ポスターセッション障害  鈴田 泰子

発達障害児の支援活動におけるソーシャルワークの役割を考える

東北福祉大学特別支援教育研究センター  鈴田 泰子 (会員番号5933)
キーワード: 《発達障害児》 《ソーシャルワーク》 《発達支援》

1.研 究 目 的

 2006年に発達障害者支援法が施行され、日本の発達障害領域では新しい障害観に基づいて保健医療・教育・福祉・労働 の各分野における生涯にわたる諸施策が開始された。2007年には特別支援教育への移行が始まり、特別なニーズのある子ども に適切な教育を保障するための支援や配慮に力点が置かれるようになった。教育および医療に従事する専門職のみならず、発 達障害児(者)の生涯の発達を支えるという福祉的視点を持つ専門職の存在が重要である。そのためには、従来の枠組みを越 えた多領域・多層にわたる新しい融合的学問領域が構築される必要があると考える。
  本研究では、東北福祉大学特別支援教育研究センター(以下、センターと記す)に通所する発達障害児の支援を通して、 教育・福祉・医療・家族支援など多領域・多層にわたるソーシャルワークの実態を明らかにする。

2.研究の視点および方法

 発達障害児の個体特性を多水準でとらえ、コミュニケーション行動特性を学校・家庭・地域の複数場面において把握した 。発達障害児の生活の質を高めるための支援は、その各場面において行った。児の生理・認知特性、不適応行動とその背景、 他児との関わり方について、①保護者との面接、②保護者への質問紙「お子さまの毎日の生活行動について」による調査、 ③SST場面における行動観察、④小学校の在籍学級・通級学級の担任教師との面接、⑤学級における学習活動の観察によって 資料を収集した。

3.倫理的配慮

センターで行った支援や観察の結果生じた資料は、プライバシーが十分に保護され個人名が特定されないよう配慮した上 で処理した。研究・教育の一環として学会等において報告する場合があることについて、支援開始時に保護者から承諾を得た。

4.研 究 結 果

本研究における代表事例としてA児(当時年齢7:5)を挙げる。児は発達相談機関において高機能自閉症との医学的診断を 受けた。身体への接触、光や色や特定の映像、騒音や人の声などにたいへん敏感であるという生理・認知特性を持っていた。 集中力の持続や感情のコントロールにも困難を示し、他の学童らとの関わり方も未熟であった。
  インテークにおける保護者の主訴は、「感情のコントロールができない」「思い通りにならないとパニックになる」 「集団行動にうまくなじめない」「興味の偏りがあり、集中力や落ち着きがない」など多岐に渡った。児はX年Y月より月2回 ずつ、センターにおいてソーシャルスキル・トレーニング(以下、SSTと記す)に参加した。しかし保護者との面談、質問紙 調査および行動観察より、児の行動は主として生理・認知特性に起因するものが多いことがわかった。学級やSST場面では時 として危険行動に走ることもあった。学級担任は筆者らとの初回の面談で、涙を流しながら対処の難しさを語った。エコマ ップ(Fig.1)から読み取れるように、児の学校および家庭生活の質を向上させるにはSSTのみの支援に限界があることは早 々に明らかとなった。

  そこで筆者らは第三者としての中立的立場から、次のような介入を行った。①保護者へのカウンセリングを行い、医療 機関での受診と服薬も考慮してはどうかと助言、②医療サイドへのアプローチを行い、保護者の了承を得て児に関する情報 を提供、③SSTにおいて学校生活に般化可能な「ルール」を設けて行動するなど、実践的に支援して児の変容を研究的に追求 、④小学校へのコンサルテーションを行い、当センターも加えたチームを構成して児への対応を皆で話し合い解決する方針 で合意、⑤保護者との連絡帳(日誌形式)やグループ面談を実施、⑥以上①~⑤における相互連絡調整などである。これら の介入はいずれもソーシャルワーク機能の一部である。

  結果として児には投薬が開始され、危険行動は目に見えて減少した。学級担任の表情は一変して明るくなり、安心して 授業が行えるようになったと述べた。家庭での行動にも変容が見られた。他児との交流が生じ始め、互いの家を行き来して 遊ぶようになった。SST場面においても、筆者らは一様に「行動が穏やかになった」「表情が柔らかくなった」という印象 を持った。他児とのトラブルなどの不適応行動は激減した。
  Fig.1とFig.2を比較すると、児や保護者、小学校教師らを支持する関係の多くが「薄い関係」「コミュニケーション に課題のある関係」から、「良好な関係」「比較的良好な関係」へ変化したのが分かる。特に母親と他者・他機関との関係性 が強化された。保護者と学校関係者との対立関係も解消に近づいた。子どもへの関わり手(保護者を含む)が現実のリアルな 子どもの状態を共通認識したからに他ならないと考える。A児の事例が示すとおり、こうした結果を生むには学校・家庭・地域 (支援機関を含む)など多領域・多層にわたるソーシャルワーク専門職が不可欠と言えるだろう。

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