行動援護従業者養成研修プログラムの普及と行動援護サービスの標準化
に関する研究Ⅱ
-市区町村及び行動援護事業所の全数調査からみた行動援護
の実態と課題-
○ 東京学芸大学園 加瀬 進 (会員番号1993)
国立のぞみの園 田中 正博 (会員番号7603)
国立のぞみの園 村岡 美幸 (会員番号5262)
国際医療福祉大学 松永 千惠子 (会員番号4825)
国立のぞみの園 森地 徹 (会員番号5673)
キーワード: 《行動援護》 《実態調査》 《普及・啓発》
障害者害者自立支援法において介護給付に位置づけられた行動援護サービスの提供実態と課題を把握し、今後の行動援護 サービスが果たすべき役割とそれにあわせた質の向上、行動援護従業者研修のあり方を検討する際の基礎資料を得ることを 目的とする。
2.研究の視点および方法支給決定状況と運用状況、並びにその乖離等について実態を把握し、これまで行動援護の普及促進として実施されてきた 施策の妥当性を検討し、今後の課題を把握するため、全市区町村及び行動援護事業所を対象に郵送配布・郵送回収によるアン ケート調査実施した。調査時期は平成20年10~12月で、調査対象・回収状況等の概要は次の通りである。
種類 | 調査対象 | 回収状況 | 調査内容 |
①市区町 村調査 |
市区町村全数 (1809件) |
936件 (回収率51.7%) |
・行動援護の利用状況 ・行動援護と他サービスの代替状況 ・行動援護の支給が伸びない理由 ・点数引き下げの影響 |
②行動援 護事業所 調査 |
行動援護事業所 全数(1684件) |
686件 (回収率40.7%) |
・事業所の利用者数・サービス量 ・職員体制 ・行動援護サービスの提供プロセス ・行動援護の課題 |
日本社会福祉学会・研究倫理指針の「第2指針内容」の「C調査」に記された諸事項を踏まえて、本調査を実施した。
4.研 究 結 果○市区町村が支給決定にあたり行動援護の要否をどの程度意識しているかを見ると、「本人・家族・相談支援事業者等から 利用希望が出た場合に確認」が64.6%と最も多く、「自治体として利用が必要ではないか考えた場合に確認」は20.3%、 「特に確認しない」が13.3%であった。また、行動援護対象者の人数がすぐに分かる自治体は11.5%であった。このことか ら、市区町村は、支給決定に当たって行動援護を積極的に活用しようというよりは、本人・家族等からの希望があれば検討 するという「待ちの姿勢」であることがうかがえる。
○さらに、市区町村における行動援護の支給決定条件を見ると、「特に条件は付していない」が46.2%で最も多く、 「移動支援との併給は認めない」19.2%、「移動支援との併給は認めるが行動援護を優先」14.9%であった。調査設計時、 サービス利用が伸びない理由は行動援護の支給決定条件が厳しすぎることではないかという仮説があったが、今回の結果か らは、支給決定条件の厳しさが理由ではないことがうかがえる。
○行動援護の運用状況についての市区町村の評価を見ると、課題を感じている市区町村が30.3%ある一方、「行動支援 対象者がいない」27.8%、「分からない」21.5%であり、行動援護について課題意識を持って検討しにくい市区町村も5割程 度あった。
○行動援護がうまく運用できている市区町村にその理由を聞くと、「本人・家族の利用希望が強い」49.7%で最も多い 一方、うまく運用できていないとした市区町村にその理由を聞くと「家族・本人からの利用希望がでない」43.7%が多くなっ ていた。このことからも、利用状況を左右しているのは、市区町村等が整備する制度・仕組みよりむしろ本人・家族等からの 希望であり、市区町村は「待ちの姿勢」の場合が多い実態がうかがえる。
○また、行動援護がうまく運用できていないその他の理由としては、「行動援護を提供できる事業者の数が確保できて いない」71.8%、「提供できる事業者のサービスの質が確保できていない」18.7%と担い手の課題を挙げる市区町村が多か った。これを受け、実際の行動援護事業所のサービスの実態として、サービスの提供依頼があった場合に依頼を受けるか否 かを判断する情報や居宅介護計画に盛り込む内容をみたところ、質の高い行動援護サービスを提供するにあたって必要と考 えられる「行動障害発生時の状況」「行動障害のきっかけ」等に十分な配慮が行われておらず、必ずしも行動障害特性に着 目した十分なアセスメントのもとに計画的にサービスが提供されていないことが明らかになった。このことから、今後は事 業者育成と質の確保のために一層の研修の充実と受講促進が求められる。
○当面の制度的課題として行動援護の所要時間への評価をみると、市区町村では「分からない」が57.5%で最も多く、 「現行の4時間30分以上で適正」が24.5%で続いており、サービス利用が進まない状況で判断しかねるという姿勢がうかがえ た。一方、実際にサービスを担っている行動援護事業所では、「所要時間上限を引き上げるべきである」が49.3%で最も多 く、「現行の4時間30分以上で適正」が32.1%で続いており、市区町村に比べると、実際の制度を利用してみた感想として引 き上げを求める割合が高くなっている。
○また、平成20年4月に行動関連項目等の合計点数が8点以上に引き下げられた影響を聞いたところ、市区町村、行動援護 事業者ともに、「特に変わらない」「分からない」が多く、ここでも、サービス利用が伸びない理由は、行動援護の支給決定 ・利用条件の厳しさではないことがうかがえた。
○以上の結果を踏まえると行動援護の適切な普及に向け、当面取り組むべき課題として次の諸点を指摘することができる 。①行動援護関連項目の基準点改訂(8点以上)等を活かす、相談支援事業と行動援護のリンキングを強化する取り組み(例 えば障害程度区分認定で行動援護関連項目にチェックがある場合には、相談支援事業の必須作業として二次アセスメントを 行うような手だて)の導入、②行動援護と移動支援の好ましい活用事例・活用体制づくり事例の収集と分析、③保護者・行 政・相談支援事業所・サービス提供事業所等に対する行動援護の意義に関するわかりやすい情報提供の推進、④移動支援( ガイドヘルパー)研修や相談支援事業者研修における「行動援護」理解の導入。
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<付記>
本研究は厚生労働省「平成20年度障害保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)」の指定を受けて行わ れたものである(採択番号:117)。
なお、調査の実施・分析にあたっては高森裕子氏(三菱総合研究所:人間・生活研究本部/ヒューマン・ケア研究グル ープ研究員)から絶大なる支援を賜った。ここに記して感謝致します。