都市における高齢者の社会的孤立と心理的孤独
-ひとり暮らしは問題か?-
○ 東京都健康長寿医療センター(東京都老人総合研究所) 杉原 陽子 (会員番号4670)
桜美林大学 杉澤 秀博 (会員番号4671)
東京都健康長寿医療センター 高橋 龍太郎 (会員番号6085)
キーワード: 《社会的孤立》 《心理的孤独》 《ひとり暮らし》
都市部においては今後、急激に高齢化がすすみ、特に高齢単身世帯と高齢夫婦世帯の著しい増加が見込まれている。家族 による私的支援基盤の弱さに加えて、都市部では近隣関係の希薄化により、地域住民相互による助け合いも十分に機能している とはいえない。家族や地域による支援が弱まっている中、心理的・社会的に孤立した高齢者は今後ますます増加することが予想 され、都会の中の孤立・孤独に対する対応策の確立は焦眉の課題となっている。高齢者の社会的孤立や心理的孤独に関しては、 独居と関連づけて論じられる傾向があり、孤立や孤独の実態を把握するための調査も独居者に特化して実施される場合が少な くない。確かに、独居者は孤独死防止の観点から重要なターゲットであり、家族による支援が得にくいために様々な問題を有 する可能性が考えられる。しかし、「独居=社会的孤立」ではなく、独居者の中にも多様性があり、同居者がいても孤立や孤 独の問題を有する場合が考えられる。そこで本研究は、都市部在住の高齢者に対して実施した調査結果を基に、高齢者の社会 的孤立や心理的孤独を考える際に、ひとり暮らしであることが果たして問題なのか否かを明らかにすることを目的とした。
2.研究の視点および方法1)対象者と調査方法
東京都内A市の65歳以上住民31,545人の中から単純無作為に抽出した5,000人に対して、2007年11月~12月に郵送調査 を実施した(有効回収率82.5%)。本研究では、施設入居者を除く地域在住者のうち、世帯類型について回答があった3,835人 を分析対象とした。
2)測度
(1)社会的孤立:①グループ活動への参加が月に1回未満、②別居の子どもや親戚との対面や電話での交流が月に1回未満 、③友人や近隣との対面や電話での交流が月に1回未満、のすべてにあてはまる人を「社会的孤立」とみなした。また、社 会的孤立に関連する事項として、「地震などの災害時に安否確認をしてくれる人がいるか否か」をたずねた。
(2)心理的孤独:Russelらの改訂版UCLA孤独感尺度の短縮版4項目を使用した。また、「孤立していると感じることが、どの くらいあるか」をたずねた。
(3)独居:世帯類型と別居子との距離をたずね、「同居家族あり」「独居だが1時間以内の所に子どもがいる」「独居で、 子どもはいない、または1時間以上の所にいる」に分類した。
4)分析方法
同居者の有無、または独居でも子どもが1時間以内の所にいるか否かによって、社会的孤立や心理的孤独の状況に違い があるかを、カイ2乗検定、t検定、分散分析にて調べた。 3.倫理的配慮
報告者が所属する機関の倫理委員会の承認を得た方法と調査票を用いて調査を行った。
4.研 究 結 果1)孤独の諸形態の分布:独居率は14.1%(回答数3835)で、そのうち、「通常の交通手段で1時間以内の所に子ども がいる人」は6.8%、「子どもはいない、または1時間以上の所にいる人」は7.2%であった。社会的孤立の条件に該当し た人は、12.2%であった(回答数3568)。災害時に安否確認してくれる人が「町会内にいる人」は41.2%、「市内にいる 人」は24.4%、「市外にいる人」は31.6%、「誰もいない人」は2.9%であった(回答数3781)。心理的孤独については 、UCLA孤独感尺度短縮版の平均値が7.75、標準偏差2.23(回答数3527)で、「孤立していると感じることが多い」と答え た人が4.6%、「ときどき感じる」という人は26.1%、「ほとんどない」という人が69.3%であった(回答数3567)。
2)独居と社会的孤立:社会的孤立の存在割合は、独居者で11.3%、同居者がいる人では12.3%で、同居者の有無によ る違いは見られなかった。しかし、子どもとの距離を加味すると、「独居だが1時間以内の所に子どもがいる人」では社 会的孤立の割合が4.2%と少ないのに対して、「独居で、子どもはいないか遠方の人」では17.9%であった。安否確認を してくれる人の有無に関しても、単に独居か否かというより、子どもが近くにいるか否かの方が強く影響しており、安否 確認をしてくれる人は誰もいないと回答した人の割合が、「同居者がいる人」では2.0%、「独居だが1時間以内の所に子 どもがいる人」では2.3%であったのに対して、「独居で、子どもはいないか遠方の人」では13.1%であった。
3)独居と心理的孤独:孤独感尺度の平均値は、同居者の有無により有意な違いがあり(独居者7.97、同居者あり7.72、 p=0.21)、特に「独居で、子どもはいないか遠方の人」の孤独感が強かった(平均値8.04)。孤立していると感じる頻度 も、同居者がいる人と比べて独居者、とりわけ、子どもがいないか遠方の人で多く、「孤立していると感じることが多い 、または、ときどき感じる」と答えた人の割合は、「独居で、子どもはいないか遠方の人」では44.7%、「独居だが1時間 以内の所に子どもがいる人」では37.6%、「同居者がいる人」では28.9%であった。
4)まとめ:社会的孤立、並びに災害時に安否確認してくれる人の有無に関しては、単に独居か否かというよりも、子ど もが近くにいるか否かの方が重要である可能性が示唆された。一方、心理的な孤独感に関しては、子どもの住居との距離 とともに同居者の有無も影響しており、「独居で、子どもはいないか遠方にいる」という人で孤独感がもっとも強いもの の、「子どもが近くにいても独居」である場合は、家族と一緒に暮らしている人よりも孤独感が強い傾向が明らかとなった。