ポスターセッション障害  古川 奨

障害者自立支援法下の小規模作業所の意義

○ 札幌心療福祉専門学校  古川 奨 (会員番号5847)
北海道医療大学  志水 幸 (会員番号1727)
キーワード: 《小規模作業所》 《障害者自立支援法》 《小規模授産施設》

1.研 究 目 的

小規模作業所(以下、作業所)は養護学校等を卒業した障害者の受け皿として大きな役割を果たしてきた。昭和50年代より 急激に増加した作業所の総数は一時、約6000か所となり利用者は8万人を越えた。国は補助金制度として1か所年額110万円を準 備したが、6000か所全体への支給を行うことはなかった。運営の采配は作業所を抱える各市町村に任され、1か所あたり年間 750万程度の補助金で活動は行われた。国が行った施策としては、2000年の社会福祉事業法の改正が作業所に大きな影響を与 えた。利用者が増加してきた作業所の活動内容の充実化と運営の安定化を図るための移行先として、設立要件が緩和された 小規模通所授産施設(以下、授産施設)への道が開かれることとなった。10名以上の利用者を抱え就労活動を中心に行って いる作業所は、授産施設への移行を行うことで年間1100万円の運営費での活動が可能となったが、作業所自体への補助金制度 の充実化は進むことはなく、現在は授産施設への補助金も縮小され始めた。国が作業所に行ってきたわずか110万円の補助金制度 も、障害者自立支援法(以下、自立支援法)の施行と相俟って2005年に廃止された。さらにA市でも、作業所に対する補助金制 度が縮小された。
  縮小されつつある作業所や授産施設の変化を追って、昨年度、本学会で自立支援法事業(以下、支援法事業)への移行を 行った施設の課題を中心に報告を行った。作業所や授産施設の移行先は支援法事業の地域活動支援センター、就労継続支援事業 が多い。移行によって、職員の充実化や設備投資が可能となったが、公務員(福祉職)との給与の比較において支援法事業の 職員の給与体制に対しての改善が必要であることを明らかとした。さらに、アルコール依存症の例を挙げるならば、社会復帰 を目前としている場合、医療機関への依存を断ち切り、自立支援医療を使わず、障害者手帳を取得していない場合が多い。し かしながら、社会復帰のために自立支援事業を利用するには、医療機関を再度利用し、診断書を市町村へ提出させなければな らない。医療への回帰がなければ、就労を目的とした支援法事業の利用が行えない問題点を指摘した。
  そこで今回の報告では、障害者支援サービスとして支援法事業が開始される前段階から影響を与えてきた原点とも言える 作業所の活動に視点を戻すこととした。A市が行う作業所への支援について焦点をあて、自立支援法の見直しが行われた今でも 、作業所が存続する意義を明らかにすることで多様な障害者支援のあり方を検討したい。

2.研究の視点および方法

 今後、障害者の現状に合わせ障害者支援サービスを展開するには、自立支援法を補完する活動が不可欠である。作業所の 移行先とされた支援法事業は、利用者が抱える利用料や活動内容を明確にした弊害として、病状や障害の状況に合わせた柔軟 な利用が行いづらい課題を抱えている。多くの課題を抱えた自立支援法の下、旧来の作業所に求められる活動について熟慮し 、現在も作業所を運営する職員へのインタビューの結果を取り入れ、作業所の存続の意義を検討する。

3.倫理的配慮

本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針に従った。なお、本研究は、ある特定の個人及び団体を対象とするものではなく 、ある市の政策検討を行ったものである。市町村の表記についても規定に従いイニシャルを用いず特定化を防いだ。

4.研 究 結 果

支援法事業が増える中、A市では、まだ多くの作業所や授産施設が活動を行っている。作業所の活動を支援するために、 A市では「障害者地域共同作業所運営費補助要綱」を設けている。支援法と比べ特記すべき点を以下に挙げる。
1.利用者の定員は5名以上であれば活動を行うことができる点。
2.活動内容に応じた必要な広さと設備で活動が行える点。
3.65歳以下の社会福祉主事、または、2年以上、社会福祉に関する事業に従事した者が常時1名以上配置されていれば活動 が行える点。
  これらの要件から、普段の生活や移動が困難な重症障害者に対して、容易に活動の場を提供することが可能となる。少人数 でも活動が行えることは障害者サービスを行う上で考慮すべき点である。   ただし、A市の施策の改善点として補助金についてふれなければならない。補助基本額は利用者が4名であれば487万円とされて いる。重症障害者に対する支援は、少なくとも1対1のマンパワーによるサービスが必要である。安定した支援を重症障害者 に行うには、ボランティアではない、正規の職員数の増加が行うことが可能となる補助金体制が望まれる。
  活動条件が厳しい作業所ではあるが、サービスを待ち望んでいる重症障害者は各地に存在している。支援法事業では、 サービスを行うことが困難な一人ひとりに合わせ、作業所は活動を行っている。地域生活の現状に即し、障害者への支援を行う ことができる作業所は、支援法事業の補完的・代替的存在として考えられる。このことから、補助金についての見直しを行い、 充実化が困難であっても、現状を維持し、障害者にとって使いやすい多様なサービスの一つとして存続させていくべきだと考 える。

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