福祉施設が人材に求めるコンピテンシー
-A県内福祉施設および機関アンケート調査結果から-
○ 東北福祉大学 千葉 伸彦 (会員番号6188)
東北福祉大学 富樫 亜紀子 (会員番号4635)
東北福祉大学 後藤 美恵子 (会員番号7009)
東北福祉大学 小崎 浩信 (会員番号4447)
東北福祉大学 広浦 幸一 (会員番号1730)
東北福祉大学 阿部 一彦 (会員番号3623)
キーワード: 《実践型教育》 《コンピテンシー》 《求める人材像》
厚生労働省の『福祉・介護人材確保対策について(平成21年2月)』や、福祉従事者の確保の難しさ、超高齢社会
・格差社会の到来による社会の様々な諸課題が山積している現状を踏まえると福祉に関わる人材の育成は急務の課題
であると言える。
しかし、現実を見てみると、福祉現場が採用する人材に求めている能力と大学が育成しようとする人材像がマッチ
しているかとは言い難い。そのため、今後大学には、社会の現状や意向をふまえた人材養成が必要であると言われてい
る(中央教育審議会「学士課程教育の構築に向けて」平成20年12月)。
これに関連して、経済産業省においては、国内企業を中心に調査を実施し、『社会人基礎力』(平成18年)という
、「組織・地域社会の中で多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力」を示す指標を作成した。
福祉施設においても、福祉専門職には「専門性」の他に、「人間性」や「志向性」等が求められることがすでに報告
されているが(『コンピテンシー・マネジメントの展開』(2003)ライルM,スペンサー)、福祉施設を対象に先に述
べた調査に類するものを実施し、『福祉人材基礎力』とよべるような指標を検討することによって、社会や現場が求め
る人材像をより明確にできるのではないかと考えられる。
そこで本研究では、「福祉施設が新規採用職員(大学新卒)に求める人材像」、「新規採用職員(大学新卒)に不
足が見られる能力」に焦点をあて、福祉施設がその人材に求める能力を具体化し、今後の大学教育における福祉人材育
成の達成目標の示唆を得ることを目的とした。
調査は、A県内福祉施設および機関等に対して、福祉専門職等の「対人」を職業とする人材に共通して、「大学卒業
時までに身につけておくべき」能力や資質を問う調査を、郵送調査により実施した。
調査対象施設は、A県福祉施設の一覧が記載された冊子中に施設名が掲載されているA県全域の福祉施設および機関
等である。調査対象数は1000ヶ所を無作為に抽出し、それぞれから各1名(施設長および代表者)の回答を依頼した。調
査方法は自記式質問紙を用いた無記名の郵送調査とし、調査期間は平成21年2月20日~3月6日である。回収数は299表、
回収率は(29.9%)であった。その構成は、高齢者福祉施設が40.8%、障害者支援施設が30.7%、児童福祉施設が11.1%
、その他が17.4%であった。
本研究の倫理的配慮として、得られた回答は統計的に処理を行い個人が特定できないよう配慮すること、学術発表 など、研究目的以外でデータを使用することはないことを調査票に明記し、同意を得た。
4.研 究 結 果「求める人材像」に出現するキーワードを抜き出したところ、自由記述欄には、合計114項目のキーワードが記述され
ており、以下のような結果となった(カッコ内は回答数。複数回答可)。特定の業種・職種に関わらず必要とされる力
として、「行動力(43)」、「傾聴(28)」、「チームワーク(25)」、「協調性(22)」、「思考力(20)」、「一般
常識(18)」、「コミュニケーション(17)」等といったキーワードが多く見られた。性格に関するキーワードとして、
「思いやり(34)」、「明るい(27)」、「人間性(25)」、「誠実(19)」、「優しい(19)」、「素直(16)」等が
多く見られた。福祉に関する力、福祉への姿勢や考え方のキーワードとしては「利用者主体(34)」、「対象者理解(28
)」、「知識(26)」等が多く見られた。向上心や意欲に関するキーワードとしては「柔軟性(22)」、「積極性(20)
」等が多く見られた。
このことから、福祉といった『専門性』に関する諸能力という側面よりも、広く一般社会に求められる、各業種にお
いて共通して求められる能力が必要とされていることが示唆された。
「新規採用職員(大学新卒)に不足が見られる能力」に、出現するキーワードを抜き出したところ、合計112項目の
キーワードが記述されており、以下のような結果となった。特定の業種にかかわらず必要とされる力として、「コミュニ
ケーション(48)」、「礼儀・マナー(20)」、「行動力(15)」、性格に関するキーワードとして、「積極性(27)」
、「我慢強さ・忍耐(15)」が多く見られた。福祉に関係する力としては、「現場経験(現場理解)(56)」、「対象者
理解(19)」等が挙げられた。これらからわかるように、汎用的技能(コンピテンシー)を身に付けた人材を求めている
結果となった。本研究においては、A県のみを調査対象としていることから、今後は他県との比較検討を行い、求める能
力の具体化を進めたいと考える。また本学で取り組んでいる実践型教育への活用を順次進める予定である。なお、本研究
は、日本私立学校振興・共済事業団学術研究振興資金(平成20年度研究課題「実学臨床教育プログラムの教育効果の検証
教育効果評価尺度の開発と実学教育の有効性」研究代表者:阿部芳久)による研究成果の一部である。