障害平等研修の実際
-イギリスにおける個人や団体の取り組みを例に-
東大阪大学 三島 亜紀子 (会員番号3829)
キーワード: 《福祉教育》 《障害者》 《障害平等研修》
障害者をはじめ社会的弱者が地域生活を営むための社会環境づくりとして、福祉教育の試みが多様な形でなされてきた。
地域住民・生徒・学生などに対する参加型のワークショップなどもそれに含まれる。本研究は、こうした試みの蓄積を踏ま
えたうえで、障害者の自立生活を支える環境を整えることを視野に障害平等研修(Disability Equality Training以下DET
と略記)に関する認識を深め障害者のエンパワメントを促進することを目的とする。
DETは障害者と関わる人々が、社会の差別的な慣習の本質を理解し、何をなすべきであるのかを明らかにすることを目的
に、主に障害者本人の手によって計画・立案されるものである。講義に加え事例検討やロールプレイ、行動計画作成などで
構成され、グループワークを中心にした、いわゆる「参加型」のトレーニングが基本となっている。
本報告は、科学研究費補助金(若手研究(B):課題番号20730388)を得て「障害者の自立生活を支える環境整備のための
福祉教育:DETによるエンパワメント過程」と題した研究の一部である。ここではDETの手法を明らかにし、成立背景や思想
に関する考察を行い、そして実用的なDETのあり方を追求するべくDETを実施し、そのフィードバックを研究成果に反映させ
る予定である。
計画全体では、①実践の現場を調査することによって、DETの手法を明らかにすること、②DETの思想的・政治的背景を
明らかにすること、③DETを実施するため、実用的な教材やマニュアルを作成することを目標としている。
本報告では、上記の①に該当する報告を行い、③に該当する試みを開示する。
後述するように、障害者差別禁止法などが施行されたことがイギリスにおけるDETの存立には欠かせない要素の一つであ
ったと言われている。法の精神を着実かつ効果的に具体的事例に当てはめ問題解決を推し進めるには、DETの存在が大きか
ったといえる。ひいてはDET関連の蓄積に通じることは、将来の日本においても一助となると考える。
そこでDETを提供している団体や個人に聞き取り調査をし、参考資料や教材の収集を行ないこれらを精査した。
本研究は日本社会福祉学会研究倫理指針に則って実施した研究の一部を報告するものである。実例に個人に言及する ものはなく、聞き取りに協力していただいた団体には聞き取りの内容を公表することに了承していただいた。
4.研 究 結 果キャス・ギャレスピー=セルズやジェーン・キャンベルによると、DETがイギリスで発展した背景には障害者の平等を
進めるための政策の推進と非差別法の制定があった(2005年,久野研二訳,『障害者自身が指導する権利・平等と差別を
学ぶ研修ガイド――障害平等研修とは何か』明石書店.)。イギリスでは、1995年に障害差別法(Disability Discrimination
Act)が成立した。それ以降、企業や機関は訴訟や賠償などのリスクを避けるためにも、従業員等に対して障害者について
の理解を周知させることが不可欠となった。こうした背景は、一部のDETがビジネスとして成立してきたこととも関連する。
DETの特徴の一つとして、当事者によって進められることが望ましいと強調する点があげられる。またイギリスの自立
生活センターなど当事者団体の一部は、企業や機関を対象としたDETを提供することで事業収入を得ており、障害者自立の
ための一つの手段と位置づけられている。本研究は、DETを通じて①障害者の自立生活を支える環境整備を行い、②障害者が
トレーナーになることによって自活の道を切り拓くなどエンパワメントが二重に促進される可能性があることに注目するも
のである。
ポスターセッションでは、DETを実践している団体や個人への聞き取り調査の報告や教材などの一部を同時に開示する。
また、これらの研究を踏まえ、日本という文化的コンテクストにそぐう教材の開発を行なっているが、その試みの一部も
公開したい。