島嶼地域における地域福祉推進に向けた基礎的研究
-主観的健康感の関連要因の検討から-
○ 松本短期大学 村山 くみ (会員番号5666)
名古屋学院大学大学 山下 匡将 (会員番号6673)
北都保健福祉専門学校 早川 明 (会員番号7141)
仙台白百合女子大学 嘉村 藍 (会員番号5846)
札幌心療福祉専門学校 古川 奨 (会員番号5847)
東北公益文科大学 小関 久恵 (会員番号5845)
文教大学 大月 和彦 (会員番号2164)
北海道医療大学 志水 幸 (会員番号1727)
キーワード: 《島嶼地域》 《地域福祉》 《主観的健康感》
本研究の目的は、島嶼地域住民の主観的健康感の関連要因を検討することにより、島嶼地域における 地域福祉推進に向けた取り組みの指針を得ることにある。
2.研究の視点および方法(1)研究の視点
本研究では、通院状況や精神的健康度といったいわゆる「健康指標」のみならず、ソーシャル・サポート といった調査協力者を取り巻く「環境」も含めた多角的な視点から、主観的健康感の関連要因の検討を試みた。
研究仮説:主観的健康感は、通院状況や精神的健康度などの健康を直接的に評価する項目のみならず、健康 を意識しての取り組みや自身の生活等に対する評価、そして、個人を取り巻く社会環境の影響を受けている。
(2)研究方法
1)調査概要
本調査は、山形県酒田市に属する孤立小型離島である飛島に居住する満40歳以上の住民187名を対象として おこなわれた(調査期間:2008年8月25日~8月29日)。調査にあたっては、原則的に配票留置法を採用したが、記入 困難などの問題がある場合に限っては、面接調査を実施した。調査項目は、1)基本属性項目6項目、2)地域とのかか わりに関する10項目、3)地域福祉に関する11項目、4)民生委員に関する2項目、5)福祉のまちづくりに関する2項目 、6)介護サービス等に関する4項目、7)社会関連性(ISI)18項目、8)健康生活習慣(健康生活習慣実践指標:HPI含む) に関する10項目、9)健康状態(主観的健康感1項目含む)に関する8項目、10)ソーシャル・サポート(SS)18項目、11) 精神的健康度(GHQ)28項目、12)楽観性尺度12項目、13)生活満足度K(LSI-K)9項目、14)老研式活動能力指標(ADL)9項 目を設定した。
2)統計解析
調査により得られた回答は、Microsoft Excelを用いてデータセットを作成し、各指標(尺度)の原著に基づき 得点化をおこない、SPSS 15.0j for Windowsにて集計および解析をおこなった。
主観的健康感との関連性を検討するために、第一に、量的変数との検討にはt検定、質的変数との検討にはFisher の直接確率による統計的検定をおこなった。第二に、単変量解析の結果、有意な関連が確認された項目のなかから独立 性の高い項目を抽出するために、ロジスティック回帰分析(変数減少法)をおこなった。 3.倫理的配慮
1)本調査は無記名にて実施され、かつ統計的に処理するため調査協力者が特定されることはない。2)調査 協力者は、本調査への参加を断ることにより不利益をこうむることはなく、回答後にあっても申し出などにより 回答データの使用を拒否することができる。3)本調査で得られた結果は、学術発表等の研究目的以外で使用する ことはない。以上のことを調査実施時に調査協力者に対して、書面および口頭で確認し、本研究の趣旨に承諾が 得られた調査協力者のみに調査を実施した。
4.研 究 結 果本研究の趣旨に同意が得られ、かつ基本属性および主観的健康感の回答項目に不備の無い129名のデータを使用
した。主な結果は、以下のとおりである。
(1)基本属性等
調査協力者の性別は、男性52名(40.3%)、女性77名(59.7%)。平均年齢(±SD)は、68.9±10.02歳であった。
(2)単変量解析(対応のないt検定・Fisherの直接確率)
t検定の結果、「SS受領得点(t=2.08)」「LSI-K得点(t=5.94)」「人生全体についての満足感(t=4.76)」「心理
的安定(t=3.80)」「老いについての評価(t=4.54)」の健康群の平均値が有意に高かった(p<.05)。また、「身体
症状(t=3.46)」「不安と不眠(t=2.55)」「社会的活動障害(t=3.11)」「うつ傾向(t=2.78)」「GHQ得点(t=3.76)」
の非健康群の平均値が有意に高かった(p<.05)。
Fisherの直接確率による検定の結果、「通院の有無」の項目において、「通院なし」群のほうがより「健康」と
回答する傾向がみられた(p<.05)。
(3)多変量解析(ロジスティック回帰分析)
ロジスティック回帰分析の結果、「通院の有無(OR=.24)」「SS受領(OR=1.56)」「人生全体についての満足感(OR=2.07)」
「心理的安定(OR=1.73)」「老いについての評価(OR=2.85)」が独立性の高い変数として抽出された(B=.847,r2=.339,p=.000)。