自由研究発表高齢者福祉8  石川 久展

高齢者保健福祉専門職のネットワーク活用能力に関する実証的研究
   -在宅介護支援センターのケアマネジャーのネットワーク活用能力に関する因子分析を通して-

○ 関西学院大学  石川 久展 (会員番号0876)
関西学院大学  松岡 克尚 (会員番号1808)
キーワード: 《ケアマネジャー》 《ネットワーク》 《高齢者福祉》

1.研 究 目 的

介護保険制度は2000年4月にスタートし、今年で早9年目を迎えることになる。介護保険制度においては、介護支援専門員(ケアマネジャー)の働きが非常に重要である。ケアマネジャーは、保健・医療・福祉の連携をとりつつ、利用者の立場にたったケア計画を作成する必要があるが、そのためには保健・医療・福祉専門職間のチームワークをうまく活用する能力や社会資源のネットワーキングの能力が求められる。特に、2006年4月からの改正介護保険制度においては、より地域のネットワーク活用が求められている。ところが、わが国においては、ケアマネジャーをはじめとして高齢者の保健・医療・福祉に携わる専門職のネットワーク活用能力やその資質に関する研究は皆無に等しい。そこで、本研究は、高齢者保健・医療・福祉専門職の質の向上を目指し、ケアマネジャーに対してネットワーク活用能力や資質に関する量的調査を実施し、ケアマネジャーのネットワーク活用能力や資質の要因を分析することを目的とする。

2.研究の視点および方法

調査対象者についてはWAMNETに登録されてある全国の在宅介護支援センターの名簿の中から、ケアマネジャーが置かれていると予測される社会福祉法人系、医療法人系及び市町村設置の全在宅介護支援センター(1、753箇所)を無作為に抽出し、それらの在宅介護支援センターに勤務する介護支援専門員を調査の対象とした。なお、調査時点である2006年1月現在では、まだ地域包括支援センターが創設されていなかったので、在宅介護支援センターが調査対象となったことを断っておきたい。
   調査方法としては、郵送による質問紙調査を用いた。具体的には、各在宅介護支援センターに対して介護調査協力依頼文と質問紙を3部ずつ郵送し回答後返送してもらった。質問紙の配布総数は5,259、回収数は1,047、有効回収数は998であり、有効回答率は19.0%であった。調査期間は、2006年1月30日から2月15日であった。
   調査項目については、2005年度に実施した質的調査の結果に基づいて、ネットワーク形成に関する項目(19項目)、ネットワークを通じた授受関係に関する項目(16項目)、ネットワーク活用の困難点に関する項目(18項目)、ネットワークの維持に関する項目(16項目)、ネットワーク活用に必要な資質・能力に関する項目(30項目)を作成した。いずれも「非常にあてはまる」から「全くあてはまらない」までの4件法で尋ねたが、本研究では、この中でもネットワーク形成と必要な資質・能力に絞り、それらの結果のみを報告することとする。その他の項目としては、ネットワークの形成や維持にかける労力や時間、性別、年齢、職種、学歴、経験年数、職業的アイデンティティなどが含まれる。

3.倫理的配慮

対象者への調査協力依頼文には、本研究の主旨を記載し、調査への協力は自由意思であり、強制ではないこと、無記名でプライバシーの保護がされることを明記し、倫理的な配慮を行った。

4.研 究 結 果

調査対象者の属性であるが、平均年齢は43.2歳(SD=9.0)であった。年代別には、「40歳代」が34.1%と最も多かった。性別については、女性が77.1%(769人)、男性が22.9%(229人)であり、女性が8割近くを占めていて。職種別には、「介護福祉士」が41.5%であり、次に「看護師」が24.8%、「ソーシャルワーカー」が25.1%、「保健師」が2.5%と続いた。学歴の結果は、「高等学校」が20.2%、「専門・専修学校」が38.7%、「短大・高専」が15.8%、「4年制大学」が23.8%であった。
   次に、ネットワーク形成、維持、必要な資質や能力について因子分析を用いて分析した。抽出方法としては、いずれも主因子法、さらにバリマックス回転を用いた。
   形成については、全部で19項目あったが、最初の分析の結果、1項目を取り除くこととし、18項目を分析対象としたが、4つの因子が抽出された。第1因子には、他の人とつながりをもつことに関連する項目が集まっており、「コンタクト関連」と名付けた。第2因子は「ネットワーク源の確保や連絡」、第3因子には、「地域でのつながり」、第4因子には「情報収集」と名付けることができた。ネットワーク形成18項目の信頼性についてであるが、cronbachα係数は0.859であり、十分な信頼性は確保された。
   次に、ネットワーク活用に必要な資質や能力についてであるが、全部で30項目あったが、最初の因子分析の結果、不安定な項目が4つあったので、それら4つを削除し、残り26項目を用いて再度分析した。その結果、3つの因子が抽出された。第1因子は12項目からなるが、利用者尊重、礼儀作法、一緒に苦労する、真摯な態度、信念をもつなどの項目があり、「基本的な態度・姿勢」と名付けた。第2因子には、10項目含まれるが、内容的には知識がある、話の整理ができる、明確に考えを伝えることができる、駆け引き上手などの項目があることから「基本的な知識や技術」と名付けた。第3因子には、4項目含まれるが、「他者への働きかけ」と名付けた。これら26項目の信頼性について、cronbachα係数を用いて検討したが、α係数は0.959であり、非常に高い信頼性を確保することができた。

5.考 察

ネットワーク形成と資質や能力で抽出された因子については、発表者たちが平成15年度に現場のケアマネジャー全24人を対象として行ったフォーカスグループインタビューから得られた結果をほぼ裏付ける結果となった。ネットワーク形成では、地域においてコンタクトやつながりをしっかりと持つケアマネジャーはネットワーク形成ができる可能性大であること、また、ネットワーク活用の資質や能力に関しては、人間関係における基本的な姿勢や態度を持つ人、コミュニケーションが十分に取れる人などがあげられている。
   これらの資質や能力については、今後、専門職の研修等において重点的に高めていくことが必要であろう。

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