行動援護従業者養成研修プログラムの普及と行動援護サービスの標準化
に関する研究Ⅰ
-行動援護従業者養成研修中央セミナー<地方版>の開催による
行動援護普及への取り組み-
○ 国立のぞみの園 田中 正博 (会員番号7603)
東京学芸大学園 加瀬 進 (会員番号1993)
国立のぞみの園 村岡 美幸 (会員番号5262)
国際医療福祉大学 松永 千惠子 (会員番号4825)
国立のぞみの園 森地 徹 (会員番号5673)
キーワード: 《行動援護》 《セミナー》 《普及活動》
障害者自立支援法において介護給付に位置づけられた行動援護は、従業者確保の観点から「行動援護従業者養成研修」の 受講を前提に資格要件緩和の経過措置が設けられている。国立のぞみの園では、平成18年度より厚生労働省との協議の下に、 行動援護従業者養成研修中央セミナーを行ってきた。平成20年度は、19年度の本研究事業で得られた3日間の研修プログラム を元に、これまでの目的であった「都道府県研修で中核的な役割を果たす者の養成」に加え、①「障害者自立支援法に基づく 行動援護の普及」、②「従業者の養成」、③「サービスの質の確保」、④「都道府県研修の活性化」を図ることを目的に実施 することとした。
2.研究の視点および方法①障害者自立支援法に基づく行動援護の普及
都道府県毎に従業者養成研修を実施するインストラクターを確保できるよう、全国を5つのブロックに分け各地方での開催 とした。ブロックの選定にあたっては、主催地の都道府県ならびに周辺の自治体にも協力を仰ぐ体制で進めた。進め方について は全くの手探りのため、まずは1ブロック1自治体となる北海道から進めた。基本としては本研究会の委員であるインストラクタ ーが各地域のセミナーの具体的な進行の段取りを行った。また、行動援護の成り立ちや対象者の障害特性の理解、支援の方法に ついて広く言及するプログラムを一般に公開し、行動援護の基礎理解をねらい、普及のためのきっかけとした。主には地方自治 体の職員、社会福祉協議会などの関連団体の参加を得た。参加の告知に関しては開催地並びに周辺の都道府県の協力をいただい た。
②従業者の養成
各地において従業者の養成がはかれるよう、インストラクターの確保・養成を中心課題として取り組んだ。地方版の中央セ ミナーを開催するにあたり、講師やインストラクターは、なるべく地域の方に参画していただき、補いきれないところを中央セ ミナーのインストラクターで対応した。
③サービスの質の確保
行動援護の対象者、中でも発達障害の方たちの理解と支援を中心にプログラムを構成し伝え、共有することを目的として 取り組んだ。
④都道府県研修の活性化
地方版を行うにあたりセミナーに関わる方の範囲を従業者や行政だけでなく、相談支援従事者や発達障害支援センターの 職員などに広げ、行動援護に側面的な支援を行える方や機関に関わってもらい、事業のあり方を検討する際に積極的に関わって もらえるよう働きかけた。
3.倫理的配慮
本研究は、日本社会福祉学会研究倫理指針に沿って行った。
4.研 究 結 果①障害者自立支援法に基づく行動援護の普及
結果としては、5つ(北海道、愛媛県、東京都、岩手県、佐賀県)の開催地を得ることになったが、あらかじめ全国を5つ に分けての展開とはならなかった。そのため普及の視点で言えば、関西、中国、北陸を取り残している状況である。
②従業者の養成
ねらい通りにそれぞれの地域の人材を開拓できた部分もあるが、全体的な課題としては講師、インストラクターを担っ た者の力量が均一ではない、または講義や実習の意図を十分に理解できないまま研修が進み、グループワークの際グループ ごとの調整ができないまま理解の差が露呈したなど、従業者の養成を地方毎の対応だけでは十分にこなしきれないのではな いかという不安を残した。
③サービスの質の確保
現場で実際に発達障害の方たちの対応をしている方にとっては、今までのサービス提供の中で理解できなかった部分が この研修によって説明され、具体的な支援方法までを考えることができるものとして、受講後のアンケートなどからも理解 を深めたという回答が多かった。
④都道府県研修の活性化
北海道では、行動援護を必要な人へきちんと届けるためには、相談支援事業者の理解が欠かせないという考えが深まった。 また、発達障害者支援センターとの関係では、自閉症の正しい理解の普及という視点での理解と協力が得られる方向である。
愛媛では、県の自立支援協議会の中で行動援護研修について来年度以降も続けて開催するということで話がまとまった。 また、発達障害者支援センターとの関わりも強く勧めていく予定である。愛媛県では行動援護従業者養成研修が一年目に開催 されてからは行われておらず、中央セミナーが開催されたことが大きなきっかけになったと思われる。
東北ブロックでは平成19年度から、中央セミナー参加者を中心に行動援護各県研修に向けての勉強会や情報交換を継続的 に行い、その人的交流を基盤として今年度の岩手県における中央セミナーの講師、インストラクターを選定・構成することが できた。また青森、岩手、山形、福島の各県研修では、県内の行動援護関係者の協力関係が進み、県の人材を中心に研修を 運営しても研修の質を担保できる状況に近づきつつある。福島県では20年度に2度の研修が開催され、県内の各エリアで巡 回しつつ研修を行うまでに至っている。その一方で、県と中央セミナー参加者、本研究会の委員の三者の連携が弱い地域で は、研修の質と、行動援護サービスを普及する体制が前年とほとんど変わりない状況がうかがえた。
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<付記>
本研究は厚生労働省平成20年度障害保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)の指定を受けて行われた ものである(採択番号117)。
なお、中央セミナー開催にあたっては関係諸機関にご協力をいただきました。ここに記して感謝致します。