ポスターセッション地域福祉  劉 眞福

当事者活動(「ママの友人」運動)の実践報告
-地域で人を信じる子に育てたい-

同志社大学大学院  劉 眞福 (会員番号6686)
キーワード: 《当事者活動》 《地域による子育て》 《ネームタグ》

今日、自治体が子どもたちを守ろうと地域での声かけを励行しているが、見知らぬ人が声をかけても不審者に見られるだけ では、どうにもならないのではないかという思いがある。今回は、一児の母として使命感を持って取り組んでいるプロジェクト 、(「ママの友人」運動)を紹介する。

1.研 究 目 的

最近、子どもを巻き込んだ犯罪をよく耳にする。その中で、子どもの衣類や私物に名前を書くこともひかえようとする子育て 当事者(以下当事者とする)もいるようだ。
  しかし、歩き始めたまだ幼い幼児の子育てをする上で,特に保育施設と幼稚園などにおいて共同生活をする上での最小限の 目印のみならず、万が一のため連絡先を常に持ち歩かせたいのが親の気持ちであろう。また、迷子防止のために名前や連絡先を 覚えさせたりするグッズが開発されて市販されてはいるものの、いざという時に子どもがパニックに陥ってしまい、無用になる ことが多い。
  本プロジェクト(「ママの友人」運動)では、具体的にネームタグをつけてもらい、共同生活をする上で最小限の印 (ネーミング)となること、迷子の防止、オシャレ感が増すこと等の当事者のニーズに応えることを第一の目的とする。そして 、この運動を通して、当事者が我が子の名前をオープンにすることによって、地域住民が気軽に声をかけられることで自然と 地域で子育てをする一助となるという、コミュニティ形成に資することを目的としている。また、地域住民同士が互いに疑う のではなく、いざというときには助けになる人として人を信じる子に育てることが出来ると考えている。

2.研究の視点および方法
○地域による子育ての視点と当事者主体視点
  政府や自治体の子育て支援の施策と取り組みに対し、子育て当事者からの支援への参加は不可欠であろう。また、核家族化 において親だけの子育てには限界が明確にある中で、本来あったはずの地域による子育てを訴えつつ、地域による子育てができ るコミュニティ形成のためには当事者が主体的にこの活動を通して関わっていく必要性を訴える。
○研究方法
  運動の方法としては子育て当事者に子どもの名前と専用の電話番号を印刷した、布製ネームタグを子どもの衣類などに つけるように勧めることである。
  運動と同時に実践研究として研究方法においては、参与観察方法をとり、運動を含む当事者活動の経緯や展開過程を記録し 、当事者活動の意義と必要性を明らかにする。
  具体的には、去年、子どもの記名と迷子防止のためのネームタグがきっかけで、当事者が集まり、地域(社会)に広めたい という意見によって始まった運動の概要を今年2月、改めて参加者7人に知らせママの友人運動を伝えた。質のあるネームタグの コスト削減のため海外から仕入先を確保し、活動の主旨を知らせるチラシと協力依頼文を作成し、 当事者間の口コミをはじめ、 コミュニティワーカー等の助言を得ながら、保育施設やNPO団体への協力の要請などにより活動を広めている。ITコミュニティ 「ママの友人」(http://mamanoyujin.carers.jp)も開設し、当事者間のコミュニケーションを通じて当事者の仲間作りと エンパワメントを図っている。
  この運動は、賛同してくれた当事者と保育施設にアンケートを実施し、これからの活動推進に活かしていき当事者活動と しての成熟を図る。

3.倫理的配慮

活動の参加者には運動を広めるツールとして集会や学会等にするピアール、そして研究用の目的で用いることに理解を得てい る。また、この運動に関わる資料は当事者に公開し、活動に対する評価などをフィードバックする。

4.研 究 結 果

この活動を通して子育ての現場の状況、すなわち当事者が地域を信頼することが出来ず、 人間不信が広がり、自分だけの悩み として抱えている状況から、これまでの児童福祉や地域福祉部門において子育ての社会化の方針のやり方だけでは、真の子育て 支援につながらないことが分った。 地域の取り組みに当事者の視点が欠けていたこと、そして当事者自ら子どもの未来社会を 築き上げるという問題意識の欠如という、両面からのアピールの必要性があった。そして、当事者にわが子の名前(氏名のうち 名のみ)をオープンにして、地域からの子育てを期待することを訴えた。その試みが「ママの友人」運動であり、ネームタグを 子どもの衣類などにつけるママの手による運動である。
  記号や目印ではなく、呼んであげたい可愛い名前をアピールすることで、声をかけた人も呼ばれた人も、気持ちが明るくなる とともに、子どもがママとはぐれたときには、交番や近くにいる優しい大人が「ママの友人」に連絡をして,繋がるような設定 である。
  ここでいう「ママの友人」とは,世の中の子どもには生別、死別を問わず常に見守る象徴的な存在としての「ママ」がいる ということを前提とし、その「ママ」の友人として「ママ」の代わりの連絡先であったり,運動に参加する人々(当事者、地域 の住民)を指す。そうすることで、地域住民を子育てという営為の一員に入ることを可能にすることができる。
  また、運動及び当事者活等を通して当事者が問題意識を持つことができ、これからの未来社会のための働きかけを工夫する までにも至った。それは、子育てのサービスや施策方針の決定過程と施行過程にも子育て当事者が参加しない限り完成されない ことにも気づくようになったとも言えるであろう。

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp