ポスターセッション方法・児童・女性  今村 利香

福祉機関におけるIT整備状況とeラーニングシステムを用いた
DV研修に関する研究

○ 鹿児島大学  今村 利香 (会員番号5622)
鹿児島国際大学  高山 忠雄 (会員番号0441)
キーワード: 《Domestic Violence》 《研修》 《eラーニングシステム》

1.研 究 目 的

H18年度母子生活支援施設実態調査報告書によると,DV被害者支援施設に入職後初めてDV被害者に接する職員も珍しくは無い. 例えば,入所者の半数以上をDV被害者母子が占める母子生活支援施設職員は,被害者支援を実施する職種の一つと考えるが,全 国の母子生活支援施設に勤務する職員全体の有資格者が占める割合は48.7%と,他の専門職等に比べ非常に低い結果となってい る.その他,DV防止法制定後,DV被害者の激増や困難事例が増加しているにも関わらず,経験年数3年以下の職員が占める割合 は,母子指導員が約4割,少年指導員・保育士が約6割となっており,職員のバーンアウトの問題が深刻化している.職員は業務 独占ではないことが,主な原因の一つと考えるが,十分な福祉教育を受けていない,経験年数も短い職員が,深刻なケースに対 応せざるを得ない現状がこの問題を招いている事は事実である.質の高い被害者支援や職員の離職率を低下させるために,福祉 職員への教育およびサポート体制をいかに充実させるかが,今後の重要課題である.昨年筆者が実施した研究でも,母子生活支 援施設に勤務する職員の6割が福祉の基礎教育を受けた事が無い状態で就職していた.新人職員は,就職後に先輩職員から実務 経験を学び,施設外研修を受ける事で実践スキルを身につけており,そのレベルも様々である事が明らかとなった.職員は交替 で研修会に参加するため,研修受講回数は年間平均2.6回であった.これまでの研修受講には,時間や場所の問題があり,これ らをクリアする手段の一つにeラーニングシステムを用いた教育研修システムがある.2002年わが国において,産学におけるIT プロフェッショナルの教育・訓練に必要な枠組み提供を目的とした,経済産業省の『ITスキル標準』が発表された.今はまだ一 部の大学や企業等でのみ教育システムとして実施されているeラーニングシステムであるが,今後,福祉分野でも導入されるで あろうと予測する.今回の研究目的は,このシステムを用いた教育システムの開発及び施設内への導入を検討するために,全国 のDV被害者支援専門機関のIT普及・導入率を明らかにし,教育システム導入の実現可能性を明らかにする事である.

2.研究の視点および方法
質問紙調査:調査対象は全国のDV被害者を支援していると考える機関(国公立,民間施設問わず)とし,担当責任者や施設長 を対象とした.
調査期間:2009年1月11日~3月31日
      設問項目及び統計処理:全質問43項目中,今回「属性,IT設置状況及び利用状況,eラーニングシステムの知識と導入状況, DV問題に関する研修受講経験」の項目に焦点を絞り,統計ソフトSPSS17.0Jを用いて集計した.

3.倫理的配慮

鹿児島大学設置の倫理審査会の承認を経た後,施設内で被害者担当責任者となる方に文書で調査協力を依頼し,調査の主旨 と内容を説明した.個人のプライバシー厳守等を通知し,最終的には調査紙票と同意書を個別に封筒に入れ,郵送していただい た(承認番号:102)

4.研 究 結 果

75箇所より返信があり,有効回答数は74であった.性別は,女性60.8%,男性39.2%,平均年齢50±10.7年,平均就業経 験年数13.1±13.6年であった.所属施設は,母子生活支援施設35箇所,婦人相談所5箇所,配偶者暴力相談センター14箇所, 民間シェルター1箇所,その他15箇所であった.
  所属施設のIT(インターネット等)設置状況については,70箇所で整備されており,そのうち52箇所(74.3%)が全部所 または一部の部署でITがつながっていた.全部所共通の電子書類導入状況については,37箇所(50%)が既に導入済み,5箇所 (6.8%)が整備中となっていた.ITの利用状況において活用状況が多かったものは,「インターネットを利用した必要資料等 の収集,電子メールへの添付による書類や業務資料の提出」であった.eラーニングシステムの知識については,その言葉も意 味も知っていると回答した人は26名(35.1%),全く知らないと回答した人は15名(20.3%)であった.eラーニングシステム が導入されている施設は4箇所(5.4%),今後導入予定の施設は24箇所,eラーニングシステムを用いた院内研修を実施してい る施設は,わずか1箇所であった.
  「初期費用にコストがかかる事や機材設備の維持費がかかる」と言った意見が,eラーニングシステムが導入されない理由 として最も多かった.過去1年間のDV問題に関する研修会への参加状況としては,参加経験'有'が59名(79.7%)であった.DV 問題に関する研修会に参加しなかった理由として最も多かったのは「近くで開催されない,日程が合わない」であったが,仮に eラーニングシステムを用いたDVに関する院内研修があれば参加したいかという質問に対し,受講できるならば参加したいと回 答した人は40名(54.1%)であった.多くの施設で,ITは整備されているものの,初期費用や設備の維持費等コスト面がネッ クとなり,現在の日本での教育システム導入の実現は低い.2002年わが国において,経済産業省の『ITスキル標準』が発表さ れた事からも,eラーニングシステムは,今後時代の流れと共に福祉分野でも導入されるであろうと予測する.
※本研究は,平成20年度文部科学省科学研究費補助金(基盤C20510249)による成果の一部である.

↑ このページのトップへ

トップページへ戻る


お問い合わせ先

第57回全国大会事務局(法政大学現代福祉学部)
〒194-0298 東京都町田市相原町 4342

受付窓口

〒170-0004
東京都豊島区北大塚 3-21-10 アーバン大塚3階

株式会社ガリレオ 学会業務情報化センター内
日本社会福祉学会 第57回全国大会 係

Fax:03-5907-6364
E-mail: taikai.jsssw@ml.gakkai.ne.jp