ポスターセッション方法・児童・女性  阿部 隆春

児童虐待に対する意識調査
-「親が子どもに対してしつけのためにする体罰」に焦点をあてて-

○ 東京都福祉保健局  阿部 隆春 (会員番号7301)
中部学院大学短期大学部  小木曽 加奈子 (会員番号6904)
岐阜医療科学大学  安藤 邑惠 (会員番号1580)
東洋医療福祉専門学校  平澤 泰子 (会員番号7302)
キーワード: 《児童虐待》 《体罰》 《しつけ》

1.研 究 目 的

平成12年「児童虐待防止法」施行以降、児童虐待防止の施策の推進が図られたが、その一方でこどもの命が奪われるなど の重大な児童虐待事件が後を立たない。全国の児童相談所に寄せられる児童虐待に関する相談対応件数も平成11年度11,631件 から平成17年度34,451件と3倍に増加している。
  東京都内を例にとると、都内の児童相談所で受けた虐待の相談・通告の件数も増加の一途をたどり10年前の約14倍となって いる(児童相談所受理件数:平成6年度217件、平成16年度3,019件:東京都児童相談所のしおり)。児童虐待防止法では、親権 の行使に関する配慮等として「児童の親権を行うものは、児童のしつけに際して、その適切な行使に配慮しなければなりません 。」とある。大人がしかったり褒めたりしてしつけを行っているのである。平成15年「親子関係に関する調査報告書」(東京都生 活文化局)によると現役の親が「よく、時々体罰を行っている」と回答26.5%、「あまりない」45.3%、「ほとんどない」26. 5%であった。先行研究として、川﨑は「わが国は、まだ体罰を容認する風土が根強い」と述べている。益田は、戦後、「家父 長制家族制度」は崩壊したが、「しつけ」としての「体罰」は現存していて、しつけ手と子どもの関係、子どもの受け取り方や体 罰の程度、内容等により容易に「児童虐待」に転化することを示唆している。
  本研究は、児童虐待が社会問題になってから「児童虐待」と「しつけ」は大人の意識の中でどう違うのかを「親が子どもに対し てしつけのためにする体罰」をどう思うかということから「適切な行使」意識を明らかにすることを研究課題とした。

2.研究の視点および方法
  1)研究の視点:児童虐待としつけの意識について、「親が子どもに対してしつけのためにする体罰」を肯定的あるいは否定的 どちらの考えを持っているかの傾向を調べる。
  2)調査時期及び調査対象者:2007年、精神保健ボランティアのつどいに参加した者のうち、本研究に同意を得られた253名。
  3)データ収集:大会資料と共に、本アンケート用紙を同封した。口頭で研究の趣旨を説明し、その後、参加者には自由意志 により無記名で会場外に用意したボックスへアンケート用紙提出を行った。
  4)分析方法:分析としては、量的調査項目は統計パッケージSPSS15.0Jにて多変量解析などを用い、質的調査項目はKJ法を 用いた。

3.倫理的配慮

口頭及び書面で研究の趣旨を説明し個人名が特定されないこと、研究以外には使用しないことを説明し協力を依頼した。アン ケート提出をもって本研究への同意とみなした。なお、本研究は大会の審査を経て実施した。

4.研 究 結 果
  1)対象者の属性として男性42名(16.6%)、女性209名(82.6%)であった。年齢は、20歳代未満から80歳代までと幅広かった 。年代としては、50歳代56名(22.1%)、60歳代81名(32%)、70歳代49名(19.4%)が多かった。職業は、無職112名(44.3%) 、その他47名(18.6%)、学生27名(10.7%)、施設職員15名(5.9%)が上位を占めた。参加者のうち地域で精神保健のボラン ティア活動をしている人は、253名中188名(75.5%)、精神保健ボランティア講座受講者185名(75.2%)であり、精神保健や社 会福祉問題に対して意識が高い層であると考えられる。
  2)「親が子どもに対してしつけのためにする体罰をどう思うか。」の質問の結果は有効回答225名(88.9%)であり、①どんな 場合でもよくないと思う68名(26.9%)。②よくないがやむをえない場合もあると思う117名(46.2%)。③加減すれば有効である と思う27名(10.7%)。④しつけ上よくないが効果的な方法であると思う7名(2.8%)。⑤しつけのためには仕方ないと思う6名 (2.4%)。欠損28(11.1%)であった。
  3)男女別に見ていくと、「どんな場合でもよくないと思う」は男性39名中16名(41.0%)、女性184名中52名(28.3%)で あった。男性の方が女性と比べてしつけのための体罰はよくないと考えていることが窺えた。

5.まとめ

精神保健ボランティア集会の参加者の74.1%は50歳以上であり、男女別では、女性は82.6%である。しかったり褒めたりする しつけに対して、しつけのための体罰をどんな場合でも否定的と考える人は26.9%であり、やむをえない、条件付で肯定的と考 える人は62.1%である。回答なしは、11.1%であった。本調査結果を一般化はできないが、親が子どものためにするしつけのた めの体罰を肯定的と見る意識の存在が多いことが窺えた。

  参考文献
川﨑二三彦:『児童虐待』 岩波新書 2006
益田幸辰 :「児童虐待」と「家族におけるしつけ」の関係について 子ども家庭福祉学 第2号 日本子ども家庭福祉学学会  P31-40 H14,12,20
東京都生活文化局:「親子関係に関する調査報告書」 P201 H15,3

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