より、個人個人のミクロな要因 の方が孤立感には影響を与えていることがわかった。
  今回の分析は東京近郊の一自治体での調査結果のみを用いているため、一般化については限界があるが、自治体や社協 といった組織としては、地域におけるSC向上の働きかけが孤立防止に役立つが、民生委員や保健師といった個人を対象とし た活動においては、地域ではなく、個人を対象とした働きかけが大切であるという示唆が得られた。
  なお、最後に、本研究の共同研究者として東京都老人総合研究所 藤原佳典、西真理子、和光市保健福祉部長寿あんし ん課 東内京一、清水将周の各氏がいるが、共同研究者である彼らに感謝の意を表したい。
[平成20年度厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業:H20-政策-一般-012(研究代表者 藤原佳典)により実施した。]

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp