ポスターセッション歴史・制度  咸 日佑

日本におけるホームヘルパーの現状と課題
-K市とS県のホームヘルパーのインタビュー調査を参考にして-

同志社大学大学院 博士後期課程  咸 日佑 (会員番号7566)
キーワード: 《介護保険サービス》 《ホームヘルパー》 《擬似市場》

1.研 究 目 的

介護保険サービス市場は「擬似市場」+アルファとしての性格をもっている。この「擬似市場」とは①供給サイドが組織特性 や行動原理の異なる多様な組織で構成、②需要サイドに対しては保険財源を含む公的資金の相当程度の投入、③消費者に代わる 第三者がサービス購入の決定で重要な役割を担う、と特徴付けられている(平岡公一[2006])。+アルファの部分は、介護報酬 単価が厚生労働省によって決定されている点、つまりプライス・コントロールがある点である。
  本報告においては、介護労働者全般に共通する低い労働条件と介護報酬単価の切り下げに伴う介護労働者の不足問題につい て、ホームヘルパー(訪問介護員)の構成や属性、賃金・労働時間などの労働条件及び、そうした「労働条件をホームヘルパー 自身がどう評価しているかという意識」の現状を把握し、課題を提起することを目的としている。

2.研究の視点および方法

第1に、既存統計調査資料を用いて、サービスの種類や従事者数を明らかにし、高齢者ホームヘルパー(訪問介護員)の属性を 明らかにする.つまり、性・年齢構成、学歴、婚姻上の地位、保有資格などを明らかにする。次いで、ホームヘルパーの労働条 件(就業形態、賃金、労働時間、社会保険への加入状況)を明らかにする。
  第2に、ホームヘルパーの仕事のやりがいや満足度、賃金や労働時間を介護労働者自身がどのように見ているかなどをインタ ビュー調査を通じて探る。

3.倫理的配慮

聞き取り調査に関する確認事項の文書において、調査目的を提示し、①質問は「質問項目」に沿って行いますが、支障のない 範囲でお話しください。都合の悪いことや話したくないことについては話して頂かなくて結構です。②インタビューのデータは 厳重に保管し、プライバシーの保護に努めます。③本調査結果を論文・報告書等に掲載する場合は、施設・事業所名、個人名を 匿名とし、本人が特定されないよう配慮いたします。

4.研 究 結 果

本調査は、2008年12月から2009年1月にかけて実施したK市とS県所在の訪問介護事業所で働いている訪問介護員5人を対象に 介護労働者としての業務及び労働条件について聞き取り調査の結果である。
  性別でみると、女性4人、男性1人であった。年齢は20代、30代,40代,50代,60代各々一人で平均年齢は45.8歳であった。 職業経験(福祉関係の仕事)は1年,15年,15年,3.5年,10年で,平均8.9年であった。学歴は高卒1人,短大卒2人,専門学校 1人,大卒1人であった。資格別にみると、5人の中4人がホームヘルパー(1級1人、2級3人)、1人が社会福祉主事、介護福祉士 、 介護支援専門員の資格を持っている。
  結婚状態をみると、独身2人,既婚3人(子どもは3人、2人、2人)であった。雇用形態をみると、常勤が2人,非常勤が3人(契 約2人,パート1人)であった。賃金は常勤も非常勤も勤務年数が長いほど給料は高くなった。平均給料は16.2万円から17.6万円 くらいであった。労働時間は常勤の2人は普通週40時間(1日8時間),非常勤は週32時間が2人,18時間が1人で平均週32.4時間で あった。社会保険の加入をみると、4人は加入、非常勤のパートは労災保険だけ加入であった。
  有給休暇をみると、5人全部有り,半日休暇の場合は3人が有り,非常勤のパートの1人はない、1人は無回答であった。有給 休暇の場合は、常勤の2人は、取りづらいと答えた(1人は管理者で、1人は上司が取らないのでぜんぜん取れない)。労働組合は 全員未加入で、あまり加入の必要性はないと答えた。
  ホームヘルパーの仕事を志望した動機をみると、「今後もニーズが高まる仕事だから」2人、「子どもから手が離れた時、 何かしたい」2人、「人の役に立ちたいから」1人であった。今の仕事の継続意思をみると、全員がこの仕事を続けたいと答えた。
  昇進については、1人は管理者だから、今の職場ではもう昇進はない、4人は昇進、昇級はないと答えた。
  介護保険制度についての不満や改善点をみると、介護報酬を上げてほしいが常勤の2人(20代、30代)で若い人が給料に不満 がある結果であった。また、買い物同行はできるが、散歩はできない、通院の場合、院内介助ができない等、制度上の曖昧で、 散歩と院内介助が介護保険で認められない点について指摘した。また、介護保険の実施前後を比較して、実施後がホームヘルパ ーにも利用者にもゆとりがなくて、厳しくなったという意見もあった。
  性別によるやりやすさとやりにくさをみると、「同性同士が話会う話題がある」、「別にない」、「力仕事は男性がやりや すい」であった。特に、女性4人の中2人が利用者にセクハラされた経験があった。
  今日の介護労働をめぐる問題は、法施行後二度にわたって改定され切り下げがおこなわれた介護報酬単価の問題に起因する 部分が大きいことが以上の調査からうかがえる。現状のままであると、介護の現場における人手不足はさらに深刻化し、利用者 に対するサービスの質の低下が避けられないといっても過言ではない。

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