ポスターセッション歴史・制度  久保 真人

「介護サービス事業状況調査」結果報告
-経営状況、人材確保の取り組み、制度の改善点、将来展望について-

同志社大学  久保 真人 (会員番号6980)
キーワード: 《介護保険》 《高齢者介護》 《介護サービス事業》

1.研 究 目 的

2000年4月より実施された介護保険制度によって、わが国における高齢者介護のシステムは行政による「措置」制度から 「社会保険」制度へと大きく転換した。著者らの研究グループは、介護保険導入から半年以上経過した2000年12月から2001 年1月にかけて、全国の訪問介護サービス事業をおこなっている13,000あまりの事業所を対象とした実態調査をおこない、 サービスの利用実態、事業の収支や今後の見通し、経営・雇用管理の問題点などについてデータを収集し、介護保険制度導 入後の課題や条件整備の必要性について検討した。
  今回、先の調査で把握した介護保険制度導入当初の事業所の経営状況や人的資源管理の実態が、7年を経過した今、どの ように変わったかを把握するとともに、高齢化社会を迎えつつあるわが国にとって、これからの介護事業はどうあるべきか について検討するための基礎資料として活用する目的で、全国の介護サービス事業所を対象とした郵送調査をおこなった。

2.研究の視点および方法

17都道府県(北海道、青森県、岩手県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、東京都、新潟県、福井県、山梨県、京都府、 岡山県、徳島県、愛媛県、高知県、佐賀県)のホームページ上に、2007年11月時点で訪問介護事業者として登録されていた 9,505事業所に、郵送によるアンケート調査を実施した(2008年5月~7月)。回収調査票数は2,821票で、回収率は、29.7% であった。

3.倫理的配慮

調査票は無記名とし、匿名性を保証するとともに、調査の目的を明示した。また、結果報告書を希望し、調査票の最後 に郵送先の記載があった事業所には、後日、本調査の結果をまとめた報告書を郵送した。

4.研 究 結 果

 ここでは調査項目の単純集計結果について、その主なものを報告する。
  経営状況について、「順調である」と回答した事業所が42.7%、「不調である」と回答した事業所が55.5%であった。 研究代表者らがおこなった介護保険制度導入当初の調査では、「赤字である」と回答した事業所が全体の55.8%をしめてい た。この間、制度導入当初の混乱がおさまり、市場原理による事業者の淘汰などがおこなわれてきたにも関わらず、介護 サービス事業の経営が依然として不安定であることがうかがえる。複数回答の介護サービス提供上の工夫では、64%の事 業所が「研修による介護従事者の質向上」を選択した。2番目以降は、「医療機関との連携」(33.8%)、「多様な介護 保険指定サービスの提供」(33.0%)となっていた。そして、複数回答の介護サービス提供上最も困っている点について は、やはり「介護報酬額の低さ」(27.5%)、「介護従事者確保の困難さ」(25.1%)の2つが突出していた。
  介護従事者の充足状況では、「充足している」と回答した事業所が50.9%、「不足している」と回答した事業所が 48.7%となり、ほぼ同数となった。複数回答の介護従事者確保の施策では、「教育・研修機会の充実」をあげた事業所が 半数を越え(55.4%)、次に、「仕事や経験を考慮した人事処遇」(43.0%)が続いた。先に述べた介護サービス提供上 の工夫で、64%の事業所が「研修による介護従事者の質向上」を選択していたこととあわせて考えると、介護従事者の質 の向上による他事業所との差別化、さらに、それと連動する形での介護従事者のためのキャリア・パスの構築が、今後 の介護サービス事業にとって重要なポイントであることが示唆された。
  介護従事者確保のための施策である介護福祉士資格取得義務化について、「義務化の必要性を感じている」事業所 は34%、「義務化の必要性を感じていない」事業所は65%であり、介護福祉士資格取得義務化に対しては消極的な意見が 多数を占めた。また、同じく、介護従事者不足を補う施策である外国人労働者受け入れについて、「受け入れの必要性 を感じている」事業所は23.4%、「受け入れの必要性を感じていない」事業所は74.2%であり、外国人労働者の受け入れ に対しても消極的な意見が多数を占めた。
  利用者のニーズは高いが、経営上(利益が出ない、人材の確保が難しいなど)参入できない介護サービス事業を複数 回答でたずねた。「夜間対応サービス」(38.4%)、「小規模多機能サービス」(26.2%)などの選択率が高かった。こ れらのサービスでは、需要と供給のずれを抑えるため、介護報酬の算定要件の見直しや条件整備などの行政的措置が望 まれていると言えるだろう。
  介護保険制度の将来展望についての基本的な考え方をたずねた問では、「制度として定着し、微調整程度で安定的 な運用が可能である」とした事業所は20.6%、「介護保険制度の抜本的改革が必要である」とした事業所は76%であった。 制度の骨組みそのものを見直す必要性を感じている現場関係者が多いことを示す結果である。さらに、介護保険制度の 改善すべき点をたずねた結果、半数以上の事業所があげたのが「サービスの質と介護報酬の算定要件を結びつける仕組 み作りが必要」(54%)であった。続いて、「国民負担を増やしても介護報酬を引き上げる必要がある」(30.5%)、 「非営利法人の優遇制度を廃し、民間と同じレベルで競争させる必要がある」(29.6%)などの選択率が高かった。な お、「現制度のままでよい」と回答した事業所は1.6%であった。

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