特別養護老人ホーム入居者の施設サービス満足度
-入居者本人への個別面接調査をもとに-
○ 大阪大谷大学 神部 智司 (会員番号3825)
大阪市立大学大学院 岡田 進一 (会員番号1746)
大阪市立大学大学院 白澤 政和 (会員番号0769)
キーワード: 《特別養護老人ホーム入居者》 《領域別満足度》 《総合的満足度》
社会福祉領域におけるサービス評価のあり方に関する議論のなかで、自己評価や第三者評価を中心としたサービス評価
システムのなかに利用者評価をどのように組み込むのかという課題が多く指摘されている。利用者のサービスに対する個別
的かつ主観的な評価である満足度は、利用者評価の指標として行政レベルでの実態調査などでよく活用されているが、実証
的な見地から満足度評価を実施するためには、満足度がどのような領域で構成されているのか、さらには各領域がサービス
に対する総合的満足度とどの程度関連しているのかについて検討されなければならない。近年、満足度を利用者評価の指標
として活用した実証的研究は在宅サービス分野でよく行われているが、施設サービス分野ではほとんど行われていない。契
約利用システム下において利用者本位のサービス提供を実現するためには、在宅・施設の種別を問わず利用者評価を積極的
に取り入れ、その結果をサービスに反映させることが重要である。
そこで、本研究では、入居型高齢者福祉施設の一つとして重要な役割を担う特別養護老人ホームの入居者本人を対象と
して、複数の異なる領域で構成された満足度(以下、領域別満足度)の測定尺度を作成し、その実際の構造を統計学的に
検証すること、そして領域別満足度がそれぞれどの程度総合的満足度と関連しているのかについて明らかにすることを目
的とする。
本研究では、調査協力が得られた近畿地方の特別養護老人ホーム(17ヵ所)を調査の対象施設とした。調査対象者は、 各施設の入居者本人のうち、質問内容を理解できる判断能力および面接調査員との会話による回答能力を有するという2つ の選定基準を満たすことが施設職員によって判断され、かつ調査への協力依頼に対し同意が得られた合計120名とした。調 査方法は、施設訪問による個別面接調査法(質問紙を用いた構造化面接)とした。調査期間は,平成19年11月19日から平 成20年3月27日までで、有効回答数は113名であった。質問項目は、先行研究を参考に作成した領域別満足度22項目(【施 設職員の態度】【施設環境の快適さ】【食事サービス】【施設入居による効果】の4領域)と総合的満足度3項目とした。 回答選択肢は、「とてもそう思う(5点)」「ややそう思う(4点)」「どちらともいえない(3点)」「あまりそう思わな い(2点)」「ほとんどそう思わない(1点)」の5件法とし、満足度が高いほど高得点となるように点数化した。分析方法 は、まず領域別満足度の実際の構造を把握するために因子分析(主因子法、プロマックス回転)を行った。次に、領域別 満足度と総合的満足度の関連について検討するために、抽出された各因子(因子別質問項目の合計得点)を独立変数、入 居者の基本属性(性別、年齢、要介護度、入居期間)を統制変数とし、総合的満足度(3項目の合計得点)を従属変数とす る重回帰分析を行った。
3.倫理的配慮調査施設の施設長に対して本研究の趣旨を文書および口頭で説明し、個別面接調査に対する同意を得た。その後、 施設職員の判断で選出された調査対象者(入居者本人)に対して調査の目的と内容について説明するとともに、調査へ の協力依頼を辞退したり質問内容に対する回答を拒否しても不利益を被ることはないこと、個人情報保護により秘密保持 が守られること、回答はすべて統計的に処理され厳密に取り扱われることを説明した。
4.研 究 結 果因子分析の結果、4因子(15項目)が抽出された。第1因子は【施設入居による効果】(4項目,Cronbachα=0.89)、
第2因子は【施設職員の態度】(4項目,α=0.86)、第3因子は【施設環境の快適さ】(4項目,α=0.74)、第4因子は
【食事サービス】(3項目,α=0.70)と解釈され、先行研究を参考に設定した4領域と一致した因子となった。次に、
重回帰分析を行った結果、標準化係数(β)の大きさから第2因子(β=0.482, p<.001)、第3因子(β=0.204, p<.01)
、第1因子(β=0.190, p<.01)、第4因子(β=0.140, p<.05)の順に総合的満足度と強く関連していることが示された。
入居者の基本属性については、いずれも有意差が認められなかった。なお、この重回帰モデルは、自由度調整済み決定係
数(R2=0.674, p<.001)、分散分析による検定結果(F(9,103)=26.880, p<.001)より有効であると判断した。さらに
、VIF値(≦2.60)を確認した結果、独立変数間で多重共線性が生じる可能性は低いと判断した。
以上の結果から、入居者は、施設サービス満足度を評価するうえで施設職員との人間関係を最も重視していることが示
唆された。また、入居者が快適に過ごせるような生活環境を創り上げていくこと、さらには入居者の意向や希望を反映
させた施設サービスを提供することにより、入居者が施設入居による自身の望ましい変化(入居による効果)を強く意識
できるように配慮することも、入居者の基本属性の違いに関わらず重要であることが示唆された。
〔本研究は、平成19年度日本学術振興会科学研究費補助金(主任研究者:白澤政和)の助成を受けて実施された研究の
一部である〕