長期入院精神障害者の地域生活継続要因の探索的研究
退院支援と地域生活継続過程の質的調査から
○ 京都府立大学 中根 成寿 (会員番号6213)
山城北保健所 光井 貢 (会員番号7376)
キーワード: 《精神障害者》 《長期入院》 《地域生活》
本稿の目的は、A地域(5つの市町村から形成される広域局管轄区域)の一般病院精神科に長期入院(1年以上)患者の退院
成功と地域生活継続のプロセスを記述し、その要因を明らかにすることである。
日本の精神障害者は、長く精神医療、精神保健の対象として捉えられてきた。これは、精神障害者の特徴の一つとして投
薬などを含めた医学的ニーズが高いことがその原因として指摘できる。しかし、長く日本の精神医療における社会的入院の多
さは国際的にも批判を浴びていた。日本においては1993年の障害者基本法、1995年の精神保健福祉法などにより、精神障害者
の福祉領域への位置づけ、とりわけ病院や施設以外での在宅生活を基本とする地域福祉への対応が本格的に進められている。
2006年4月に施行された障害者自立支援法では、都道府県、市町村に障害者福祉計画の策定を義務づけており、A地域があ
る都道府県においても障害者自立支援計画が策定されており、2007年3月(平成19年)に出された改定案において、2011年
(平成23年)までに入院中の精神障害者の地域生活への移行を450名程度という数値目標を掲げている。
またこの計画の中での重点施策の一つとして「精神障害者の退院支援の充実」が挙げられており(指定相談支援事業者に
自立支援員を配置し、精神科病院と連携を図りながら退院に向けた支援を行う「精神障害者退院支援事業」について、各障害
保健福祉圏域への拡大を図る)、精神障害者の退院支援事業が政策上重要な課題となっている(退院支援事業については後述
する)。
本稿では、精神障害者の長期入院から地域生活への「移行」プロセスを明らかしたいと考える。山野らの調査では(山野
・東・中根 2008)が「移行後」の生活のある1時点を焦点化し、地域生活のニーズ調査を行ったが、本稿では退院支援から地
域生活へのプロセスを、時間的視野を広げることにより記述する。
これらの調査で明らかになった退院阻害要因は、「長期入院」(熊倉1992、大島1996)、性別(大島1996、藤田2004)、
家族の不在(大島1996)などである。山野らの調査(山野・東・中根 2008)でも地域生活ニーズの調査から「単身、高齢、
男性、長期入院」が地域生活を困難にする変数であることを指摘している。
だが現在の障害者福祉計画に基づいた退院促進支援事業は、その退院阻害要因を乗り越える必要がある。なぜなら、現在
精神科病院に長期入院している人の多くが、単身、高齢、男性だからである。確かに彼らは退院困難層ではあるが、支援者と
の協力によって少しずつ、地域生活への移行を開始継続している。本稿は、その少数事例に注目し、質的調査を採用すること
で、退院困難層の退院から地域生活のプロセスを描き出したいと考えている。
インタビューには研究チームから1?3名が参加した。調査日程の都合上、全てのインタビューが同じ調査体制では実施され てない。インタビュー内容は同意を得て、録音し、テキストに起こした。テキスト化されたデータは、質的データ分析ソフト NVIVO ver.8を利用して、分析を行った。分析の方法は、木下(20007)によるM-GTAを採用した。
3.倫理的配慮本調査、分析においては、調査時に調査対象者に書面で調査の意義、匿名性の担保について説明し、調査への同意をお願 いした。調査で得られたデータは、調査者が分析者に郵送し、分析者が管理を行った。音声をテキストに起こした後は、イン タビューデータが入ったCDは裁断し破棄した。
4.研 究 結 果調査、分析の結果、9個のカテゴリが抽出された。以下を図に示す。各カテゴリが複数の概念によって構成されている。