ポスターセッション障害  金川 朋子

知的障害児のQOL向上をめざした余暇活動に関する考察
-ムーブメント教育・療法を用いた実践的研究-

九州保健福祉大学大学院  金川 朋子 (会員番号7523)
キーワード: 《ムーブメント教育・療法》 《QOL》 《余暇活動》

1.研 究 目 的

21世紀の日本は、「共生社会」をめざして、各省庁が協力し取り組まれている。QOL(Quality of Life)とは、一般に人の 生活の質、すなわち、ある人がどれだけ人間らしい質の高い生活を送ることができるかの概念であり、QOLを高める事が共生 社会の実現に繋がると考える。また、学校教育においては、平成19年4月から「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ 、障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の基礎となるものである。
  そこで本研究では、知的障害のある子どもたちの余暇活動を通してQOLの向上をめざした実践的研究に取り組んだ。 なお、本研究では1977年より日本で取り組まれてきているムーブメント教育・療法を用いた。

2.研究の視点および方法

障害の有無に拘わらず、「幸福」という上位概念に支えられるQOLの領域の一つとして「余暇」は、障害者の生活の質を高 め、障害児者の幸せを支え欠くことができない理念である(中山1))。また、舟橋2)は、重度知的障害者のQOLの促進には 、支援者サイドからの暖かな支援や行政や、地域社会の隣人からの物質的な支援や、暖かな行為が大切なことと同時に、知的 障害者が他者を援助しようとする自主的、主体的な意志や能力、つまり相互援助が自然に沸き起こるような対人的な環境を支 援者サイドが適切に整えることの大切さを述べている。このことから、相互援助のある対人的な環境を整え、障害のある子ど もたちの自主的、主体的な意志や能力を引き出すことがQOLの向上になると考える。
  本研究の趣旨を理解し協力してくれた保護者、知的障害児ときょうだいが参加する子ども教室を実践研究の場として設定 した(以下子ども教室と記す)。子ども教室は、平成19年11月から平成20年10月までの計15回実施した。保護者の記録は、4項 目(子どもの活動の様子、人との関わりの様子、活動への参加の様子、運動課題)と自由記述欄を設けた。また、第11回~第15 回までの5回は、子ども教室実施後の様子を「ムーブメント教室実施後の生活チェック」で記録した。「ム-ブメント教室後の 生活チェック」は、教室参加後から翌日朝までの生活について、参加した子どもの食事の様子、睡眠の様子、情緒・気分の様 子と、保護者の気分の様子を普段の土曜日と比較した結果を5件法で回答を求めた。なお、子ども教室参加者の発達評価の手 がかりを得るために、MEPA-R(Movement Education Program Assessment-Revised)を2回実施した。
  また、保護者を対象にQOLに関する調査、分析を行った。

3.倫理的配慮

個人に関する聞き取り調査及び子どもの様子を撮影についての個人情報を本研究以外には使用しないことおよび個人が特定 できないような配慮を行うことを伝え、ご本人、保護者の承諾を得ている。

4.研 究 結 果

Schlock3)は、QOLを「健康」「生活環境」「家族」「社会的または情緒的人間関係」「教育」「労働」「余暇」 の7つの領域の「良好な状態」の総和が本人のQOLであり、保護者の考えるQOLは、SchlockのQOL定義の「労働」以外の6領域の 内容を含んでいた。保護者が考える「健康」、「生活」、「心」、「つながり」の充実が「労働」に繋がるものであり、このこ とを意識して、子どもと保護者を共に支援していくことが大切である事を示唆する。
  事例を通した検討結果から、低年齢の子ども程MEPA-Rでの変化は顕著で、感覚運動面での発達が見られムーブメント活動の ような軽運動で運動発達を支援できることが実証された。また、ムーブメント教室実施後の生活チェックの記録の検討からは、 年齢の低い子ども程、食事の様子、睡眠の様子に効果が見られた。また、子どもたちの機嫌のよさが保護者や家族にも良い影響 となっていることが伺えた。そして、多くの子どもたちが子ども教室の活動に楽しく、主体的に参加できるようになり、コミュ ニケーション能力の向上や社会性の向上をもたらしたと考えられる。それは、活動自体がQOLに繋がる余暇活動の意義を果たして いると考える。子ども教室の取り組みであるムーブメント活動は、鯨岡4)が述べる「共に生きる場」であり、参加する者がみ んなで作り上げている場となっていた。また、そこには、舟橋2)が述べる相互援助のある対人的な環境が存在し、子どもたち の自主的、主体的な意志や能力を引き出すことができており、それは、QOLの向上へと有効な働きとなることが考察された。
  なお、本研究の一部については、「児童研究」第87巻に投稿したものである。
参考引用文献
1) 中山孝之:知的障害児の余暇と地域生活―余暇の実態調査より、情緒障害教育研究紀要 19、2000、pp239-246
2) 舟橋厚:療育に活かす脳科学、コレール社、 2008、pp87-94
3) Schalock: 知的障害・発達障害を持つ人のQOL 医歯薬出版株式会社 2002、pp104-107
4) 鯨岡 峻:〈共に生きる場〉の発達臨床、ミネルヴァ書房、2002

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