自由研究発表高齢者福祉8  渡邉 浩文

認知症の人への居宅介護支援サービスの契約書の説明と同意
   -実態調査結果のコレスポンデンス分析結果から-

○ 目白大学 人間学部  渡邉 浩文 (会員番号5577)
日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科  今井 幸充 (会員番号6244)
キーワード: 《認知症》 《居宅サービス計画書》 《説明と同意》

1.研 究 目 的

平成18年度に実施した実態調査の結果から、介護支援専門員はその契約に際しての説明と同意について認知症高齢者の日常生活自立度ランク(以下、自立度ランク)でランクⅠすら説明していない、あるいはランクMまで説明を行っているといった事例があることが明らかになった。そこで、本研究は、介護支援専門員が居宅介護支援サービスの契約書を認知症の利用者に説明を行い、同意を得る方法に関して利用者の自立度ランクとの関連の中でその特性を探ることを目的としている。

2.研究の視点および方法

実態調査は、平成18年1月30日から、同年2月15日までの間で行った。標本抽出の手順は、WAM-NETの「介護保険事業者・報酬情報提供システム」に掲載された居宅介護支援事業の登録事業所31844事業所(2005年12月31日現在)情報をもとに名簿を作成し、県別事業者数構成比にあわせて7500件無作為抽出した。回答者に対しては、回答前に、① 居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネージャー)をしている職員が回答することとした。調査の結果は、2092件の回答を得た(回収率:27.89%)。
   分析は、契約書の説明を行う際の説明対象、理解の確認方法、同意を得る者、署名捺印の方法に関する各選択肢の項目と上限ランクを行列としたクロス集計を行い、それを用いてコレスポンデンス分析を行った。さらにコレスポンデンス分析により算出された次元の得点に対してクラスター分析を行い、上限ランク間及び質問項目間の距離についてデンドログラムを作成した。クラスター分析は、測定方法の間隔として平方ユークリッド距離、クラスター化の方法としてWard法を用いた。分析にはSPSS13.0jを使用した。
   契約書の説明方法についての各ランク間の比較を行うために、契約書の説明を行っている上限自立度ランクごとのNを同程度に修正した。具体的には、もっともNの少ないMを上限ランクとするN=67を分母にし、各ランクのNを分子として、導き出された数値を基準に等間隔にもとのデータから順番にデータを抽出した。比較対象としての等量性を確認するために、Nの修正前と修正後の説明を行っている契約書の内容の項目数の平均値に対して95%の信頼区間でT検定をおこなった。

3.倫理的配慮

調査対象は全て無作為抽出により選出された事業所であり、回収方法は、被調査者個人が特定されることのないよう無記名による郵送返却とした。
   また、本調査は、認知症介護研究・研修東京センターの研究倫理委員会の承認を得て行った。

4.研 究 結 果

Nの数を調整した結果,ランクⅠのNは76,ランクⅡa・ⅡbのNは69,ランクⅢa・ⅢbのNは67,ランクⅣのNは66,ランクMのNは67となった。また、T検定の結果、各上限ランクの修正前-修正後間の間に差は見られなかった(ランクⅠ(P=-0.516)、ランクⅡa・Ⅱb(P=0.396)、ランクⅢa・Ⅲb(P=-0.558)、ランクⅣ(P=1.284))。
   クラスター分析の結果、質問項目に関しては2クラスターを最も解釈しやすいものとして採用した。第1のクラスターを構成する質問項目は、説明の対象として、本人を中心に、又は本人を含む形で行うという意見から構成されている。このことからこのクラスターを「本人を中心とした説明」とした。
   第2のクラスターは、家族を中心に説明を行うという質問項目から構成されている。このことからこのクラスターを「家族を中心とした説明」とした。
   同様に、上限ランクに関しては2クラスターを最も解釈しやすいものとして採用した。第1クラスターはランクⅣ、ランクMから構成された。第2クラスターはランクⅠ、ランクⅡ、ランクⅢから構成された。このことから、第1クラスターを「説明する上限ランクⅣ以上」、第2クラスターを「説明する上限ランクⅢ以下」とした。
   コレスポンデンス分析により算出された布置図をみると、「説明する上限ランクⅢ以下」の付近には「家族を中心とした説明」のクラスターが付置されている。また、「説明する上限ランクⅣ以上」の付近には「本人を中心とした説明」クラスターが布置された。このことは、契約書の説明を行う上限ランクをⅢ以下と回答した介護支援専門員は、家族を中心とした説明を行う傾向があることを示していると考えられる。逆に、契約書の説明を行う上限ランクをⅣ以上と回答した介護支援専門員は本人を中心とした説明を行う傾向があることが示されたと考えられる。
   以上の点を考えると、ランクⅠないしはⅡまでしか説明しないという集団は、もともと、認知症の利用者本人に説明を行う意識自体が低く、説明を行うモチベーションが低いのではないかと思われる。そのため、利用者の理解力の有無にかかわらず、説明の対象としては家族に行うことが多くなるのではないだろうか。また、ランクⅣ、ないしはMまで説明を行うという回答者は、説明に対するモチベーションが高く、できるだけ理解力の低下した利用者にも伝えようとする一方、いきすぎれば、かえって、利用者の理解を無視した形式的な説明になる、あるいは、介護支援専門員の独善的な行為に終始してしまうことがあるのではないかと思われる。
   なお、本研究は、厚生労働省平成17年度老人保健健康増進等事業における研究事業の一部として行われたものである.

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