ポスターセッション国際・医療・実習  根津 敦

コミュニティワーク教授法
-カナダの大学での試み-

富山福祉短期大学  根津 敦 (会員番号4392)
キーワード: 《パウロ・フレイレ》 《ソウル・アリンスキー》 《ベル・フックス》

1.研 究 目 的

ある社会福祉協議会の窓口に、「もうお金がなく野宿をし始めている。どうしたらいいか」と女性ホームレスが現れた。 応対した職員は、男性ホームレスを対象に活動を立ち上げたばかりの支援者へ、「社協に来て、相談に乗ってくれ」と連絡 をしてきた。隣の市の社協であり、女性に対する支援はまだ経験はなかったものの、出向いてその女性との話し合いをした という。このような"事件"は、対応した社協職員自身の資質の問題で済むであろうか。某県社協の職員も窓口まで来た生活 困窮者に「私たちは何も出来ない」と言い放った事例もあるが、社協職員のソーシャルワーカーとしての資質の問題なのだ ろうか。なぜならば、当時自ら解決する力量に不足があったとしても、当事者に出会い問題を知ったならば、気づかされた 社会問題と向き合い取り組む活動をその後に行わないことこそが、日本のソーシャルワーカーに突きつけられている課題で はないだろうか。社会問題に対して当事者や市民を組織化して取り組む活動はコミュニティワークであり、新自由主義的グ ローバリゼーションによって崩壊しつつ日本社会である今こそ、社会福祉教育は、コミュニティワークを展開できるソーシ ャルワーカーを養成し社会へ輩出する使命がある。
  では、どのようにしたら社会正義を実現し民主的社会を築くコミュニティワークを実践できる力量を持つソーシャルワ ーカーを育成できるのであろうか。今回のポスターセッションでは、カナダの大学で行われているコミュニティワークに関 連する講義や実習を紹介する。実践と理念の関係ではパウロ・フレイレとベル・フックスが、戦略や戦術を含めた実践方法 ではソウル・アリンスキーが教授されている点などを説明しながら、日本でのコミュニティワーク教授法について議論を深 めたいと考える。

2.研究の視点および方法

2005年9月から2年間、大学院でソーシャルワークを学んだカナダ・カールトン大学は、ストラクチュラル・ソーシャル ワークを標榜しており、思想や理念(民主社会主義やフェミニズムなど)を基底とするコミュニティワークという、社会 への働きかけるソーシャルワーカー養成をしている。そのソーシャルワーク教育のシラバスや講義資料や課題、そして実 際の講義体験を踏まえ、ストラクチュラル・ソーシャルワーク教育の教授法を分析し提示する。

3.倫理的配慮

公表されている資料等を使用している。

4.研 究 結 果

アメリカ大統領バラック・オバマがコミュニティ・オーガナイザーであったことは有名であり、その経験が政治への 目覚めとなり、社会変革(チェンジ)への動機付けとなったという。カナダにおいても、コミュニティワークの講義は人 気があり、「現状維持ではなく現状を変えるんだ!そのためにソーシャルワーカーになるんだ!」と、学生たちの意気込 みも高い。その期待に応えるための講義は、上からの変革ではなくボトムアップの変革や、対話と参加をキーワードにし た活動としてのコミュニティワーク実践と位置づけ、アナーキズムも含めた思想をも実践に反映させた場合の効果と評価 をも議論の俎上にしていた。
  コミュニティワークの思想的基底として、パウロ・フレイレの考えが取り入れられている。当事者自身が自ら置かれ ている状況に"目覚める"こと、物質的だけでなく精神的な二重の抑圧のために抵抗と創造力が殺がれていること、非抑圧 のカラクリを"意識化"すること、人びとをその抑圧から解放するには「教育(pedagogy)」と"対話"が必須であることな どが、具体的実践との関連で教授される。
  カールトン大学はストラクチュラル・ソーシャルワークを標榜しているため、アメリカ・フェミニズムの論客の一人 であるベル・フックスの著作も活用されている。黒人フェミニストとして、従来の(中流)白人女性たちのフェミニズム 運動は人種差別問題を直視せず白人優位の体制維持に寄与してしまったという批判を、社会構造への批判眼をもつソーシ ャルワーカーとなるべく、講義に取り入れられている。
  実践における戦術や戦略としては、ソウル・アリンスキーの創造的戦術が紹介され、その効果と評価、具体的事例の 実践への適用の是非などが、講義で議論される。アリンスキーモデルを常に採用するのではなく、別の方策をも創造する 力量がソーシャルワーカーには求められ、運動の方法論について議論を深める。ちなみに、ヒラリー・クリントンはアリ ンスキーとシカゴで交流があり、彼の実践について論文を書いており、またアリンスキーが立ち上げた運動体の中には、 大統領選でオバマの選挙活動を行った団体もあった。
  社会運動を学ぶ場合、労働運動分析は欠かせず、ゲストスピーカーとして労働運動活動家が招かれている。カナダに おける労働運動衰退の原因だけでなく、反グローバリゼーションとしての新しい労働運動の取り組み(国境を越えた労働 運動や不法移民労働者との連携など)が語られ、社会運動の実際などについて議論を行う。
  講義期間中に、実際に活動している運動(選挙運動も含む)に参加し、その運動を精査した報告作成が課され、講義 でも発表することとなっている。例えば、環境保護団体のデモ行進の準備や実践過程(ビラ作成や配布、プラカード作成 、警察への届出、政党を含む関係機関・団体への連絡調整、当日の動員などを含む)を体験し、レポートを行う。

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