介護福祉士における専門技術の考察
-バイステック7原則と介護技術の関係性について-
郡山健康科学専門学校 山ノ井 勉 (会員番号3361)
キーワード: 《介護福祉》 《専門技術》 《バイステックの7原則》
介護福祉は、介護を必要とする方を対象として「生活」に視点を置いた支援活動である。介護技術は、看護技術と密接な
関係にある。しかし、医療行為は原則禁止とされ、介護は日常生活動作への支援が主目的となり、生活の場での「安全・安心
・安楽」への支援といえる。
介護技術が活用される場面は、日常生活場面である。したがって、形式的な面接技術の活用と違い、臨機応変な対応が求
められる。介護場面一つ一つに適した言動が求められるため、「コミュニケーション技術のマニュアル化・パッケージ化」は
(同じ場面は2度とないため)困難な状況にある。したがって、介護技術における社会福祉援助技術の理論化や実践化は未成
熟である。
介護福祉士の専門技術として、身体的ケアを中心とする介護技術がある。その活用の際には「コミュニケーション技術」
「観察」が必要不可欠である。「コミュニケーション技術」「観察」の技法を効果的に活用するには、社会福祉援助技術にお
ける「バイステックの7原則」が有効であると考える。
身体的ケアを中心とする介護技術と面接技術やコミュニケーション技術を中心とする社会福祉援助技術の統合化を図り、
介護福祉士独自の「かかわり」に関する専門技術構築を目的とし、介護場面におけるバイステック7原則の活用マニュアル
作成のための基礎的研究とする。
社会福祉援助技術におけるバイステックの7原則を適用し、介護福祉士の「かかわり」に関する専門技術の構築を目的
とする。
まず、介護実習を履修してきた学生(第2期介護施設実習終了後、介護福祉学科2年生36名が対象※本校は3年課程
での介護福祉士養成施設である)に対し、平成20年11月に自由記述式のアンケートを実施した。(タイトルは、「バイ
ステック7原則を介護場面で振り返る」)
①バイステック7原則それぞれの項目について、活用したとされる場面を事例として自由記述式(成功例・失敗例含)にて
回答する。
②各事例を7原則ごとに数値化し、どのように活用されたか事例研究として分析する。
③各事例から、「かかわり」に関する専門技術の視点を考察する。
被験者の自由意志を尊重するため、上下関係による強制力が働かないように留意し、成績に影響がないことを説明する。 また、被験者が特定できないようにした上で、公表し、データは、個人情報を厳重に管理した上で保存する。公表された データは被験者に情報開示し、不都合等あった場合には速やかに申し出ることにする。
4.研 究 結 果本研究から得られた各原則での範囲として特徴的な事例は次の通りである。
①個別化の原則では、「状況に応じた介護を行う」(13ケース)「一人ひとりを名前で呼び、関心を示す」(5ケース)
「好き・嫌いを把握する」(5ケース)など、「個人」を意識する事例が多く、身体状況・心理的状況に応じることが大切
であるという回答であった。
②自己決定の原則では、「入浴・食事・リハビリテーション・レクリエーションなどの生活プログラムへの参加につい
て」(19ケース)の事例を回答する傾向が強く、また「意欲を引き出すために」自己決定を尊重するという回答が得られた。
また、失敗事例(7ケース)では、介護を必要とする方の同意・確認を得ずに介護を行ったという回答を得た。
③受容の原則では、「現実のこととして受け容れられなかった」ケース(失敗事例 10ケース)が回答された。忙しさ
や疲労から充分な介護ができないと考える学生や暴力や暴言に対して恐怖感を感じる学生がいた。
しかし、効果があった事例として「認知症の方に対する介護」(6ケース)が回答された。
④非審判的態度の原則では、「否定せず、傾聴する」事例(11ケース)への回答傾向があり、失敗例としては、「時間
にあわせて介護する」(5ケース)という回答があった。
⑤統制された情緒関与の原則では、失敗事例を回答する傾向があり「介護を必要とする方の感情を考えずに介護する」
(7ケース)であった。原則を理解することができた事例として「介護者の感情が介護を必要とする方に伝わる」(2ケース)
と実感できたケースもあった。
⑥秘密保持の原則では、「個人情報保護・介護記録」(14ケース)、「職員間での情報の共有方法」(4ケース)といっ
た事例があった。
⑦意図的な感情表現の原則では、「コミュニケーション障害のある方への介護」(4ケース)の事例が出された。
本研究において、バイステック7原則が介護福祉士養成教育において(特に介護の実践場面において)有効であること
が学生アンケートから明らかになった(「実習中、社会福祉援助技術が役に立った」(60.29%))。
施設介護実習での経験からバイステック7原則についての事例研究を試みたが、今後は量的調査結果を充分に踏まえて、
介護技術におけるバイステック7原則の活用マニュアルを作成していくこととする。