ポスターセッション国際・医療・実習  大友 優子

病児・病後児保育事業の地域間格差の現状
-政令指定都市を事例として-

○ 神戸大学大学院保健学研究科  大友 優子 (会員番号5121)
京都府立大学共同研究員  大友 康博 (会員番号3918)
キーワード: 《病児・病後児保育》 《政令指定都市》 《地域格差》

1.研 究 目 的

一般の保育施設や学校においては病気の子どもを預かることはないため、子どもの発熱・発病の際には保護者 (多くは親)は迎えや通院、看護等により仕事の早退や休暇の取得を余儀なくされることが多い。親は職場への 気兼ねや仕事ができないストレス、子どもの病状への不安等を抱えながら家庭看護をするが、場合によっては無 理な就労の継続や自宅での放置などによって子どもの健康がさらに悪化する等、親と子どもの両方の健康が損な われる可能性がある。このような保育ニーズに応えるのが病児、病後児保育である。
  日本における病児保育は、1966年東京都世田谷区私立ナオミ保育園バンビ病児予後保育室、1969年大阪府枚方 市枚方病児保育室をその端緒とする。これらは共働きの親が子どもの病気の際に家庭看護と仕事の両立の問題を解 決するために利用者と施設の協同により設立されたものである。これらの先駆的な病児保育実践の展開を受けて、 1973年大阪府寝屋川市「寝屋川病気明けつくし保育所」、1975年青森県青森市「青森市病児一時保育所」が市町村 単独補助事業として展開された。
  一方国は、1991年頃から視察、研究を実施、1992年には乳児院等を中心とした「病児デイケアに関するパイロ ット事業」、1994年に「病後児デイサービスモデル事業」、そして1993年「乳幼児健康支援デイサービス事業」と なり制度化された。「乳幼児健康支援一時預かり事業」、現在は「病児・病後児保育事業」となった。なお実施主 体は市町村であり、医療機関等への事業委託が可能である。
  そして平成20年度より交付金ではなく補助金となり、(国1/3、政令指定都市・中核市2/3)、(国1/3、都道 府県1/3、市町村1/3)の負担割合となった。これにより政令指定都市、中核市は一般の市よりも都道府県補助がな い分、負担増となっている。
  さらに、平成21年度より定額の国庫補助ではなく施設の利用実績に応じた国庫補助へと変更された。そのため、 各施設は以前より利用実績を増加させる努力が必要になるものと思われる。さらに生活保護世帯、市町村民税非課税 世帯に対する利用料減免分について国庫補助することとされた。
  本調査研究は、政令指定都市における病児・病後児事業の利用条件等に関する都市間比較を行い、地域間格差等 の課題を明らかにすることを目的とする。

2.研究の視点および方法

 政令指定都市における病児・病後児保育事業について、担当者からのヒアリング、公開されている広報資料等 を用いて利用条件(利用料金、食事提供の有無、利用時間、利用対象者等)を比較した。
  調査対象とした政令指定都市は札幌市、仙台市、新潟市、さいたま市、千葉市、川崎市、横浜市、静岡市、 浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市の18市である。

3.倫理的配慮

政令指定都市が特定されないよう、18市の名称については記述せず、A市、B市・・・R市として匿名表記した。

4.研 究 結 果
・利用時間は、8時~18時までの10時間とする自治体が最も多く、最長は8時から19時と7時半から18時半までの11時間 、最短は8時半から17時までの8時間半であった。
・利用料金は、1日2,000円が最多値であり、最低は1,500円、最高は4,000円であった利用料金には昼食やおやつ代を 含む市と含まない自治体があった。また、多くの自治体では生活保護世帯と市民税非課税世帯は無料としていたが、 一部の自治体では1,000円程度まで自己負担としていた。
・利用料金の他には更に、利用連絡書(診療情報提供書)の作成料(525~2,500円)、施設により登録料(年間2,000 ~5,000円程度)を徴収する自治体があった。
・利用対象の年齢は生後6か月から小学校3年生までとする自治体が最多であった。しかし、生後56日から就学前まで とするなど、特定の月齢や年齢の乳幼児に限定されている自治体や、市の認可保育所に通所する児童として対象者を 限定する自治体、委託した施設により対象者が異なる自治体があった。
・病児、病後児の区別については、施設を明確に分けている市や病後児のみを扱っている自治体があった。朝の体温 が38度以下であること、麻疹と流行性角結膜炎は対象外とするなどの受入条件を明確にしている自治体があった。ま た、委託した施設が受入の可否を判断するとしている自治体が多かった。
・利用日数については月に7日まで、もしくは連続7日間までとしている自治体が複数あり、長期的もしくは頻繁に利 用する子どもへの利用に上限を設けていた。
・自治体へのヒアリングでは、政令指定都市の負担割合が2/3となり財政上の制約等から、住民のニーズがあったと しても施設や定員を増やすのは現状としては困難であるとしていた。
  なお、本研究は科学研究費補助金による研究(課題番号195309)の成果の一部である。

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