限界集落における高齢者の暮らしと終末期ケア
○ 近大姫路大学 人見 裕江 (会員番号2480)
甲南女子大学 中村 陽子 (会員番号2486)
愛媛大学 田中 久美子 (会員番号4899)
玉野総合医療専門学校 徳山 ちえみ (会員番号2690)
東洋大学 金 東善 (会員番号6865)
キーワード: 《限界集落》 《高齢者》 《終末期ケア》
本研究は、高齢化率50%以上のA限界集落における暮らしと終末期ケアにおける現状を明らかにすることを目的とした。
2.研究の視点および方法1)質問紙調査
2)調査内容 認知症の人の暮らしと終末期ケアの実態について、本人や介護者の背景、地域への愛着、死亡場所とその 希望、ふだんの生活、介護者の近所付き合い、介護や看取りの負担感とやりがい感など
3)対象 終末期ケアにおける介護のキーパーソンとした。過去3年間広報誌お悔やみ欄に掲載の死亡者290人のうち174人 を対象とし、お悔やみ欄に掲載されていたことを記し、その家族宛に、調査票を発送した。64人(36.8%)から解答があった。 3.倫理的配慮
所属機関の倫理審査委員会の承諾を得ると共に、A町担当機関および対象者に、文書と口頭で、研究の趣旨およびプライバシ ーの保持について説明し、研究への参加の承諾を得た。
4.研 究 結 果1)看取った人の暮らしと死亡時の年齢と死亡場所
64人が看取った人の平均死亡時年齢は84.6歳(68歳~102歳)であった。
生まれてからずっとA町に住み、愛着を感じていたのは44人(68.8%)であった。家で死にたいと希望していたのは27人
(42.2%)で、家族が家で看取りたいと希望していたのは26人(40.6%)であった。
調理を自分で22人(34.4%)、家族16人(25.0%)で、自宅周辺の草刈り、墓掃除など自分で30人(46.9%)、家族11人
(17.2%)と自活している人が多かった。少量などの買い物は、自分で買いにいく31人(48.1%)、家族35人(54.5%)、
移動販売車利用9人(14.1%)で、日用品の買い物も同様であった。別居の家族が毎週買い物をして届けているものもあった。
死亡の直接の原因疾患は、がん12人(18.8%)、心疾患10人(15.6%)、脳血管疾患11人(17.2%)、肺炎11人(17.2%)、
老衰16人(25.0%)、その他17人(26.6%)であった。
死亡場所は、自宅12人(18.8%)、A町内病院17人(26.6%)、A市内病院16人(25.0%)、その他19人(29.7%)であった。
後期高齢期の人では、自宅死かA町内病院死が多くなる傾向が認められた(χ2=12.886、p=0.045)。認知症があった
4人はいずれも80歳代後半で、死亡場所は病院3人(内、施設入所後病院1人)、在宅1人であった。
埋葬は、火葬55人(85.9%)であった。
2)主な介護者と介護や看取りの状況について
介護者の年齢は平均68.3歳であった。介護者は配偶者が26人(40.6%)で、妻が23人(35.9%)で、子ども32人(50.0%)、
その他3人(4.2%)であった。同居の介護者は47人(73.4%)、近くに別居8人(12.5%)、県外や里帰りしての介護がそれ
ぞれ1人(3.2%)、その他3人(4.2%)、不明4人であった。
生活面の交流がある近所つきあい68%と多かった。農家が多く、家族サポートの有無で、1時間あまりの距離でも頻回
に面会の機会をもっていたが、外泊あるいは入退院を繰り返しながら、療養ができることが考えられた。
介護負担感は19人(29.7%)があげており、交通の不便な自宅からの病院への面会は介護負担にあげられた。
死亡前1週間の困難について、病院や施設での看取り(n=38)では、病状の不安14人(36.8%)、病院への通い11人(28.9%)
を多くあげていた。自宅での看取り(n=8)では、病状の不安4人(50.0%)、往診を頼むなどの医療の不安1人(12.5%
)あげていた。
介護のやりがい感では、21人(32.8%)がやりがいがあったとし、自分で作った野菜を嬉しそうに食べたり、お花が見える
ような所に休ませた、外泊で家に帰ったときの表情はとても明るく、また、認知症があったが、自宅で看取った事例では、
老人車を押して畑に行くのが日課となり楽しみだったことが記述されていた。
看取り時の状況について、介護者としてできる限りの介護ができた29人(45.4%)であった。
介護していた時の介護や看取りへの周囲の支援や協力について、同居家族から15人(23.4%)、別居家族から24人(37.5%)、
親族から33人(51.6%)、友人から17人(26.6%)、近所から17人(26.6%)であった。
否定的なものは、6人(8.4%)と、別居の親族からのものと、入院していて専門職から家族の面会が何よりの支えにな
るといわれたことがあげられた。
自分自身の終末期ケアの場所の希望は自宅21人(32.8%)、町内の病院10人(15.6%)で、看取った人の死亡場所が自宅だ
った人は自宅での死亡を多く希望していた(χ2=30.169、p<0.036)。
高齢化率50%以上のA限界集落における暮らしと終末期ケアにおける現状として、生まれ育った愛着のある地域で暮らし
ていた人が8割を占め、後期高齢期での看取りでは、自宅か町内の病院での看取りが多いことが考えられた。
ふだんの生活では、買い物は自分で買いに行くか、家族が買い、草取りなど自活して暮らしている人が多い。介護者は
配偶者と子どもが多いが、亡くなった人の年齢や同居の有無との関連は認められなかった。地域の共同体意識やよいの文化
がなくなってきており、埋葬方法では、火葬が多くなっているが、土葬も残っている。
A県は病院が充実し、往診に熱心な医師がいるが、病気の発症時町内外の病院に救急車で運ばれたり、通院困難になると
入院を勧められることが多いことから、病院での終末期ケアが多くなっていることが考えられる。
しかし、交通の不便な自宅からの病院への面会は介護負担にあげられた。同居別居にかかわらず、子どもたちの介護で
は、1時間あまりの距離でも頻回に面会の機会をもっていた。しかし、妻が高齢で介護する場合には、病院までの交通の手
段がないことが病状の不安の次に多くあげられた。急性期を過ぎると町内の病院に帰って、終末期ケアをするが、家族がい
る場合には、外泊あるいは入退院を繰り返しながら、療養ができることが考えられた。
愛着のある地域での終末期の暮らしは、外泊で家に帰ったときの表情を明るくする、また、自宅で看取った事例では、
老人車を押して畑に行くのが日課となり楽しみとなって認知症による混乱が落ち着いていた。
A限界集落におけるふだんの暮らしが終末期ケアの場所や内容に影響することが考えられるが、看取った人の死亡場所
が自宅だった人は自宅での死亡を多く希望していた。これは、愛着のある豊かな自然の中で終末期ケアができたことが影響
していることが考えられる。しかし一方で、往診に熱心な医師がいるが、入院設備がないと介護者がいないので不安であり
、病気の発症時には、地元の病院に救急車で運ばれ、その病院での終末期ケアを希望することが多くなっていることが考え
られる。
A限界集落における暮らしと終末期ケアにおける現状として、
1) 後期高齢期での看取りでは、自宅か町内の病院での看取りが多かった。
2) 看取りの場所が自宅だった人は自宅を死亡場所に希望していた。
本研究は、平成20年度科学研究費助成(代表者:中村陽子、題名:限界集落の暮らしと高齢者の終末ケアの支援」)に
より行った研究の一部である。